Gary Burton / The Time Machine ( 米 RCA Victor LPM-3642 )
ゲイリー・バートンを聴くようになったのは比較的最近のことで、それまではどちらかと言えば苦手に思っていた。 若い頃に聴いたECMのチックとの共演盤が
面白くなくて、その刷り込みのせいだと思う。 少し前にECMに凝った時期があって、その時にも他のECM盤を聴いたけど、やはりピンとくるものはなかった。
ミルト・ジャクソンからの影響を受けず、独自のスタイルで音楽をやろうとしているのはよくわかるのだが、どうもその成果には共感できなかった。
時代的な背景もあったのだろうけど、レガシーなものから過剰なまでに距離を置こうとするあまり、肝心の音楽が置き去りになってしまったように思えた。
ところがRCA時代のアルバムを聴くようになって、その認識は変わっていった。 RCAにはたくさんアルバムが残っているけど、一作ごとに作風が異なっていて、
どれも明確な制作上の意図が込められていて非常によく考えられているのがわかる。 聴き進めていくにつれて、なるほどなあ、と感心するようになった。
このアルバムはゲイリー・バートンがヴァイブ、ピアノ、マリンバを操り、ベースとドラムを従えたトリオだが、ヴァイブとピアノ、ヴァイブとマリンバが
オーヴァーダブされたカルテット形式になっている。 オブリガート役のピアノやマリンバが趣味のいい演奏で、音楽的な豊かさに大きく貢献している。
ベースはスティーヴ・スワロー、ドラムはラリー・バンカーで、2人の才人の演奏も骨太なのにデリケート極まりなく、音楽上の纏まり方は完璧だ。 構成上の弱点から
こじんまりと室内楽的になりそうなものだが、幸いなことにまったくそうはならず、大きく拡がりのある音楽が自由に展開していく様が素晴らしい。
このアルバムは思索的でありながらも上質で風通しの良さが心地いい傑作だと思う。
適度に知的好奇心を満たしてくれて、適度にポップで、すべてにおいてとてもいい塩梅である。 スワローの名曲 "Falling Grace" の美メロには身悶えする。
キースが "Standards Vol.3" を作ったら、というのは昔よくやった遊びだが、私ならこの曲を1曲目にしたい。 また、ラストの "My Funny Valentine" の幻想的な
ムードは、マイルスの名演と唯一互角に張り合えるのではないかとさえ思う。 敢えて繰り返すが、これは抑制と情感が見事に混ざり合った驚くべき傑作である。