廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

上品で優美なピアノ その2

2020年05月26日 | Jazz LP (Vanguard)

Sir Charles Thompson / Trio  ( 米 Vanguard VRS 8018 )


サー・チャールズ・トンプソンのピアノを堪能できるもう1枚の10インチで、こちらはドラムが抜けたトリオ。スキーター・ベストはフレディ・グリーン
とは違ってシングル・ノートでソロを取るため、演奏の建付けが先の10インチとは違っている。

"Love For Sale" などモダンの楽曲比率が高いので、いわゆるスイング・ジャズのバタ臭さはなく、スマートな音楽の印象が残る。部屋の中の空気が
サッと入れ替わって、比喩としてではなく、本当に微かに芳香が漂うような雰囲気になるから不思議なものだ。

取り上げる題材やスタイルは間違いなく古いスイング系だけど、サー・チャールズ・トンプソンという個性がそういうものをあっさりと塗り替えて、
まったく別の音楽へと変えているところが凄い。つまり、ここで聴けるのはマイルスやコルトレーンたちがやっていた音楽と何ら変わらない、芸術と
しての営みである。ヴァンガードという一見畑違いの領域の、こんな小さなサイズのレコードの中で、それはひっそりと行われている。そのことを
知る時、ただ上質で優美な音楽を聴けて嬉しくなるだけに留まらず、驚きと静かな興奮を覚えるのだ。

この人ならもっといろんなレーベルでアルバムを作っても傑作を連発したんじゃないかと思うけれど、そうならなかったのは残念。リヴァーサイド
なんかだとイメージにもよく似合うのに。ヴァンガードはレコードの音も良くてとてもいいレーベルだけど、印象が強いだけに十把一絡げに
"スイング系"として括られてしまったのかもしれない。よく聴けばそれぞれ唯一無二の個性があって、一人ひとりがみんな独立した音楽をやっていた
ことがわかるはずだけど、当時は誰もそこまでは認知してくれなかったのかもしれない。


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