万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

自由や民主主義の希求は人類の本性では?

2019年06月11日 17時22分01秒 | 国際政治
香港の「逃亡犯条例」で米国務省報道官が「重大な懸念」表明
香港では、「逃亡犯条例」の改正をめぐって大規模な反対デモが起きる事態となりました。犯罪者を中国本土に引き渡すとする改正案ですが、その意味するところは、一国二制度の静かなる侵食に他なりません。中国大陸において僅かに香港に残されていた自由の空気は、今や失われつつあります。

 共産党一党独裁体制を敷く中国では、殺人や窃盗といった通常の刑事事件の犯罪者の他に、政治犯や思想犯が存在しています。同体制を否定し、自由化や民主化を求める人々こそ‘犯罪者’であり、同条例が改正されますと、香港は、これらの人々に対する‘避難所’の役割を最早果たせなくなりましょう。つまり、同条約の改正は、期限付きではあれ、香港に認められている自由や民主主義に対する深刻な脅威なのです。このため、主催者側の発表では103万人とされる香港市民がデモに参加したのであり、同デモは、条例改正そのものに対する反対以上に重い意味を持つのです。

 その一方で、中国政府は、100万デモは、外国の勢力が組織した反中活動の一環と見なしています。米中貿易戦争からしますと、おそらく、中国を内部から弱体化するためのCIA等による工作活動を疑っているのでしょう(あるいは、香港という場所からしますと、MI6をも疑っているかもしれない…)。中国政府の説明に従えば、香港市民は自発的にデモに参加したのではなく、これらの組織に扇動された、あるいは、動員されたに過ぎないことになります。

 確かに、外国勢力の介入や活動が絶対にないとは言い切れないのですが、香港市民に自由や民主主義を求める心が存在していなければ、扇動や動員という方法は全く効果がないはずです。外部勢力の介在の如何に関わらず、人々が、自らの心の内において自由や民主主義を求めているという事実こそ、動かし難いのではないかと思うのです。つまり、中国政府は、大規模デモの責任を外国勢力に転嫁しようと試みていますが、直視すべきは、香港市民、そして、中国の一般国民の本心なのではないでしょうか。

 自由も民主主義といった諸価値は、人という生物の本性に根差したものです。それが時には悪用さることはあっても…。中国政府は、一般の中国国民の本心が表出しないよう、最先端のIT技術を駆使して全国民監視体制の強化を急いでいますが、本質に根付かないものは長続きはしないものですので、何らかのきっかけで、一党独裁体制が崩壊する可能性も否定はできないように思えるのです。

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コメント (8)
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