廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ロニー・ボールを見直す

2020年02月24日 | Jazz LP

Peter Ind / Looking Out  ( 米 Wave LP-1 )


ジャケットはUS製、盤はUKプレス、というハイブリッドで廃盤としての価値はゼロ、ということで安レコとして転がっていたので拾ってきた。
紆余曲折の末、US盤がオリジナルということで今は落ち着いているが、かつての真贋論争の影響か、こういう訳の分からない組み合わせの中古品が
出来上がったようだ。以前の持ち主の混乱ぶりが手に取るようにわかる。UKプレスは品質が良いので、安レコであるのは私にはありがたい。

ジャズ界一のドストエフスキー顔、ピーター・インドが自主制作した一連のWaveレーベルの音源は大衆性の希薄な内容でまったく売れることなく、
それがマニア心の琴線に触れて珍重されるが、実際に聴いてみると恐ろしく地味なものの、不思議と音楽的な魅力に満ちていて、マニアだけのものに
しておくのは勿体ない内容だ。ピーター・インドはアメリカ滞在時期にまず自身のレコーディング・スタジオを設立しており、そこで同じ嗜好性を持つ
仲間を集めて録音しているため、録音自体は悪くない。このアルバムもステレオ針だとやせ細ったサウンドでダメだが、モノラル針で再生すると
クリアでヴィヴィッドなサウンドで鳴る。

ピーター本人の名義なのでベース・ソロのパートが圧倒的に長く、それを面白いと思うかどうかで評価は分かれるだろうが、私が耳を惹かれたのは
A面のロニー・ボールの弾くブルースだった。

ここに集まっているメンバーはトリスターノ一派で、ロニー・ボールは管楽器奏者のバッキングで活躍し、自己名義のピアノトリオのアルバムを
作ることなく1984年に亡くなってしまった不遇のピアニスト。レコードとしてはコニッツやテッド・ブラウンなどのバックで聴けて、その典型的な
トリスターノ・マナーでそれなりに評価は高いだろうと思うが、ここで聴けるブルース・プレイには彼の素の姿が垣間見れる気がする。

黒人奏者のようなブルース感は皆無だけれど、そのポロンポロンとつま弾くピアノの音には独特のペーソスが感じられて、不思議と惹かれる。
B面のサル・モスカのセッションとは明らかに雰囲気が違う。管楽器のいない親密なムードが漂う演奏で、どれも心に残る音楽になっている。
トリスターノの楽理を通過した後に各人の中に残った音楽がこういう内容だったというのは興味深い。

廃盤界のオリジナル談義も面白いが、このアルバムはそれだけで終わらせるには惜しい内容で、流れてくる音楽を愉しむべき良いレコードだ。
シーラ・ジョーダンが1曲だけ参加する "Yesterdays" もいいアクセントになっている。マニアにしか楽しめないレコードでは決してない。

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