廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

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秋が来ると聴きたくなるアルバム その2

2019年10月19日 | Jazz LP

Al Haig / Jazz Will-O-The-Wisp  ( 米 Counterpoint CPT-551 )


秋の空気の匂いを感じるとこのアルバムを想い出す。 このアルバムを初めて聴いたのは学生時代の初秋の頃、地下にあったDU新宿のジャズフロアで
中古の国内盤を見つけた時だった。枯れ草のようなジャケット、冒頭の "Autumn In New York"、それらが秋のイメージとピッタリで、私の中では
秋の音楽として定着した。"Autumn In New York" を聴いたのは、これが初めてだったと思う。

この国内盤はなぜか音が非常に悪くてうんざりするような感じだったけれど、ジャズという音楽に飢えていたあの頃はそんなことは言ってられず、
砂地に水が染み込んでいくように音楽が自分の中に入っていった。だから個人的な体験として、このアルバムは秋に聴く1枚となった。

以前にも書いたが、この演奏は1954年3月13日にエソテリック社が録音したもので、最初はエソテリックの10インチに8曲、仏スイングの10インチに
8曲という形でリリースされたが、その時に選から漏れた5曲をのちにカウンターポイントという新しいレーベル名で10インチの8曲に追加して
12インチとして切り直された。つまり、録音自体は全部で少なくとも21曲あったわけで、大変な仕事だったことがわかる。聴く側も3枚揃えて初めて
コンプリートとなるわけで、何だか面倒くさい。

ここで聴ける演奏は一聴すると軽やかなラウンジ音楽のような感じで、アル・ヘイグの危ない本性は巧妙に覆い隠されている。 それは1日で大量の
楽曲を録音するという無茶な仕事をこなすために、どの曲もほぼワンテイクでさらっと演奏されたからだ。 1曲入魂、という弾き方ではない。
ところが12インチの両面すべてを聴き通した後に残るのは、エディ・ヘイウッドやエリス・ラーキンスのようなカクテル・ピアノとは全く違う何かである。
その何かは微かな量だけど、この目の前に流れる音楽の向こう側には間違いなく何かがある。

アル・ヘイグは50年代にアルバムをほとんど残せなかったから、本当の実像はよくわからない。 これらのセッションもピリオドの録音もその内容は
アーティスティックなものではないから、この人の音楽家としての姿は現代の我々には実はよくわからない。何となく人々の間で作り上げられた
ぼんやりと霞む蜃気楼のようなある種の共通したイメージしかない。

そういうもどかしくはっきりと見定めることができない何かを掴み取りたい、と繰り返しレコードを聴くけれど、未だにそれは叶わない。
30年以上聴き続けても、この人は難しいピアニストのままだ。

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