Jamie Saft / Loneliness Road ( 英 RareNoise Records RNR077LP )
現代のジャズ・シーンにはまったくついて行けてなくて、尽きることのない湧き水のように溢れ出る大量の新譜たちを力なく見送るしか術のない自分が情けない。
優秀な道案内人が欲しいと思いネットを物色するとそれなりに情報は見つかるけれど、どうも頭の中にうまく入ってこないことが多い。 それらは作品の内容を
語るというよりは、そのアルバムやアーティストをめぐる状況への言及がメインだったり、そういう現代のシーンに精通しているステキなボク、という内容が多く、
それはそれで読み物としての面白味はあるんだろうけど、店頭でCD片手にまさに買うかどうかの参考情報を検索している切羽詰まった状況にいる私の
助けにはならず、結局諦めて手ぶらで帰ることになる。 そしてそういうことが重なると、何となく新譜に手を出すこと自体が億劫になっていってしまう。
そういう困った状況の中で今のところ唯一の頼りになっているのが、DU新宿ジャズ館の1Fの新品CDフロアの片隅で小さく展開されている "Monthly Buyer's
Select" という企画。 バイヤーというよりはマニアとしての感性でお薦めの作品が紹介されており、内容も新旧がいい塩梅で混ざっていて好感が持てる。
紹介文も作品の内容にきちんとフォーカスされていて、私のニーズにぴったりと合う。 ユニオンといえば廃盤セールのことばかりに話題が集中するけど、
私が一番いいなと思っているのはこういう度が過ぎない程度のマニアックな感性なのだ。
その好企画の12月版は「2017年のベスト作品」がテーマで、その中で紹介された6作品の中では2つの作品が気に入った。 その1つが、このジェイミー・サフト。
ジャズミュージシャンというよりはマルチタレントな音楽家ということらしいが、私はこの人のことはまったく知らない。 名前も聞いたことがなかった。
ネットを見ると、怪僧ラスプーチンか、はたまたZZトップか、というような風貌の画像が出てくる。
アコースティック・ピアノ・トリオで、ベースはスティーヴ・スワローだ。 そして、驚くことにイギー・ポップが歌っている曲が何曲かある。
正統派のピアノ・トリオの演奏だけど、全体的にゆったりとしたリズムて統一されていて、程よい翳りと心地よい重みのある音楽になっている。
いかにもジャズ・ピアノですという音楽ではなく、ポップスやブルースなどいろんな音楽がうまく消化されてブレンドされた深みのある、それでいて非常に
判りやすい音楽になっていて、これは素晴らしいと思った。 現代のジャズだからといって無調感や不協和の雰囲気に逃げることなく、きちんとメロディーと
ハーモニーとリズムで初めて聴くような新鮮な音楽をやっている。 スワローのベースのリズムが強力で、音楽がグイグイと前へと進んで行く。
イギー・ポップの深くダークな歌も最高だ。 これは長く愛聴できる盤になるだろう。
CDの試聴機の前にアナログも置かれていたので、そちらを持って帰った。 アナログは2枚組で、ダウンロード・コードも付いている。 このトリオとしては
これが2作目だそうで、こうなると当然1作目も聴きたくなる。 アナログは既に絶版のようなので、また探さねばならないものが増えた。