万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国による‘金融自爆テロ’に警戒を

2019年06月17日 13時30分30秒 | 国際経済
鄧小平氏による改革開放路線への転換により、中国は、極めて短期間に世界第2位の経済大国に伸し上がりました。同国の急成長を支えてきたのは外資や先端技術の導入であり、このため、中国は、輸出攻勢で一帯一路構想を打ち上げる程に外貨準備を積み上げ、周辺諸国を‘借金漬け’にしながら、自らも膨大な額の外貨建ての債務を抱えることとなったのです。

 冷戦期にあっては、西側諸国はソ連邦をはじめとした東側に対する資金や技術の流出に殊の他警戒し、神経をすり減らしていたことに鑑みますと、冷戦後の中国に対する態度は寛容すぎる程に寛容でした。あるいは、同国が堅持した共産党一党独裁体制は、西側諸国の金融・産業界にとりましては、投資リターンを最大化するには好都合ですらあったかもしれません。共産党の強力な統制力の下で、低賃金・低価格の生産が実現するのですから。かくして、軍事・政治的リスクは脇に追いやられ、両者の対立を絶対視した共産主義思想にあってはあり得ない、‘資本主義国’と‘共産主義国’との蜜月時代が到来したのです。

 しかしながら、アメリカにおけるトランプ政権の誕生は、こうした両者間の関係が終焉に向かう重大な転機となりました。そして、米中対立の長期化が予測される中、中国が米ドルに代わって金準備を積み増して金本位制への移行を目指すと同時に、米ドル基軸通貨体制の崩壊を狙っているとする指摘も聞かれるようになりました。仮に、このシナリオが存在するとすれば、中国は、‘金融自爆テロ’とでも称すべき戦略を選択する可能性もないわけではありません。

 ‘金融自爆テロ’とは、自国の債務の大半が外貨、即ち、米ドルであることを逆手にとった習近平政権によるデフォルトの容認です。そのトリガーとなるのは、アメリカの銀行ではなく膨大な対中債権を抱えるドイツ銀行ではないかとする憶測もありますが、この結果、全世界の金融機関が抱える対中債権の大半が不良債権化、あるいは、回収不能となる可能性があるのです。リーマンショックでも観察されたように金融の世界は複雑なヘッジ関係で連鎖しており、多重的なデリバティブを介して金融危機は全世界に波及します。つまり、中国は、デフォルトを容認することで自らの債務を消滅させ、借金という頸木を振り払うと同時に、アメリカをはじめとした自由主義国の金融システムに破壊的なダメージを与えるかもしれないのです。

 金融危機が発生すれば、自由主義諸国の金融機関の融資能力は著しく低下すると共に、FRBによる救済的な量的緩和策から米ドル相場の下落も予測されます。これを機に中国が金本位制へと移行すれば人民元の信用は一気に上昇し、米ドルに代わる貿易決済通貨としての立場を得ることもできるかもしれません。アメリカは、暫くの間は金融危機への対応に忙殺され、中国脅威論に対する国民の関心も薄れることでしょう(ただし、中国が金本位制に耐えうるほどの金を保有することができるか否かは不明ですし、このシナリオは失敗に終わる可能性が高い…)。

 そして、さらに厄介な点は、国際基軸通貨としての米ドルの地位の凋落を望んでいるのは、中国のみならず、国際金融勢力の中にも存在していることです。となりますと、同シナリオは、中国単独なのか、それとも、合作なのか判断が難しくなるのですが、少なくとも日本国政府、並びに、金融機関や企業は、同シナリオの可能性をも考慮しながら、対中政策や経営戦略を見直し、中国発の金融危機にも動じないよう、‘いざ’と言う時に備えるべきではないかと思うのです。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。

にほんブログ村 政治ブログへ
にほんブログ村
コメント (16)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする