Jo Jones / Jo Jones Trio ( 米 Everest LPBR-5023 )
ドラムスの音のバランスがおかしいレコードの代表と言えば、やはりこれに尽きる。 ミキシングの常識ではあり得ない音量のバランスになっている。
ドラムスの音が中央の一番前にいて、ピアノはその右側奥、その隣にベースがいるような配置に聴こえる。 ジョー・ジョーンズのブラシが終始目の前で
カサカサ、シュッシュッ、と鳴っている。 ドラム好きの私には心地好いサウンドだけど、普通はこんな音のバランスにはしないものだ。 でも、これは
もちろんワザとそうしているわけで、編集ミスなんかではない。
ドラマーがリーダーになっている作品はたくさんあるけど、よく考えてみるとこういう建付けの作品は他にはほとんどない。 普通はドラムソロのスペースを
大きく取ってドラムソロを多めに入れるというのが常套手段で、これが大抵はさほど面白くない。 ドラマーたちもどちらかと言えば自分の技を見せつける
というよりは、作曲センスやグループ演奏としての纏まりをアピールして、演奏家というよりは音楽家としての自分を表現したがっているような印象を受ける。
だから、こうやってブラシワークやドラムの音そのものを聴かせようとする作品は他にはあまり例がなく、唯一同じ傾向として思い出すのはミルフォード・
グレイヴスのアルバムくらいだ。 スイングジャズとフリージャズが思わぬところで邂逅しているのを見る想いがする。
ジョー・ジョーンズのブラシは特に強いスイング感を発しているというわけではない。 そういうことよりも、正確なリズム感と繊細で上品でスマートな
ブラシさばきで、音そのものが美しいという感じだと思う。 音楽をドライヴさせるということにかけては他にもっと長けたドラマーがいくらでもいるわけで、
ドラムをまるで歌うように(本当にその言葉通りの意味で)扱っているのがここまでどストレートに聴けるというのがこのレコードの凄いところなのだと思う。
更にそのブラシの繊細さを際立たせているのが、レイ・ブライアントのピアノ。 まるでヴォーカルのバッキングをしているかのように、究極のデリケートさで
ジョーを優しくサポートしている。 "Embraceable You" の優しい表情なんて筆舌に尽くし難い。 ちょっと特異ではあるけれど、忘れ難いレコードだと思う。