万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

イラン情勢-戦争の発端は‘藪の中’

2019年06月21日 17時25分12秒 | その他

近現代の戦争には、古代や中世にはあまり見られない特徴があります。それは、戦争の発端がしばしば‘藪の中’となることです。各国、あるいは、国際勢力が開戦の責任を転嫁するため、あるいは、戦争を正当化するために、盛んに工作活動を展開するからです。今般、日本国の安倍晋三首相がイランを訪問したまさにその時、日本企業保有のタンカーが砲撃を受けましたが、これもまた諸説が入り乱れ、どの組織による犯行なのか事件の真相は不明のままです。米軍無人機も撃墜されていますので、革命防衛軍であれ何であれ、イランによる犯行である可能性は高いのですが、それを確定することができないのです。

 第一次世界大戦はセルビアの一青年による‘サラエボの一発の銃弾が引き起こした’とされていますが、謎がないわけではありません。教科書的には、オーストリアによる1908年のボスニア・ヘルツェゴビナの併合に反対し、大セルビア主義の夢に酔ったボスニア系セルビア人、プリンチップがオーストラリア皇太子夫妻を狙撃した暗殺事件として説明されています。しかしながら、プリンチップの所属した「青年ボスニア」に注目しますと、同組織には、ボスニア系ムスリムやボスニア系クロアチア人も含まれていることに加え、その信奉するイデオロギーもユーゴスラビア主義と汎セルビア主義の二本立てでした。しかも、ドイツ・ロマンティズム、無政府主義者、ロシア系革命主義、ドストエフスキー、ニーチェ、反トルコ主義からも影響を受けていたおり、雑多な思想が入り混じっていたそうです。また、セルビア軍の秘密結社であった「黒手組」からも支援を受けており、その「黒手組」もフリーメーソン等と国際組織との繋がりに関する噂もあります(「青年ボスニア」は、ドイツやイタリアの同様の組織をモデルとしているが、日本国の‘維新の志士’や「青年トルコ」等も同系統かもしれない…)。パレードのコースの変更などケネディ大統領暗殺事件と類似する組織的な工作の痕跡も見られ、幾重にも組織がオーバーラップするサラエボ事件については、真の犯人を見極めることが極めて困難なのです。

 現代の戦争の発端が不透明となる理由は、真の目的、あるいは、計画者を一般の人々の目から隠す必要があったからなのでしょう。盧溝橋事件等にも同様の指摘ができますが、今般のイランをめぐる状況を見ますと、その不透明性こそが、戦争の前兆のようにも思えてきます。そして過去の歴史からしますと、それは、おそらく、上部から敵味方とされる両国の双方において巧みに操られ、流されるままに戦争へと誘導されるのでしょう。しかし、過去の歴史を教訓といたしますと、防ぐ手立てはあるかもしれません。いずれにいたしましても、何れの国の国民であれ、また、如何なる利害関係に身を置く者であれ、相互に善良な一般の人々を殺害し合い、人類文明を破壊するような戦争は防ぐべきです。人類は、教科書ではなく、真の歴史の教訓にこそ学ぶべきなのではないではないかと思うのです。
コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする