廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

影に隠された傑作

2017年03月12日 | Jazz LP (Riverside)

Bill Evans / Unknown Session, Green Dolphin Street  ( 日本ビクター音楽産業 VIJ-4026, VIJ-6457 )


エヴァンスの死後に雨後の筍のごとく出てきた未発表音源の数は一体どのくらいあるのか、私はよく知らない。 ただ、他のアーティストと違うのは、
きっとスタジオ録音の未発表ものの比率が高くて、且つそのクオリテイーの桁違いの高さにあるんじゃないだろうか。 オリン・キープニュースが後年
エヴァンスの未発表録音の掘り起こしに執着したのは、ビジネスのためというよりはある種の使命感に駆られてのことだったんじゃないかと思う。 
これらの未発表物をリリースしていた時期はジャズ業界の低迷期で、いくらエヴァンスのレコードとは言え、大したカネにはならなかっただろうから。

そんな中で、私が最も好きで若い頃から愛聴してきた演奏がズートとジム・ホールが参加した時の演奏で、日本ではこの2枚に分散してリリースされた。
ここで聴けるズート・シムズの演奏は本当に素晴らしく、私は彼の最高の演奏はこれだと思っている。 くすんだような淡い音色、弾力的なフレーズ、
歌うようなメロディーライン、どれをとっても最高の演奏だと思う。 そして、ジム・ホールもこれが彼の最高の演奏だと思う。 こんなに赤裸々に
よく歌うシングル・トーンで彼のギターが聴ける演奏を他に知らない。 アンダーカレントですら、この演奏の前では霞んでしまう。 彼らのリーダー作
ではないので与えられたスペースは限られてはいるものの、その限定性を逆手に取って最高の演奏を残している。

そして、"Loose Bloose" "Time Remembered" という必殺の名曲が収録されているのが、愛聴する2つ目の理由。 特に後者は正規のオリジナル
リリースアルバムには収録されていないにも関わらず、後年になってたくさんのミュージシャンたちに取り上げられてきたことがその素晴らしさを証明している。

最後の理由は、ビクター盤の質の高さだ。 ジャケットの意匠が素晴らしい。 マイルストーンのジャケットの良さを素直に認めて拝借するのは潔いし、
霧で霞む街並みのポートレートもただただ美しい。 そして、レコードを再生した際に出てくる音質の上質さ。 このサウンドクオリティーの上質さは
筆舌に尽くし難い。 ビクターのこの音はもっと高く評価されるべきだと思う。 度が過ぎたオリジナル盤の音質への妄信が特効薬のないウイルスのように
蔓延する中、こういうレコードは世界の片隅に追いやられ、小さな音で鳴っている。 でも、それは間違っていると思う。 どちらがいい/悪いというような
単純な話ではなく、1つ1つに固有の良さがあるということだ。

このクインテットの演奏は静かで落ち着いた内容に終始している。 当時のアメリカではこういうシブい演奏は受けないとの判断だったのだろう。
でも、そういうのは時代と共に変わっていく。 テープが破棄されず保管されて、キープニュースの世捨て人的人柄のおかげで蘇ったのは幸いなことだった。
リヴァーサイド時代で言えば、この2枚は4部作に劣るところのない傑作だと思う。


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