万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

もしも日米安保条約が破棄されたならば?

2019年06月26日 14時48分31秒 | 日本政治

昨日、日本国内では、トランプ大統領の日米安保条約破棄発言がセンセーショナルに報じられました。日本国政府が即座に火消しに奔走し、かつ、発言内容も基本的には従来の主張の焼き直しではあるものの、良好とされる日米関係に冷や水を浴びせるようなショッキングな出来事であったことは確かなようです。

 

 前回の大統領選挙におけるトランプ大統領の日米安保に対する問題提起は、今日なおも水面下では燻り続けています。政府の役割は、最悪の事態をも想定して対応を準備することにありますので、この問題は、仮に日米安保条約が破棄された場合どうするのか、という問題をも提起しています。それでは、仮に日米安保条約が破棄されたと仮定した場合、日本国は、どのように対応すべきなのでしょうか。

 

おそらく、与野党ともに党内に抱え込んでいる親中派の人々は、即座に中国との軍事同盟を主張することでしょう。しかしながら、一党独裁体制の下で強固な国民監視体制を構築し、チベット人やウイグル人に対して非人道的な弾圧を繰り返してきた中国との同盟に対して、日本国民の大多数は強固に反対することは疑いようもありません。

 

また、米中対立の中での日中同盟は、単にアメリカ陣営から中国陣営への鞍替えを意味するに過ぎず、戦争の可能性が低下するわけでもありませんので、戦争反対の立場から安保条約に反対してきた人々も、ここでしばし逡巡することになりましょう。中国が日本国との軍事同盟を望む以上、それは、アメリカを仮想敵国としているとしか考えられず(軍事的な脅威、あるいは、‘共通の敵’が存在しなければ、同盟を結ぶ積極的な理由はない…)、最悪の場合には、日本列島が中国の‘軍事要塞’と化して、最前線で米軍と闘わなければならなくなるからです。しかも、日米同盟が切れたとはいえ、第二次世界大戦前夜のような日米が対立する決定的な対立要因もないのです。これでは、平和主義からはほど遠いと言わざるを得ません(たとえ、対米戦争において中国陣営が勝利したとしても、中国は‘日本国捨て石作戦’に躊躇しないでしょうから日本の国土が焦土と化し、日本国民に甚大な被害が発生する可能性も…)。中国との軍事同盟路線の先には悲劇的な結末が待ち受けているとしますと、日本国には、他の選択肢があるのでしょうか。

 

中国がダメであれば、ロシアが同盟国となれば、日本国の安全は確保されと主張する人々も現れるかもしれません。しかしながら、北方領土問題に加えて、ロシアの強権主義的な体質に対して日本国民は反感を抱いておりますので、中国との同盟と同様に、日本国民の賛意を得ることは困難です。また、米ロ対立下にあっての戦争リスクは、上述した日中同盟と変わりはないのです。

 

一方、対米共闘の構図ではなく、将来的にユーラシア大陸の支配をめぐってロシアと中国との対立が先鋭化するに至った場合、両国は、日本国の軍事力を当てにして日本国に対して同盟を求める強い動機が生まれます。しかしながら、何れと軍事同盟を結んだとしても、日本国が中ロ戦争に巻き込まれる事態を招くことにもなりましょう。

 

かくして軍事大国との同盟がリスク含みであるならば、中小国家との同盟を模索する勢力も登場することでしょう。朝鮮半島の南北両国、東南アジア諸国、台湾との軍事同盟などが想定されますが、NPT体制によって核戦力において力不足となる点に加えて、通常兵器にあっても劣勢は否めない状況にあります。加えて、各国共に‘仮想敵国’が違うのですから、中小国を大国と匹敵するほどの勢力となるまで纏め上げることも、不可能とは言えないまでも容易なことではありません。

 

それとも、日本国政府は、北大西洋に位置しているわけではないものの、価値の共有を根拠としてNATOへの加盟を試みるべきなのでしょうか。価値観の共有という側面において、中ロとの同盟よりは遥かに日本国民の支持を集める可能性があります。試みるだけの価値はあるのですが、中心国であるアメリカは他国防衛の負担を軽減するために日米同盟の破棄を言いだしており、NATOのメンバー国に対しても同様の方針で迫っている中で、日本国をNATOの新たなメンバーとして受け入れるかどうかは未知数です。ただし、米国がNATOから抜け、結果的に、日本国が米国抜きのNATO、あるいは、EUもしくはイギリスと同盟を締結するという選択肢もあるかもしれません。東西から中ロを挟むという形で(もっとも、弱小連合になりかねない…)。

 

以上に述べたように、アメリカ以外の国との同盟にはリスクも困難も伴うのですが、それでは、国際社会の平和に責任を負う国連に期待すべきなのでしょうか。日本国憲法の第9条は、万が一、他国から侵略を受けた場合における国連による‘救済’を想定していたとされています。しかしながら、日本国を取り巻く中国、ロシア、そして、アメリカも国連安保理の常任理事国であり、いずれも事実上の‘拒否権’を有しています。乃ち、国連による‘救済’も絶望的であり、待てども暮らせどもいつまで待っても国連は姿を現さないことでしょう。

 

となりますと、仮に日米安保条約が消滅した場合の日本国が採り得る最も可能性の高い防衛政策の方針は、何れの国とも同盟関係を結ばない自力防衛と云うことになりましょう。つまり、日米同盟政策の次に来る次善の策は、非同盟政策となる可能性が高いのです。それでは、日本国の非同盟政策は、実現可能なのでしょうか。そして、孤立主義に陥らず、新たな国際秩序を構築するプロセスとしての非同盟政策はあり得るのでしょうか。この問題については、核武装問題も含めて長くなりますので、本日の記事はここまでとし、後日、考えてみたいと思います。

 

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