Shorty Rogers / "Gigi" In Jazz ( 米 RCA Victor LPM-1696 )
ラーナー&ロウの作詞・作曲コンビで一番有名なのは何と言っても "My Fair Lady" だけど、その後にもいくつか映画音楽を作っていて、その中の1つが
この "Gigi" になる。 私自身はこの映画は観たことがないし、映画そのものもあまりヒットはしなかったようだ。 マイ・フェア・レディの後に
作られたのでそれなりに派手なパブリシティーをかけたようで、映画の公開後すぐにこのレコードも作られている。
ショーティー・ロジャースはジャズ・ミュージシャンというよりはハリウッドのスタジオ・ミュージシャンとしての仕事のほうが比重が大きかったようで、
有名な割にジャズ愛好家からはまともに相手にされない。 私もこの人は苦手でこれまでまったく手を出せずにいたが、このアルバムはすっきりとした
演奏で悪くないと思った。 メンツだけ見ると典型的な西海岸ジャズで一番苦手なタイプだが、ピート・ジョリーとラルフ・ペニャが入っていることから
試聴してみると如何にもRCAらしい清潔な内容で、変なアレンジも施されておらずちゃんと聴ける内容だった。
西海岸のジャズはハリウッド映画産業と共に育つというちょっと特殊な構図の中にあったので、東海岸のハードバップとは当然まったく異なる進化を
遂げている。 それはあくまでも娯楽としての音楽であり、ジャズという音楽をしょって立とうという気概はなかったように思う。 東海岸でジャズが
どんどん変化していったのに比べて西海岸のジャズがそのフォームを変えることなくずっと安定していたのは、まずは人々に提供される娯楽としての
使命があったからかもしれない。 そのためにジャズミュージシャンの多くがスタジオに入り、小銭を稼いでいたのだろう。
ショーティー・ロジャースは良くも悪くもそういう中の代表格だったように思う。 トランペットの腕前は確かだし、音楽作りのバランス感もあって、
基礎がしっかりとしている印象を受ける。 このアルバムを聴いていると、タイプが違うというだけのことであって、何も東海岸のジャズばかりが
一流ということではないんだろうなあと思えるようになってくる。 少なくとも、コンテンポラリーやパシフィックジャズというレーベルの中の
一定数の作品群よりはこちらのほうがずっと本流のジャズに近いような印象を受ける。 もう少しこの人を聴いてみるか、という気にさせてくれる
アルバムだった。