万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

AI時代の最大のビジネスは‘仕事づくり’?

2019年06月12日 13時49分01秒 | 社会
 AI時代の到来は、仕事というものをAIやロボットに任せて、人類が労働から解放される理想郷とみなす楽観的な期待論がある一方で、AIやロボットに仕事を奪われて、多くの人々が自己の存在意義を見失う社会の空虚化を予測する悲観論もあります。何れにせよ、人類が未経験の世界が出現するのですが、少なくとも、AIが、現在、人々が従事している仕事の多くを代替することだけは確かな事です。それでは、AI時代にあって最も人々のニーズが高く、かつ、急拡大が予測されるビジネスとは、どのようなものなのでしょうか。

 AI時代の特徴とは、急激なる雇用機会の減少です。人々は、就業したくとも、自らよりも能力が飛びぬけて高く、かつ、低賃金で半永久的に働いてくれるAIと競争するのですから、およそ勝ち目はありません。ある研究調査に依りますと、現在の労働人口の半数はAIにとって代わられますので、AI時代とは、大量失業時代ともなりましょう。悲観論者が懸念するように、人々は経済や社会との絆や居場所を失い、生き甲斐を求めて虚ろな瞳で空虚な空間を彷徨いかねません。あるいは、丸一日、自室でスマホを手にゲームや動画に熱中したり、バーチャル・ゲームやe-sportに興じているのでしょうか。心の空白を埋めるために、薬物に依存する人も増加するかもしれません。

 ここで人々は、‘生き甲斐’と‘報酬’いう問題に直面することになります。従来、‘生き甲斐’とは、主として、社会の一員として人々に貢献している意識から発する自己肯定観として理解されてきました。自らが社会に役立っているとする自己認識が、この世に生を受けた意義を感じさせ、満足感や喜びと結びついてきたのです。そしてそれは、同時に、生活を営むために必要となる報酬を得ることでもありました。善き経済や社会とは、人々の‘生き甲斐’と‘報酬’が上手に対応しながら連鎖し、人々の満足感が高い状態を意味してきたのです(マルクスは人々の絆を貨幣に求めましたが、仕事こそ人々を繋いでるのでは…)。ところが、AI時代に至りますと、‘生き甲斐’を提供してきた‘仕事’が失われますので、人々は、社会から切り離されると同時に、‘報酬’という所得を得る機会まで失ってしまいます(もっとも、‘生き甲斐’はなくとも‘報酬’があればよいとして我慢しながら仕事をしている方もおられましょうが、AI時代には、その‘報酬’さえも得る機会が失われます…)。

 ここで、ベーシックインカムを唱える人の登場も予測されるのですが、‘生き甲斐’と‘報酬’という面から見ますと、同制度には両者の繋がりがありません。人々は、給付金であれ、物品であれ、政府から配給を受けるだけの存在に堕してしまい、無気力が蔓延した社会・共産主義体制と然程にはかわらなくなるかもしれないのです。AIという最先端のテクノロジーが人類を退化させると共に個々の能力を埋没させ、さらにはこの世に失望させるとしますと、人類は、救いようのないパラドックスに陥いることとなります。

そこで、AI時代にあってなおも人々が‘生き甲斐’と‘報酬’の関連性を求めるならば、最も高いニーズとは、‘仕事’そのものということになりましょう(もちろん、‘生き甲斐’の対象として‘家庭’や‘趣味’ということもあるものの、これらは本人の意思次第で得ることができますし、‘報酬’の部分が欠けている…)。AIやIT関連のエンジニアの雇用は増加するでしょうし、起業家精神を発揮して自らの仕事をつくる人もおりましょうが、このように考えますと、一般の人々を対象に、個々の個性や能力に合わせて就業し得る‘仕事’を創り出す、あるいは、コンサルタントとして提案するビジネスこそ、最も社会の役に立つ‘仕事’となるかもしれないのです。あるいは、民間ビジネスではなく、政府が行政サービスの一環として専門部署を設け、相談窓口を設置する方法もありましょう。さらにAIが進化すれば、その‘頭脳’を活かして、人のために新な“仕事”を考案させる仕事を任せることもできるようになるかもしれません(もっとも、AIが人類を奴隷化しても困りますが…)。

実のところ、この側面は、経済や社会から切り離されている点において今日の引き籠り問題の解決とも類似しています。あるいは、AI時代に備えた実験として、引き籠もりの人々を対象とした‘仕事づくり’というビジネスを試みるのも一案となりましょう。何れにせよ、AIの普及が経済や社会全体に変化を迫る以上、人類は、その高い知性を以ってそのマイナス面をでき得る限り軽減すべきではないかと思うのです。

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コメント (10)
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