Marian McPartland / Jazz At The Hickory House ( 米 Savoy MG 15032 )
日本ではヒッコリー・ハウスと言えばユタ・ヒップを連想するのが一般的だが、アメリカではマリアン・マクパートランドということで相場は決まっている。
1952年にヒッコリー・ハウスのハウスピアニストになった彼女はそこを根城に活躍し、78年から2011年まで "Radio Jazz" という人気ラジオ番組の司会を務めた。
こういうアメリカの日常感覚が日本にいると当然わからない。 ジョージ・シアリングが大物ジャズピアニストだと言われてもピンとこないのと同じように。
イギリス生まれで十代の頃はクラシックの音楽学校に通っていたという経歴のとおり、彼女のピアノは基礎トレーニングがしっかりとしていることが一聴すれば
すぐにわかる。 我流で身につけたピアニストたちとは一線を画した正統なピアノ奏法なので、演奏がしっかりとしている。 こういうところは他の多くの
女流ピアニストたちと共通している。 酒やドラッグで不安定な演奏をしがちな男性ピアニストたちよりも遥かに安心して聴けるのだ。
特にこのアルバムはドラムをジョー・モレロが叩いており、冒頭から彼の神技ブラシが炸裂する。 演奏が揺れに揺れる。 ヴィニー・バークのベースもずっしりと
重く、理想的なピアノトリオの演奏を堪能できる。 取り上げられているスタンダードはどれもありふれたものだし、特に目新しいことをやっているわけでも
ないからスルーされるのが普通だろうと思うけれど、聴けばその良さに認識も新たになるだろう。
10インチはRVGカッティングではないので、ピアノの音が自然な響きで鳴っている。 ピアノに関してはRVGが関与しないほうが好ましい場合が多いから、
こういうピアノ・トリオの場合はRVGがリマスターしている12インチよりは10インチで聴くほうがいいかもしれない。