Friedrich Gulda / At Birdland ( 仏 Decca LK 4188 )
グルダがジャズを始めたのは単なる気まぐれではなく、本気で転向しようとしていたらしい。 ただ、周囲に猛反対されて、二足の草鞋を履くという
ところで妥協した。 音楽の本場ヨーロッパの人々から見れば、ジャズなんて・・・という感覚だったのだろう。 長い歳月をかけて丁寧に磨き上げ
られた音楽を聴いている感性からすれば、こんなガサツな音楽は聴くに堪えないのかもしれない。
それでもグルダは持ち前の型破りな性格から、アメリカに乗り込んでニューヨークの一流クラブで当時のトップクラスのメンバーたちと一緒に堂々と
ライヴをやってしまう。 このライヴを聴けばグルダが演奏を心から愉しんでいたのがよくわかるし、他のメンバーたちもグルダが書いたスコアの
レベルの高い建付けをとても上手く演奏していて、彼らの他のアルバムでは聴けないような質感の高いジャズに仕上がっている。
普段は地味過ぎてその実力がさっぱりわからないアーロン・ベルやニック・スタビュラスが非常に弾けた演奏をしていて、まるで別人のようだ。
アイドリース・スリーマン、ジミー・クリーヴランド、セルダン・パウエル、フィル・ウッズという4管も目の覚めるような演奏をしている。 彼らは
グルダが用意した高級な器に臆することなく対峙していて、ウッズは別にしても他のメンバーたちは日頃十分な実力を発揮できていなかったんじゃ
ないかとすら思えてくる。
B面トップの "Air From Other Planets" なんて、これは本当にライヴ演奏なのか?と疑いたくなるような完成度の高さだし、ピアノトリオで
演奏される "Night In Tunisia" は完全クラシックマナーで弾き切ってしまうグルダのピアノが痛快極まりない。 どの楽曲も聴き所満載で、
普通のジャズアルバムでは聴くことができないタイプの、それでいて濃厚なアメリカのジャズを聴くことができる。 このアルバムは面白い。
オリジナルはアメリカのRCA Victor盤だが、欧州ではグルダはデッカと契約していたのでアメリカ以外の国ではデッカレーベルから発売されている。