Charles Mingus / Mingus, Mingus, Mingus, Mingus, Mingus ( 米 Impulse! A-54 )
新作の組曲構成だった「聖者」に対して、こちらは自作の名曲たちの再演を軸にしている。マリアーノ、クィンティンらの1月録音と
ドルフィー、ブッカー・アーヴィンらの9月録音のブレンドだが、微妙に違うサウンド・カラーが絶妙に混ざり合い、全体が何とも言えない
深い色合いを帯びている。
管楽器たちが皆、泣いている。ある時は物悲しい顔で、ある時は笑顔を浮かべながら泣いている。音楽にそういう表情がある。
ミンガスの深い想いが演奏者たちを通してそのまま表現される。あまりのストレートな感情表現に身がすくんでしまうくらいだ。
そういう情感が、乱暴にむき出しのまま提示されるのではなく、あくまでも高度に洗練された音楽として示されるところに
この人の音楽家としての矜持が見える。ミンガスは楽曲の力を信じていたようで、常に楽曲を大事にした。
曲作りにはキャリアの初期から力を入れてきたし、重要な自作の楽曲は繰り返し録音した。だからこそ、彼の音楽は心に刺さるのだ。
ヴァン・ゲルダーのマスタリングも頂点を思わせる仕上がりで、この音場感こそがミンガスの音楽には相応しい。これを聴いた後では、
他のレーベルのアルバムを聴く気が失せてしまう。チャーリー・マリアーノのアルトの美しさは筆舌に尽くし難い。
ミンガスの音楽については、アルバム芸術という意味では「聖者」とセットにして、これが最高傑作。物悲しく、力に溢れ、音楽が
生き生きとした様があまりにヴィヴィッドで素晴らしい。これを聴いている間は、これ以外の音楽などいらない、といつも思わされる。