Charles Mingus / The Black Saint And The Sinner Lady ( 米 Impulse! A-35 )
コルトレーンがそうであったように、ミンガスもこのレーベルと契約するにあたってはラージ・アンサブルで録音することを条件としたのでは
ないか、と想像する。当時のマイナー・レーベルではそれだけの予算を確保することができず、なかなかそういう演奏はできなかった。
インパルスは親会社のABCパラマウントがバックに付いていたので、そういう面では融通が利いたのかもしれない。
エリントン命だったミンガスの頭の中では、常にこういう形態の音楽の構想があったのだろう。アンサンブルのアレンジはエリントンのそれを
踏襲していて、ザ・ダーク・サイド・オブ・デューク・エリントンという雰囲気になっている。サックス群の分厚い通奏重低音が響く中、ホッジス役の
チャーリー・マリアーノのアルトが艶めかしい。驚くことにクェンティン・ジャクソンを招いていることもあり、エリントン・カラーが濃厚に
出ている。エリントン以外でここまでエリントン・カラーに迫った例を知らない。
これを聴いていていつも感じるのはジャズの古い歴史と伝統に忠実に沿ったオーソドックスさで、これがミンガスの本質である。
ここでは黒人社会の民衆的土着信仰を土台に、聖者と罪人というダーク・メタファーを使って舞踏の時間を表現している。
その際にどこまでも深いエリンントン・カラーで音楽に彩色を施している。
舞踏の音楽と題されたこの音楽は、本来は動的であるはずのダンサーの舞をスローモーション、若しくは静止画の無限のシークエンスで
見せるような、時間の流れが変わるような錯覚をもたらす。そして、それは永遠に続く生を意識する瞬間でもある。
エリントンの音楽への深い感応を核にして、入念に用意されたスコアと十分な練習の末に収録されたこのアルバムは、この後に来る
"Mingus, Mingus, Mingus・・・" と対を成すチャールズ・ミンガスの最高傑作。ヴァン・ゲルダーも最高の仕事でこれを後押ししている。