石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(110)

2024-01-31 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第4章:中東の戦争と平和(24)

 

110 イラン・イラク戦争:産油国と米国が味方のイラクと孤立無援のイラン(2/3)

イラクや湾岸王制国家の為政者たちはホメイニの獅子吼に震え上がった。サウジアラビアではイラン革命の年の11月、聖地マッカでマハディ(救世主)を名乗る男がカーバ神殿を占拠する事件が発生した。為政者たちはシーア派住民の締め付けを強化した。イスラームの歴史上、シーア派とスンニ派の対立が表面化したのはイスラーム帝国建国の初期以来のことである。キリスト教では対立する宗派間で教義論争が繰り広げられ、それが武力衝突に発展することは少なくなかったが、イスラーム社会では概して宗派の違いに寛容でお互いに干渉しない不文律があった。しかしイラン革命により、イスラーム社会にスンニ派対シーア派という新たな対立軸が生まれたのである。

 

この対立を権力基盤拡大の好機と見たのがイラクのフセイン大統領であった。彼はイランに宣戦布告することにした。独裁者が国内問題から国民の目をそらせるために外国と戦争することはよくあることであり、フセイン大統領の意図もそこにあった。しかしそれ以上に彼を戦争に駆り立てたのはイランと戦争すればいくつかの外国勢力が彼に加担すると見込んだからである。彼は対イラン戦争をペルシャ人対アラブ人、シーア派対スンニ派の戦いに仕立て上げたのである。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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石油と中東のニュース(1月30日)

2024-01-30 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・タンカー攻撃、米兵死亡事件で原油価格上昇。Brent $83.84, WTI $78.35

(中東関連ニュース)

・イスラエル情報当局:ガザの国連スタッフ190人がハマスに協力

・ヨルダン北部の米基地で米兵3名死亡、バイデン大統領、報復を誓う

・イラン、ヨルダンの駐在米兵3名ドローン死亡事件の関与否定

・イラン:中国からのイエメン船舶襲撃抑制への影響力行使の要請なし

・Moody's、カタールの格付けをAa3からAa2に格上げ

*S&P、「主要国ソブリン格付け(1月現在)」参照。

 

 

 

 

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(109)

2024-01-29 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第4章:中東の戦争と平和(23)

 

109 イラン・イラク戦争:産油国と米国が味方のイラクと孤立無援のイラン(1/3)

 アフガニスタンのイスラーム勢力(ムジャヒディン)はソビエトを後ろ盾とする共産主義中央政府を相手に一神論と無神論をかけた戦いを有利に展開した。そしてイランでは僧職者とバザール商人のイスラーム連合勢力がシャー(皇帝)の推進する西欧流「白色革命」を打破してイスラーム革命を成し遂げた。イスラーム復興の動きはアフガニスタンに始まり西の隣国イランに及んだ。

 

イラン・イスラム共和国の最高指導者ホメイニ師はその動きをさらに西隣のアラブ諸国に向けた。彼はペルシャ湾を挟んだサウジアラビアなど湾岸各国のムスリムたちに君主制国家の打倒を呼びかけた。曰く、サウジアラビアのサウド家はイスラームの聖地マッカ、マディナを私物化し、さらに石油の富を自分たちだけで独占している。彼らはアラーにとって許されざる存在であり、ムスリムは王制打倒に立ち上がるべきだと説いた。ホメイニ師はさらに世俗国家イラクの市民に対しても独裁者フセインはイスラームの教えを忘れアラーに背いているとして反抗をそそのかした。

 

ペルシャ湾沿岸やイラク南部には多くのシーア派の住民がおり、バハレーンはシーア派が国民の多数を占めているほどである。スンニ派が支配するイラクも実はシーア派が多数である。ホメイニ師はこれらシーア派住民に体制打倒を呼びかけたのである。そしてホメイニ師がさらに西の先に打倒を目指すのがイスラエルである。彼は「イスラエルを地中海に追い落とせ」とイスラーム諸国全体に呼びかける。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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石油と中東のニュース(1月27日)

2024-01-27 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

 

(中東関連ニュース)

・国際司法裁判所ICJ、イスラエルに死者抑制の判決。ジェノサイド認定せず

・ハマス、人質女性3人のビデオ公開。二人は19歳の兵士

・ガザ地区の死者2.6万人超える。生き埋め数千人:保健省発表

・カタール首相、米CIA/イスラエルモサドと人質問題協議の予定

・イエメンフーシ派、アデン湾で英国タンカーをミサイル攻撃

・イエメンフーシ派の船舶攻撃でスエズ運河通航量40%減少

・イスラエル航空、南ア便を3月末で停止。ICJ提訴に反発か

・イスラエル:中国運営のAshdod港、機能不全のリスク

 

