廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

Zoot Sims 最後の1枚

2016年02月10日 | Jazz LP (United Artists)

Zoot Sims / In Paris  ( 米 United Artist UAJ 14013 )


私にとってズート・シムズという人は、30年前に私を廃盤マニアに本格的に引きずり込んだ因縁の人。 昭和62年の11月に寺島氏の「辛口JAZZノート」
と「ジャズ批評 No.59」が相次いで出版され、前者にはフォンタナ盤のクッキン、後者に同じくクッキンとクラブ・フランセ盤が掲載されて、それまで
当時まだ地下1FにあったDU新宿店のジャズフロアで買った中古の国内盤でのんびりとズートを聴いていた私を驚かせました。

ジャズ批評は印刷の悪いモノクロ写真でその時はあまりピンとこなかったのですが、「辛口~」のほうはカラー写真だったので印象が強かったし、
「最高作ダウン・ホームと肩を並べる」という今考えると?な謳い文句のせいで、これは聴いてみたいと思うようになり、それがきっかけで都内の
廃盤専門店に本格的に通うようになった。 結局、2年ほど経ってようやく西新宿のコレクターズにこのレコードが入り、学生の慎ましいバイト代の
すべてを使ってこれを買った。 その時は、このなけなしの金を使ってしまったら(当時付き合っていた)彼女とデートができなくなる、どうしよう、と
随分悩んだものです、アホみたいな話ですが。 それだけ、今よりもずっと真剣にジャズを欲していた。

ズート・シムズという人には、どこかそういうところがあると思います。 ジャズをようやく愉しめるようになったばかりの初心者を誘惑して、ジャズの
更なる深みに引きずり込むようなところが。 アート・ペッパーなんかもそうじゃないでしょうか。 コレクター初心者が最初に引っかかる、危険な罠。
だから、ズート・シムズやアート・ペッパーのことを語るのは未熟だった自分の姿と重なるところがあってとても気恥ずかしい。 


このアルバムは、渡仏したズートがパリにある映画スタジオでピアノのアンリ・ルノーとドラムのジャン=ルイ・ヴィアールと正体不明のベーシストと一緒に
ライヴ形式で録音したと言われていて、録音年月日もはっきりしないレコード。 尤も場所はパリのナイトクラブ "ブルーノート" だったという説もあるし、
ベーシストの名前も3人くらい候補の名前が出ている。 にもかかわらず、ここでの演奏は柔和でなめらかな上質さを誇る最高の出来です。
ブルースとゆるやかなスタンダードが交互に配置されているのに弛緩したところはなく、よく伸びるロングトーンと繊細なヴィブラートが心地よい。
この人のアルバムはほとんど聴きましたが、私にはこれ以上に心に迫ってくる演奏は他にない。 アンリ・ルノーもこの演奏が一番いいと思います。
だから、私にはズートのレコードはこれだけあればもう十分です。




Zoot Sims / In Paris  ( 英国 EMI / United Records ULP 1044 )


こちらは英国盤、EMIがプレスしている。 何か違いがあるのかと思って聴いてみましたが、値段が安いということ以外、特に何がどうということもなく。
米国盤以外では日本盤とこれしか見たことはありませんが、この人の場合はもしかしたらウルグアイ・プレスがあるかもしれません。 
パリの映画スタジオでという話やベーシストが誰だかわからないという話は、この英国盤の裏ジャケットに記載されています。


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2 コメント

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ズーッとzoot (松葉蘭)
2016-02-15 16:40:05
 個人的経緯を含んだお話で、興味を持って拝読した次第です。
 自身、大zootファンにはなりえませんでしたが、我が家にはstan getzよりも多くのzootものが在るところを見ると、やはりこの御仁には聴き手を惹き付ける『何か』があるのだと感じます。
 主役を張ったときはもとより、脇役でヒョイと現れては印象的なフレーズで聴き手に「もっと、もっと」を強要する奏者で、ジャズ批評誌上でも中毒者が何人も居ることが読み取れます。
 ライブ盤でこれは私も好きな一枚です。10年程前、山へのロングドライブ中はこればかり聞いた時期がありました。意外にブルースの名の付く二曲と、Spring~が印象に残っています。
 個人的にはフレーズも良いですが、ギュッと締まったあの如何にもサックスらしい音に惹かれます。自身よく聴いたのが皆さん挙げませんが、クリフォードブラウンとの共演盤「Jazz Immortal」、そして「choice」の両パシフィック盤です。
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私もず~っとZOOT (ルネ)
2016-02-15 20:27:24
きっと、ゲッツよりもズートのほうがたくさんあるぞ、というお宅のほうが圧倒的に多いんでしょうね。
私の場合は、Jazz Immortal は例の編曲重視のサウンドが苦手で各人のソロがあまり楽しめませんでしたし、Choice は編集盤ということもあってあまり真面目に聴かなかったです。
デュクレテ盤を聴いてもアードレイが邪魔だなあと思うし、2管以上だと喰い足りなくて、やっぱりワンホーンでたっぷり聴くのがいいです。
このアルバムだけは、なぜか飽きません。 他の有名盤は結構早い時期に飽きたのに、こういうのは不思議ですね
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