Art Farmer / The Time And The Place ( 米 Columbia CL-2649 )
ようやくきれいな初版を見つけた。 これは私にとってはあの世に行く際に持っていく数枚の中の1枚。 特に傑作と大げさに騒ぐような内容ではないけど、
このライヴ演奏の中にたち込めているある種の雰囲気がどうしようもなく好きなのだ。
アート・ファーマーのレコード群を注意深く見ていくと、実にいろんなことをやってきた人だったんだなあということがわかる。 ジャズ・トランペッターとして
(フリーを除く)ありとあらゆる形態の音楽に取り組んできたんじゃないだろうか。 しかも、それが自身の音楽的探究の軌跡として作品が流れるように
記録されているのではなく、順不同でいろんな形式のアルバムが発表されている。 ピアノレスのカルテットをやっていたかと思えば、急にオーケストラと
共演したり、欧州で録音したかと思えば、アメリカで2管ハード・バップをやったりする。 マイルスやゲッツのように、ディスコグラフィーが意識の流れとして
並んでいることはなく、既に音楽的遍歴や訓練は修了していて、至る所からどんな種類の仕事の声がかかってもすぐに対応できた、なんだかそんな感じがする。
このアルバムも前後の脈絡なく、唐突に登場している。 日常的に行っていたライヴのひとコマを切り取ったような、スナップショットのような1枚。
何の野心もなく、信頼できる仲間が集まって如何にもこの人らしいとても端正で、そしてライヴに相応しい適度な覇気をもって演奏をしている。
時代背景的にハード・バップを通過して少しポピュラー音楽に寄ったところがあるけれど、それが非常にうまく主流派ジャズに溶け込んでいて、何とも言えず
いい雰囲気を醸し出している。 観客の反応もすごく良くて、みんな大きな歓声を挙げながら拍手している。 まあ、最高なのだ。
普段はバラードとして演奏される "いそしぎ" はドラマチックな演出を施した男性的な表情になっていて、これがカッコいい。 また、通好みの佳曲である
"Make Someone Happy" や "On The Trail" もとても上手く演奏されていて、これらの曲の筆頭とも言える仕上がりになっている。 どの曲も最高だ。
ジミー・ヒースも、それまでのスタジオ録音での印象の残らない凡庸な演奏家、という印象を完全に覆す素晴らしい演奏をしていて、これがすごくいい。
シダー・ウォルトンもアドリブラインとは思えないくらいメロディアスなフレーズを連発していて、音楽的な完成度の最後の仕上げに大きく貢献している。
どの演奏陣も、最高にいい。
このレコードを聴くたびに、心の底から幸せな気分になれる。 演奏が終わり、レコード針がラン・アウトを走るたびに、ジャズは素晴らしいと感激する。
アートのレコード、数種のレーベルで聴いてきました。
おっしゃるように、様々な仕事をしてきた。どれも水準が高いですね。
私が好きなのは、初めて買ったオリジナルということもあるんですが、"SING ME SOFTLY OF THE BLUES"というアルバムです。
今回ブログのレコード見かけたら、マジ、ゲットします。
"The Time~" はsenriyanさんのお口に合うかどうかわかりませんが、まあ、安いレコードなんで、ぜひ聴いてみてください。 30年来の愛聴盤です。
あまりにもライヴらしい演奏のノリなんですよね。 拍手の音量が不自然に操作されている箇所があるので、オーヴァーダブっぽいですが、
それにしては5人の演奏が生演奏っぽいと思います。
真贋のほどはさておき、これはとてもいい音楽になっているのは間違いないですよね。