・イラク、近く米と駐留軍撤退問題を議論。IS対策終わり今はトラブルの種

 

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今週の各社プレスリリースから(1/21-1/27)

2024-01-27 | 今週のエネルギー関連新聞発表

1/22 出光興産

山陽小野田市、出光興産株式会社、西部石油株式会社による包括連携協定の締結について

https://www.idemitsu.com/jp/news/2023/240122_2.html

 

1/22 出光興産

西部石油株式会社 山口製油所における新規事業構想を策定 ~地産地消型のカーボンフリーエネルギー供給・資源循環を担う地域産業ハブ拠点へ事業転換~

https://www.idemitsu.com/jp/news/2023/240122.html

 

1/23 INPEX

アラブ首長国連邦アブダビ首長国におけるe-メタン製造事業の共同調査に東京ガス、大阪ガスが参画

https://www.inpex.co.jp/news/2024/20240123.html

 

1/24 INPEX

マレーシア2023年公開入札ラウンドにおける探鉱鉱区の取得について

https://www.inpex.co.jp/news/2024/20240124.html

 

1/25 JOGMEC

サウジアラビア王国 産業・鉱物資源省との協力覚書を締結~鉱物資源分野における関係を強化~

https://www.jogmec.go.jp/news/release/news_08_00037.html

 

1/25 石油連盟

木藤 石油連盟会長定例記者会見 発言要旨・配布資料

https://www.paj.gr.jp/news/871

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(108)

2024-01-26 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第4章:中東の戦争と平和(22)

 

108 イラン・イスラム革命(3/3)

同じころ東隣のアフガニスタンでは共産主義政権が生まれ、アフガニスタン戦争が始まる。アフガニスタン戦争はイデオロギー(智)と宗教(信仰=心)の二つの側面を持っていた。だからこそ水と油の関係の米国とアラブ・イスラーム諸国が呉越同舟でソ連に対抗したのである。即ち自由主義・資本主義のイデオロギーを奉じる米国はアフガニスタン戦争をソ連とのイデオロギー最終戦争と位置づけ、一方のアラブ・イスラーム諸国は社会主義・共産主義の無神論が侵入するのを阻止するための宗教戦争と位置付けたのである。

 

これに対してイラン・イスラーム革命は宗教という信仰の体制がシャー(皇帝)による自由主義・資本主義イデオロギーという「智」の体制に取って代わったのである。ソ連も米国もイランの体制の変化に当惑した。中でもシャーという中東で唯一無二の味方を失った米国の衝撃は大きかった。米国は人道的配慮を理由にシャーを亡命者として庇護した。これがイランの学生の反米感情に火をつけ、テヘランの米国大使館占拠事件に発展する。占拠は一年もの間続いた結果、今度は米国に強烈な反イラン感情が生まれそれは今に至っても収まる気配はない。イランと米国の不幸な関係の始まりである。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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石油と中東のニュース(1月25日)

2024-01-25 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・原油価格もみ合いの様相。Brent$79.59, WTI $74.41

・カタール、紅海船舶攻撃問題でヨーロッパ向けLNG船積み遅延

(中東関連ニュース)

・イスラエル、ガザのハマスと人質/捕虜交換で2カ月休戦提案か

・イスラエル、1日で兵士24人犠牲、内21人は予備兵

・イエメンフーシ派、紅海でMaersk米国子会社コンテナ船をミサイル攻撃

・フーシ派幹部:米国との緊張緩和のため船舶攻撃手控えの用意

・ヒズボッラー、イスラエルのレバノン戦線休戦提案を拒否

・エジプト大統領、イスラエル首相からの電話応答を拒否

・イラン大統領、2度の延期を経てトルコ訪問。エルドガン大統領と意見交換

・米政府、トルコへのF-16、200億ドル売却案を議会に提出

・サウジ、非ムスリムの外交官向け酒販売店開店。月240ポイントでビール1ポイント

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(107)

2024-01-24 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第4章:中東の戦争と平和(21)

 

107 イラン・イスラム革命(2/3)

白色革命によって最も影響を蒙ったのが都市のバザール(市場)商人であり、或いはイスラーム聖職者たちの宗教勢力であった。イスラームの預言者ムハンマドが隊商のリーダーであったこともありイスラームでは商人階層と宗教階層は相性が良い。中東の商人の力は侮りがたい。商人たちと聖職者は協力してシャー体制に抵抗した。抵抗運動に対して皇帝は彼らを容赦なく投獄或いは国外追放した。宗教指導者のホメイニ師も国外に追放され、パリから抵抗運動を指導した。

 

