万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

共産主義はイデオロギー・民主主義は原則

2019年06月18日 18時21分41秒 | 国際政治
一党独裁体制を維持している中国では、兎角に自由主義国の民主主義体制を批判し、自国の国家体制の優越性を主張しています。このため、共産主義の反対語は民主主義とする錯覚も生じるのですが、両者を比較しますと、全く別次元に位置しているように思えます。

 共産主義とは、その真の発案者は別にあるとしても、19世紀中葉にカール・マルクスという一人の思想家によって編み出された思想です。このため、同思想は、マルクス主義、あるいは、それを革命として実践したレーニンを加えてマルクス・レーニン主義とも称されており、思想家の名前と結びつけられています。すなわち、共産主義体制の根拠とは、数多ある思想の一つに過ぎず、イデオロギーと称されるのもその教義化された思想性にあります。この点、キリスト教、仏教、並びに、イスラム教のように教祖の下で教義が説かれ、教典や聖典として確立している宗教に近いとも言えましょう。

もっとも、宗教の場合には、神の領域にあるためにその教義の誤りを指摘することは困難を伴いますが、イデオロギーの場合には、俗人が提唱した思想ですので、その間違いを比較的容易に見つけ出すことができます。言い換えますと、特定のイデオロギーに基づいて建国された国家は、一切の誤りのない思想は殆どあり得ませんので、極めて脆いのです。プロレタリアート独裁を根拠に共産党の一党独裁を認めた共産主義も既に論理破綻しており、この点を考慮しますと、中国の共産主義国家体制は長続きするはずはないのです。

その一方で、民主主義は、国家体制として制度化されている点においては共産主義と共通していますが、特定の思想に基づいているわけではありません。民主主義とは、国民こそが統治権力の源泉であり、あらゆる権力は国民より発するとする基本原則であり、統治上の価値です。民主主義国家とは、普通選挙を始めとしてこの基本原則に基づいて設計されているのであり、国民がこの原則に合意することで‘支配の正当性’が確保されているのです。誰もが認める価値であるからこそ、イデオロギーのように論理破綻によって体制が崩壊することもありません。否、より民主主義の価値を具現化できるよう、常に制度の洗練化や発展が志向されるのです。つまり、民主主義は、永遠なのです。

このように考えますと、中国が、民主主義国家を批判するのは、お門違いと言うことになりましょう。もしかしますと、敢えて共産主義対民主主義の対立構図を演出することで、自らの思想における民主主義の欠落を誤魔化そうとしているのかもしれません。共産主義国家が全世界の覇者となれば、民主主義国家共々に人類普遍の原則であり、かつ、価値である民主主義葬り去ることができるかもしれないのですから。

目下、香港では、条例改正への反対を通して中国共産党政権に対する抵抗運動が起きていますが、中国共産党は、共産主義という自らの国家体制の基盤の脆弱性こそ自覚すべきなのではないでしょうか。そして、人々が、何故、国家が国民を一方的に監視し、自由を束縛し、かつ、権力の源泉を国民ではなくイデオロギーに求めて独裁を強制する体制を嫌うのか、考えてみるべきではないかと思うのです。

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コメント (8)
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