Milt Jackson / Born Free ( 米 Limelight LM-82045 )
1966年12月の録音だが、この頃になるとハードバップは完全に蒸発してその姿は見えなくなり、ジャズ界にはまったく違う風が吹くようになる。
主にこの時代を20代として過ごした若者たちによってその新しい風は吹かされていて、30代の大人たちは何とか上手く乗り切っていたが、
ミルト・ジャクソンのような40代になるとなかなか厳しかったようだ。色々と試行錯誤していたが、根っからの新しい音楽にはなり切れなかった。
ただ、そういうニュー・タイプは難しくても、かつてやっていたメロディー重視の音楽をベースにそれを発展させるタイプになると、このアルバムの
ように独自の良さが発揮されるものも現れ始める。
盟友のジミー・ヒース、当時は期待された若者の1人だったジミー・オーウェンズをフロントに迎えて、美しいメロディーを持った曲やジャズメンの
優れたオリジナル曲を集めて、アドリブは抑えてメロディーを聴かせるスマートな演奏に徹したところがうまく成功した。音楽のタイプは少し違う
けれど、マリガンの "Night Lights" なんかと同じ方向を志向したタイプの内容で、それがイージー・リスニングに堕ちずにきちんとジャズになっている
ところがさすがの仕上がりだと思う。
このアルバムで初めて聴いた曲も多いが、中でも "We Dwell In Our Hearts" という曲がとてもいい。この曲が聴きたくてこのアルバムを手にする
ことが多いが、そういう楽曲が入っているアルバムは幸せだなと思う。
このライムライトというレーベルはマーキュリーの傍系だが、その名の通り、ソフトな音楽を提供することがコンセプトだったようだ。
かつての大物たちが数は少ないながらもアルバムを残していて、中には傑作と言っていいような出来のものもある。盤に貼られたレーベルの
左上にあるちっちゃなドラマーのデザインが可愛く、いつもこれを見るとほっこりとした気持ちになる。