スマートフォンといった携帯端末の出現は、社会におけるコミュニケーションの在り方を一変させてしまいました。今では、IT大手が運営するSNSが他者と関わる主たる手段となっている人も少なくありません。しかも、SNSといったネットサービスは無料であるものの、それと引き換えに、ユーザーは利用規約によって位置情報や交友リストなど自らに関する個人情報の一切を事業者に提供する義務を負わされています。このため、IT大手は、個々のユーザーの行動や思想傾向のみならず、人間関係をも全てデータ化して管理することができるのです。
IT大手は、情報・通信サービス事業と云う名において社会全体をコントロールする手段を手に入れているのですが、社会分野に留まらず、その支配的な野心は、今や経済の分野にまで及びつつあります。IT大手の中には、GAFAの一角を成すアマゾンのように人々の消費行動を把握し得る通販ネットワークを構築した事業者もおりますが、今般、これらの事業者は、本業の事業展開に伴ってグローバルレベルに広げた自社のネットワークを金融分野に転用しようとしています。中国の通販大手のアリババは、既にブロックチェーン技術を用いた国際決済サービス事業に着手していますし、フェイスブックもリブラ構想への参加を打ち上げています。
単一通貨を想定するこれらのケースでは、従来民間の銀行が行ってきた送金や決済業務のみならず、将来的には通貨発行権の掌握をも視野に入れているかもしれません。例えば、リブラは、米ドルやユーロ、あるいは、安定的な公債を準備として発行される予定であり、マイニングを要するビットコインとは異なる‘ステーブルコイン’とされているものの、よく考えても見ますと、ブレトンウッズ体制にあっては金・ドル本位制と称されたように、米ドルの準備高がその国の通貨発行量とリンケージしていました。管理通貨制度に移行した今日でも、為替決済を通して中央銀行は通貨を供給しています。また、特に公開オペレーションの買いオペは、債権を準備とした通貨供給の一面がないわけではないのです。つまり、リブラの発行機関は、事実上、国家の中央銀行と同様の機能を有しているということができるのです。通貨供給量を人為的に調整できる点において、リブラは、ビットコインよりも国家が発行している既存の公定通貨に近いとも言えましょう。なお、仮にリブラが許されるならば、如何なる私人、あるいは、民間団体であっても、独自に通貨を発行することが可能となります。
IT大手が個々人の消費行動、所得、金融資産、投資行動といった経済に関わるおよそ全ての情報を掌握すると共に、自らが既存の銀行や中央銀行の役割をも兼任するとなりますと、IT大手は、民間事業者でありながら、経済全体を支配する強力な手段を手に入れることとなります。それでは、IT大手による国境を越えた経済支配を防ぐことはできるのでしょうか。
最も有効性が高いと期待できる手段とは、競争法の活用です。競争法上の取締行為の類型の一つに‘集中規制’と呼ばれるものがあります。これは、財閥や企業グループが経済全体を支配するほどに巨大化しないように歯止めをかけるための規制なのですが、これらが参入し得る事業数や業種に対して制限を設けています。‘集中規制’の観点からすれば、IT大手による異業種への参入は、競争法によって規制されて然るべきように思えます。つまり、社会のみならず、経済をも同時に支配する恐れのあるIT大手による金融事業に対しては、その参入を認めないというのも一案です(現行の競争法では難しいのであれば、法改正も必要かもしれない…)。そして、こうした規制は、情報の収集を伴う交通インフラの支配という側面において、中国IT大手のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)、並びに、アップルやグーグルによる自動運転システムの開発についても適用すべきようにも思えるのです。
よろしければ、クリックをお願い申し上げます。
にほんブログ村
IT大手は、情報・通信サービス事業と云う名において社会全体をコントロールする手段を手に入れているのですが、社会分野に留まらず、その支配的な野心は、今や経済の分野にまで及びつつあります。IT大手の中には、GAFAの一角を成すアマゾンのように人々の消費行動を把握し得る通販ネットワークを構築した事業者もおりますが、今般、これらの事業者は、本業の事業展開に伴ってグローバルレベルに広げた自社のネットワークを金融分野に転用しようとしています。中国の通販大手のアリババは、既にブロックチェーン技術を用いた国際決済サービス事業に着手していますし、フェイスブックもリブラ構想への参加を打ち上げています。
単一通貨を想定するこれらのケースでは、従来民間の銀行が行ってきた送金や決済業務のみならず、将来的には通貨発行権の掌握をも視野に入れているかもしれません。例えば、リブラは、米ドルやユーロ、あるいは、安定的な公債を準備として発行される予定であり、マイニングを要するビットコインとは異なる‘ステーブルコイン’とされているものの、よく考えても見ますと、ブレトンウッズ体制にあっては金・ドル本位制と称されたように、米ドルの準備高がその国の通貨発行量とリンケージしていました。管理通貨制度に移行した今日でも、為替決済を通して中央銀行は通貨を供給しています。また、特に公開オペレーションの買いオペは、債権を準備とした通貨供給の一面がないわけではないのです。つまり、リブラの発行機関は、事実上、国家の中央銀行と同様の機能を有しているということができるのです。通貨供給量を人為的に調整できる点において、リブラは、ビットコインよりも国家が発行している既存の公定通貨に近いとも言えましょう。なお、仮にリブラが許されるならば、如何なる私人、あるいは、民間団体であっても、独自に通貨を発行することが可能となります。
IT大手が個々人の消費行動、所得、金融資産、投資行動といった経済に関わるおよそ全ての情報を掌握すると共に、自らが既存の銀行や中央銀行の役割をも兼任するとなりますと、IT大手は、民間事業者でありながら、経済全体を支配する強力な手段を手に入れることとなります。それでは、IT大手による国境を越えた経済支配を防ぐことはできるのでしょうか。
最も有効性が高いと期待できる手段とは、競争法の活用です。競争法上の取締行為の類型の一つに‘集中規制’と呼ばれるものがあります。これは、財閥や企業グループが経済全体を支配するほどに巨大化しないように歯止めをかけるための規制なのですが、これらが参入し得る事業数や業種に対して制限を設けています。‘集中規制’の観点からすれば、IT大手による異業種への参入は、競争法によって規制されて然るべきように思えます。つまり、社会のみならず、経済をも同時に支配する恐れのあるIT大手による金融事業に対しては、その参入を認めないというのも一案です(現行の競争法では難しいのであれば、法改正も必要かもしれない…)。そして、こうした規制は、情報の収集を伴う交通インフラの支配という側面において、中国IT大手のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)、並びに、アップルやグーグルによる自動運転システムの開発についても適用すべきようにも思えるのです。
よろしければ、クリックをお願い申し上げます。
にほんブログ村