Sir Charles Thompson / Quartet ( 米 Vanguard VRS 8006 )
木曜日の夕刻2ヵ月に振りにパタパタしたが、ブランクのせいで腕がなまっていたことや店内の閑散とした雰囲気にビビってしまったこともあり、
帰宅後もどうも掘り残した感が拭えず、安レコから「ここ掘れワンワン」としつこく呼ばれている声が聴こえて、夜も眠れない。これはイカン、
ということで週末にユニオンで再度掘り起こし。すると、これが850円で転がっていた。老眼のせいで数字を見間違えたか、と眼をゴシゴシ擦って
みたが、間違っていなかった。心理学の世界では、人が物に向かって話しかけるのは普通のことだが、その物が人に話しかけるようになると、
これは加療の対象となるらしい。私の症状はCOVID-19禍のストレスが原因なのか、それとも元々病んでいたのか、よくわからない。
サー・チャールズ・トンプソンは2016年に98歳で東京近郊の病院で亡くなっている。奥さんは日本人で、2002年以降は千葉県松戸に住んでいた。
パーカーとも共演し、"Robbin's Nest" を作曲し、2000年以降も新作をリリースするなど、生涯スイング・ジャズ一筋の大ピアニストだった。
この人の演奏はとにかく究極の洗練と上品さが身上で、こんな気品に満ちたジャズピアノを弾く人は他にはいない。ピアノだけが洗練されている
のではなく、音楽全体がその気品で包まれる。それは正にマジックと言えばいいのか、それともミラクルと言えばいいのか、とにかくそれが凄い。
あまりに上質過ぎて、スイング・ジャズという領域をはるかに超えている。
このアルバムはフレディ・グリーンのリズム・ギターが入っているところがミソで、まあ、最高の内容である。たった4曲しか収録されておらず、
10インチの各面は半分しか溝が切られていないのが何とももったいない。もっとたくさん録音して欲しかった。
彼の名前に "サー" の称号を付けたのはレスター・ヤングで、これを聴けばレスターの気持ちがよくわかる。星の数ほどいるであろうジャズの
ピアニストの中でも、これほど澄み渡った気品に溢れた優美なピアノは他では聴けない。日常的に聴くのがためらわれるほど美しい。