Thelonious Monk / Criss-Cross ( 米 Columbia CL 2038 )
モンクが演奏する、モンク・クラシック集とも言える内容。 "Hackensack"、"Criss-Crorss"、"Eronel"、"Rhythm-A-Ning"、"Think Of One"、
これらはどれもモンクが若い頃に書いた曲だ。 コロンビア第2弾とは言え、新しいグループの試運転として選ばれたのかもしれない。 このアルバムは
どの曲も非常に力のこもった演奏になっているのが特徴で、この後に始まる新しい展望はまだ見られないけれど、コロンビアに残されたアルバムの中では
一番ハードバップの余熱と残り香がある。
各曲の演奏時間は短めに抑えられていて、一筆書きのようにさっと演奏は終わるけれど、その分集中力が非常に高くて聴き応えがある。 モンクのピアノの
音の響きもこのアルバムが1番印象に残る。 "Don't Blame Me" はソロで演奏されるけど、非常に透明感の高い演奏で、彼が残した歌物のスタンダードの
ソロ演奏ではこれが1番いい出来かもしれない。 メロディーと並走して鳴らされるズレたハーモニーの響き方が素晴らしくて、聴き惚れてしまう。
3大レーベルを渡り歩く中でやってきたモンク流ハードバップの最後の「締め」のような雰囲気が漂う。 時間を遡って聴いていくことで、初めてそういう
印象を持った。
コロンビアの作品の1番の特徴は何と言ってもチャーリー・ラウズがいたということだ。 そもそも、この人がレギュラー・メンバーになった経緯がよくわからず、
これが以前から知りたいと思っていた疑問の1つだった。 それまでの大物管楽器奏者たちとは「競演」だったが、ラウズになって初めて「共演」となっている。
気難しかったモンクがラウズを選んだ理由が知りたいし、ラウズもどういう気持ちで傍にいたのかも知りたい。 彼はモンクの音楽を1番理解した女房役という
言われ方をするけど、レコードから聴きとれる印象だけで言うと、コロンビア時代のモンクの音楽のある程度はラウズの力に依るんじゃないかと思う。
少なくとも裏で支えたという控えめなレベルではないだろう。 目立たない叙情派のテナーだった彼がモンクの音楽にこれほど程までにうまく溶け込んだのは、
ラウズ自身の優れたミュージシャンシップがあったからとは言え、改めて驚いてしまう。 一見水と油に思える個性が、融和というよりは不思議なコラージュ
として音楽を作り出す様は、ブルーベックとデスモンドのそれのようでもある。 音楽というものの成り立ち方の不思議を見る思いがする。
アルバムの最後に置かれた "Crepuscule With Nellie" の演奏が終わった後に、満足そうに会話する複数の声が収録されている。
きっとこれはモンクとラウズの短いやりとりだったんじゃないだろうか。