万能鑑定士Qの事件簿VII (角川文庫) | |
松岡 圭祐 | |
角川書店(角川グループパブリッシング) |
松岡圭祐の新キャラクター「万能鑑定士Q」こと凛田莉子シリーズは、ついに7巻目に突入した。去年の4月に文庫版で発売されて以来、ハイピッチで巻が進んでいる。新刊が出るたびに待ちきれず買ってしまい全て初版が揃っている。莉子は、沖縄波照間島出身の23歳。ゆるいウェーブのロングヘアに猫のように大きくつぶらな瞳と抜群のプロポーションの美人だ。しかも非常に理知的で、万物を鑑定する能力は超人的という設定である。この新しいキャラクターの設定と表紙のイラストに惹かれ、現在も読み続けている状況だ。
さて、7巻目のストーリーはこんな感じだ。
《内容紹介》
純金が無価値の合金に変わってしまう!? 不思議な事件を追って、凜田莉子は有名ファッション誌のカリスマ編集長に接近する。相次ぐ事件を解決に導くが、最大の謎が行く手を塞ぐ。書き下ろし「Qシリーズ」第7弾!
《内容(「BOOK」データベースより)》
純金が無価値の合金に変わってしまう“逆錬金術”の謎を追って、凛田莉子は有名ファッション誌のカリスマ女編集長に接近する。小説の盗作騒ぎから5億円のペンダント紛失まで、数々の事件を解決に導いた莉子の行く手に、最大の謎が出現した。沖縄・波照間島で育った無垢で天真爛漫な少女が知性を身に付け、いまやマルサにも解き明かせない秘密の真相解明に挑む。書き下ろし「Qシリーズ」第7弾。
松岡圭祐の小説は、実在する会社や施設等の名前がそのまま出てくることが多い。角川書店から発行されていることもあって、角川書店の編集部員である小笠原という脇役も登場する。実際の編集部を取材して書き上げたような描写もありニヤリとする場面も多い。書き上げるスピードも速いようで、発売時直前までの時事ネタが満載されており時代の先端を走っている小説家という印象も強い。
今回の7巻目では、電子書籍で全世界同時発売を行うという女性誌の出版社が登場する。アップルやマイクロソフトも業務提携を申し出るほどというその出版社の電子書籍版を読むために、ipad等のタブレット端末を購入する女性が急増しているという設定だ。この辺りは、まさにこれからの出版界の未来を示しているともいえる。他にも、GPS付き手提げ金庫とか、ガリバー(中古車の)の査定、AKB48等といったタイムリーな話題が満載である。
また、贋作騒動の話のなかにこんな言葉が書かれていた。
「・・・、文学賞も獲ったことにできないかって頼まれたらしいよ。賞金は二千万円にしておいて、辞退したって発表すればいいってさ」
これって、最近話題となっている作家業に転進したタレントの処女作の文学賞受賞に絡めたネタではないか。本当かどうかはわからないが、これもなるほどと思わせる。
とにかく、読み出したらどんどん進んでしまう。笑えるところもあれば、なるほどと思わせるなど勉強になるところも多い。そして、ミステリーぽい所もあるが、人が死ぬことはなくある意味安心して読める。莉子が謎をあっさり解いていくあたりは、カッコよすぎるくらいだ。
そして、純金が無価値の合金に変わってしまう“逆錬金術”の謎も、莉子があっさり解いてしまう。判ってみれば、実に簡単なトリックである。人間の盲点を捉えたトリックだが、うまいものだと感心した。ただ、あのトリックで全ての人間が騙されただろうかというと、ちょっと無理があるような気がしないでもない。
一つ気になった点は、「臭気判定士から香水評論家に転職した私の知識が・・・」という件だ。この文面から行くと、臭気判定士はいろんな臭いを嗅ぎ分けることが出来る人のようなニュアンスが感じられた。臭気判定士の資格を持つ私から言わせれば、臭気判定士だからといって香水の評論が出来ることはまずありえない。臭気判定士は、臭気の判定試験を行なう上での知識を持っていると認められたというだけの資格である。臭いを嗅ぎ分ける特別な嗅覚をもっている必要はなく、通常の嗅覚があればいいからだ。この辺りは、作者が誤解しているのではないかと感じた。
8巻目は、2月末に発売されるようだ。次も楽しみである。このシリーズって、テレビ化や映画化しても当るような気がするがどうだろうか?きっと角川映画で、やりそうな気もする。ついでに、岬美由紀の千里眼シリーズの新作も待ち遠しい。