石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

拡大を続けるLNG貿易(6)

2009-06-11 | その他

(第6回) LNG貿易を巡るいくつかの問題と日本の対応

 LNG貿易が今後拡大を続けるか否かについて筆者なりの見解を述べるとすれば、需要も供給も拡大することは間違いないが、LNGが他のエネルギーより飛びぬけて急拡大することはないだろう、という極くありふれた結論である。世界経済の拡大発展によりエネルギー需給が着実に増えることには誰も異論がないであろう。その中でLNGの需給の伸びは、例えばエネルギーコンサルタントのAndy Flower社によれば、昨年は1981年以来初めて前年を下回ったが、今年中に9,500万トンの能力が増強されるとのことである。そして同社はLNG市場は2012年まで年率12%、2013年から2020年までは5%の成長率と見込んでいる。

  しかしLNGの輸出国、輸入国双方には市場拡大の制約条件も少なくない。輸出国の制約条件には、米国との問題を抱えたイランのような国際政治の影響を受けている国もあるが、最大の制約条件は国内の消費増加による輸出余力の減退であろう。各国は人口増加、経済発展、生活水準の向上等によりエネルギーの消費が生産の伸び率を上回っている。これらの国の多くは国家財政を支えるにはできるだけ多くの石油を輸出しなければならない。石油の国内消費を抑制し輸出に回すためには天然ガスを国内に振り向けることになる。つまり天然ガスの輸出余力が減るのである。実際インドネシアは日本向けLNG輸出の削減を通告している。

  一方エネルギーの消費国にとっては、天然ガスをLNGとして輸入するためには莫大な先行投資が必要である。しかも25年前後の長期契約が普通であり、さらにテイク・オア・ペイ(契約量を引き取るか、それができない場合は違約金を払う)と呼ばれる不利な条件を押し付けられている。成長神話が息づいている時代であれば消費国は資源確保のためにこのような条件を受け入れるが、景気の先行き見通しが暗くなればLNG導入に二の足を踏む。LNGの輸入拡大を実行できるのは巨額の先行投資に耐える体力を持ち、さらに背後に安定的な需要家を抱えた日本など一部の国に限定されるのである。

  現在の景気後退が下げ止まり、なべ底時代を経て世界が再び成長局面を迎えるにはまだ相当の時間が必要と考えられる。従って当面の間、LNGを含む天然ガスの市場も停滞するに違いない。天然ガスは石油や石炭に比べて環境にやさしく利用を拡大すべきであるといわれる。確かに正論であるが、それを許容できるのは、コスト負担能力のある豊かな先進国だけである。インドを始め開発途上国はそのような余裕が乏しくLNGに手が出ない。現在LNG需要の成長にブレーキがかかっているのである。

  日本も景気失速のためエネルギー需要が減退し、電力・ガス会社はインドネシアにLNG購入量の削減を申し入れた 。ほんの少し前はインドネシアから削減を通告され、日本側があわてふためいたばかりであり、状況の変化は目まぐるしい。ただ長期的な視点で見れば石油や天然ガスのような資源保有国が需給の主導権を握ること間違いない。それは1970年代にOPEC(石油輸出国機構)が市場を支配し、現在もOPEC、非OPECを問わず資源保有国が市場をリードしていることを見てもわかる。

  このような中でロシア、イラン、カタールなどの天然ガス輸出国に国際市場の主導権を握ろうと結束する動きがある。いわゆる「ガス版OPEC」と呼ばれるものである。既に「天然ガス輸出国フォーラム(GECF)」が16カ国で結成されているが、フォーラムという名前が示すとおり情報交換を中心とする緩やかな組織にとどまっている。ガスOPEC結成は当初イランが唱導し、ロシアは曖昧な姿勢であったが、最近ではむしろロシアが積極的である。ロシアはヨーロッパ諸国に大量の天然ガスを輸出しており、ウクライナに対する度重なるガス供給停止問題を通じて、西ヨーロッパに無言の脅しをかけている。さらにサハリンなど極東でのガス市場開拓により天然ガス輸出国としての存在感をアピールしている。ロシアは世界の天然ガス市場を支配しようとする意図を露骨に見せ始めた。

  しかし天然ガスは石油と異なり生産国と消費国双方が「いつでも、何処でも、誰でも」市場に参加できる体制が整っていない。パイプラインによる天然ガス貿易の場合、生産者と消費者が直結しており互いに相手を取り替えることができない。例えばロシアは価格を吊り上げるために西欧向けのガスをカットして他国にまわすことはできず、一方西欧もロシア以外の安いガスに切り替えることは簡単ではない。

  それに対してLNGは生産国に出荷設備、消費国に受入設備があり、両者を結ぶLNG運搬船があれば自由な貿易が可能である。つまり天然ガスは気体から液体(LNG)に変わることで市場商品(コモディティ)となり、スポットマーケットが形成される余地が生まれる。但し問題はLNGの製造・出荷・運搬及び受入設備というサプライチェーンの整備に巨額の資金が必要であり、市場への参加者がなかなか増えないことである。このため最近ではガス輸出国がサプライチェーンの一翼を担い始めた。英国ウェールズ州のLNG受入基地にカタールが出資しているのはその例である(第4回「LNG輸出大国カタール」参照)。またロシアはサハリン1のLNG輸出基地建設に日本の技術及び資金の支援を求めている 。

  日本は世界最大のLNG輸入国でありその地位は当分揺るがないであろう。しかし天然資源の貿易では消費国のバイングパワー(購買力)が余り意味をなさないことは、石油、鉄鉱石、希少金属などの例を見るまでもない。日本が今後世界のLNG貿易でパワーを発揮できるとすれば、それはLNGプラント建設の技術であり、またサプライチェーンを作り上げる資金力であろう。

   ただしLNG設備が世界各地に建設され、LNG貿易のプレーヤーが増えたからと言って日本のLNGの安定確保につながるというわけではない。LNGがコモディティ化すれば時として価格の乱高下というマイナス効果も生まれる。しかしLNGがコモディティに変身することは歴史の流れとして避けられない。日本がその状況に対応するには、市場においてこれまで同様の存在感を維持することが必要であろう。そしてまたガス版OPECをいたずらに警戒するのではなく、安定した市場を育てるため輸出国と輸入国の調停役を果たすことが望まれる。

以上

(これまでの内容)

(第1回)LNG(液化天然ガス)貿易の歴史

(第2回)LNGの輸出

(第3回) LNGの輸入

(第4回) LNG輸出大国カタール

(第5回) 将来のLNG輸入大国(?)中国

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前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

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