Elmo Hope / Here's Hope! ( 米 Celebrity CEL-209 )
エルモ・ホープは不遇のピアニストの代表格のように言われることが多く、判官贔屓気質の日本人には気の毒さが先に立って悪く言われることがない。
レコードはそこそこ残っているし、そのうちの半分くらいは入手も容易である。 幻のピアニストということでもないし、稀少盤と騒がれるものも
特にないだろう。 3大レーベルそれぞれに作品があり、その他マイナーレーベルにも点々と足跡はあるから、客観的に見ればまずまずだったのでは
ないだろうか。
彼が活動していた当時は「いい曲を書くがピアノの腕がよくない」というのが仲間内での評価だったらしいが、これはかなり的確な指摘だ。
このアルバムで聴けるのはすべて彼の自作だがどれも工夫が効いていて、なかなかいい。 "Hot Sauce"、"De-Dah"、"Stars Over Marakesh"など、
印象に残る楽曲は多い。 そういう意味では、セロニアス・モンクなんかと同じタイプだったのかもしれない。 モンクほどの強烈なインパクトはない
けれど、自身は自作曲を中心に録音していた。 ただ、他のミュージシャンが取り上げてくれなかったせいで、世に広まることがなかった。
ピアノの演奏は全体的に荒い印象だ。 こういうのは独学で習得した人によく見られる傾向だが、もしかしたら彼もそうだったのかもしれない。
長いフレーズを弾くのが苦手なようで、コードを叩きつけてお茶を濁すようなところが気になる。 そういう弾き方だから、この人のピアノを味わう
ところまではなかなかいけない。 61年録音にも関わらずバップ風の演奏をしていて、当時の人の眼にはかなり時代遅れに映っただろう。
この時代にこういう演奏をしていたのだとすれば、共演の申し出はおそらくほとんどなかったはずで、彼が表舞台で評価されることなく終わったのは
まあしかたないなと思う。
ただ、現代の我々からすれば同時代にマッチしているかどうかなんて関係ないわけで、単純にハードバップのピアノトリオとして楽しめばそれでいい。
旧友のチェンバースやフィリー・ジョーがバックを務めるという豪華な布陣で演奏されたありふれたスタンダードではないユニークな楽曲が吹き込まれた
これ以上はないくらいドマイナー・レーベルのレコードを聴く、というある意味ジャズ観賞の究極の姿のような楽しみに浸れる。 ドマイナー・レーベルの
割には音質はまずまずの仕上がりだし、フィリー・ジョーが結構キレた感じのドラムを叩く、ありふれたピアノ・トリオとは一味違う内容になっている。
後期バド・パウエルとハービー・ニコルズを足して2で割らずに3で割ったような印象のピアノに作曲能力という付加価値がついた独特のピアノのジャズ
として、不思議と印象が残る。 単なるその他大勢のマイナー・ピアニストたちとは根本的に格の違いがあるのは間違いない。