1978年、ホメイニ師に対する中傷記事をきっかけに聖地コムで暴動が発生、それを弾圧する政府に抗議しイスラム国家の樹立を叫ぶデモが燎原の火のごとくイラン全土に波及した。1979年1月、ついに皇帝シャーは国外に退去し、入れ替わりにホメイニ師がパリから帰国、ついにイスラム革命が成功したのである。

 

同年4月、国民投票によりイスラーム共和国の樹立が宣言された。ホメイニ師が提唱した「法学者の統治(ベラヤット・ファギー)」が国家体制の基礎とされた。イスラーム近代社会で初めて宗教国家が成立したのである。ベラヤット・ファギーとはイランのイスラーム信者の多数を占めるシーア派十二イマーム派特有の法理論であり、ムハンマドの死後その教えを引き継ぐ宗教指導者イマームが十二代目で途絶え(イマームはお隠れになった)、いずれの日かマハディ(救世主)が現れるまで、イスラーム指導者がマハディに代わって世の中を治めるとする理論であり、宗教支配を正当化することである。こうしてイランは世界でも稀な宗教国家となったのである。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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石油と中東のニュース(1月23日)

2024-01-23 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・原油価格:Brent $78.47, WTI $73.52

(中東関連ニュース)

・人質の所在求めイスラエルが空からビラばらまく

・EUがイスラエルとハマスを調停。2国家併存案をイスラエルは拒否

・イスラエル、ノルウェーのガザ向け課税還元凍結にOK

・カタール在住のハマス幹部Haniyeh、トルコ外相と会談

・紅海通航の船舶、フーシ派攻撃回避のためイスラエルと無関係宣言

・イスラエル、ダマスカスのイラン革命防衛隊宿舎攻撃、4名死亡

 

・トルコ国会、スウェーデンのNATO加盟問題審議開始

・イラン革命防衛隊、人工衛星打ち上げ。欧米は弾道ミサイル転用を警戒

・サウジ:外国大使館のアルコール類等禁制品横流しに規制

・サウジアラムコ、シェールガス開発プラントを中国Sinopec/スペインに発注

・サウジSABIC、中国で年産180万トンエチレンプロジェクトにゴーサイン

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(106)

2024-01-22 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第4章:中東の戦争と平和(20)

 

106 イラン・イスラム革命(1/3)

 1970年代末までのイランは中東で最も安定した国であった。1921年にコサック軍のレザー・ハーンがクーデタによりパハラヴィー王朝を樹立、それまでのペルシャという国名をイランに変更、第二次大戦ではナチス・ドイツに接近したため連合軍の進駐にあい、息子のムハンマド・パハラヴィーが皇帝の位を継承した。国内政治では共産党が力をつけ1951年にはモサデグが首相となり石油産業を国有化した。

 

イランの共産主義化と石油の国有化に危機感を抱いた米国はCIAの秘密工作によりモサデグ政権を転覆、パハラヴィー皇帝(シャー)が全権を掌握した。これ以降米国とイランの蜜月関係が始まり、米国は最新兵器を惜しげもなくイランに供与、皇帝は石油の富を米国に還元したのである。米国は不安定なイスラエル情勢を間接的に支え、中東の東半分ペルシャ湾周辺を安定させる役割をイランに託した。イランは「ペルシャ湾の警察官」と呼ばれるようになったのである。シャーは米国CIAとイスラエル・モサドの協力を得て国内に秘密警察(SAVAK)の網を張り巡らせ恐怖政治を行った。そして米国の歓心を買うため「白色革命」と称して農地改革、国営企業の民営化、婦人参政権などの近代化を強引に進めた。

 1970年代末までのイランは中東で最も安定した国であった。1921年にコサック軍のレザー・ハーンがクーデタによりパハラヴィー王朝を樹立、それまでのペルシャという国名をイランに変更、第二次大戦ではナチス・ドイツに接近したため連合軍の進駐にあい、息子のムハンマド・パハラヴィーが皇帝の位を継承した。国内政治では共産党が力をつけ1951年にはモサデグが首相となり石油産業を国有化した。

 

イランの共産主義化と石油の国有化に危機感を抱いた米国はCIAの秘密工作によりモサデグ政権を転覆、パハラヴィー皇帝(シャー)が全権を掌握した。これ以降米国とイランの蜜月関係が始まり、米国は最新兵器を惜しげもなくイランに供与、皇帝は石油の富を米国に還元したのである。米国は不安定なイスラエル情勢を間接的に支え、中東の東半分ペルシャ湾周辺を安定させる役割をイランに託した。イランは「ペルシャ湾の警察官」と呼ばれるようになったのである。シャーは米国CIAとイスラエル・モサドの協力を得て国内に秘密警察(SAVAK)の網を張り巡らせ恐怖政治を行った。そして米国の歓心を買うため「白色革命」と称して農地改革、国営企業の民営化、婦人参政権などの近代化を強引に進めた。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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