廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

秋が来ると聴きたくなるアルバム その3

2019年10月20日 | Jazz LP

Chet Baker / Soft Journey  ( 伊 Edipan NPG 805 )


秋の肌寒さを感じるようになると、このアルバムを想い出す。こんなにも叙情的な音楽は他に探すのは難しい。静かでメロディアスで優しくダンディズム
に溢れてリリカルで、とどれだけ形容詞を付けても追い付かない。言葉を超えた、音楽でしか表現できないものをやっているという意味では正に究極の
音楽と言っていい。この流れるような美しさは一体何なんだろう、とため息しか出てこない。

晩年のチェットは欧州を拠点に活動していた。それが彼の音楽を大きく変えていったであろうことは容易に想像がつく。欧州の古い街並みの持つ独特の
雰囲気に溶け込んだかのような彼の音楽は明らかに現代ジャズの先駆けであったことは今となっては自明のことで、欧州に移住した他のミュージシャン
たちが成しえなかったことをやったということはもう少しはっきりと評価されていい。チェットが欧州でやった音楽のコピーキャットは巷に溢れかえって
いるけれど、チェットの音楽ほど心に残るものは本当に少ない。

トランペットの音色やなめらかに歌うようなフレーズも50年代のものとは別人のように進化している。見た目のやつれた容姿の印象とは違い、彼の演奏は
成熟しながらもみずみずしい感性に溢れていて、彼の音楽は晩年の欧州でようやく完成した。50年代の演奏や歌は単なる下地に過ぎない。

ピエラヌンツィが書いた静謐なバラードもジャンマルコの知的で硬質なテナーも素晴らしいの一言だけど、それらはあくまでもチェットの音楽の一部に
過ぎない、と思わせるほどよく馴染んでいる。共演者の持つ美質を最大限に引き出して、それらを自分の音楽の中へ取り込んで完成させていく。

チェットの良かったところは、どこに行っても柔軟に自分を溶け込ませることができた点だった。だから、行く先々で常に新鮮な作品を残すことに
成功している。共演者の良さと上手く共存することができているアルバムが多いのが欧州時代の特徴の1つだろうと思うけれど、このアルバムは
その中でも筆頭の出来の1つと言っていい。音質も非常にいい仕上がりで、音楽の素晴らしさを余すところなく伝えてくれる。


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