石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

ウクライナ紛争で激変したロシアと西欧のエネルギー貿易(1)

2024-07-31 | EIエネルギー統計

(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0609RussiaEuEnergyTrade2019vs2023.pdf

 

(西欧はガス・石油をどこから調達し、ロシアはどこへ転売したのか?)

 

2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、EUは対ロシア制裁を強化し、同年12月には海上輸送による原油輸入を停止、2023年2月には石油製品の輸入も禁止した。その後、G7とEUは追加制裁としてロシア産原油の輸出価格を1バレル60ドルに設定した。さらにロシア産ガスの輸入抑制を目的として2027年までに全てのロシア産エネルギーを禁輸する計画をたてている。この結果、ロシア・ヨーロッパ間の石油・天然ガスの輸出入は激減した。

 

2022年は新型コロナ禍が終息し世界経済が再発展するタイミングであっただけに、ヨーロッパは石油・天然ガスの新たな輸入先確保に追われ、またロシアは戦費調達のため石油・天然ガスの歳入を増やさねばならず新たな販売ルートを求めている。経済制裁はヨーロッパとロシア双方に多大な影響を及ぼしたのである。

 

本稿ではEI(Energy Institute)が発表した世界エネルギー統計2024年版(Statistical Review of World Energy 2024)のデータをもとに、2019年(新型コロナ禍以前)と2023年(ウクライナ侵攻後)のロシアと西欧双方の天然ガスと石油の輸出入関係を比較し、どのような変化が生じているかを検証したものである。

 

*世界エネルギー統計2024年版については本ブログの解説シリーズ(全11回)を参照ください。

 

(ロシアからの輸入量が激減、不足分を穴埋めできず!)

  1. パイプラインによるヨーロッパの天然ガス輸入量の変化

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/5-G10a.pdf参照)

2019年にヨーロッパがロシアからパイプラインで輸入した天然ガスは1,880億㎥であった。同年の輸入総量は4,713億㎥であったため、ロシア産は40%を占めていたことになる。そして2023年の輸入総量は3,408億㎥であり、うちロシアからの輸入は498億㎥であった。

 

2019年に比較するとロシアからの輸入量は▲1,382億㎥、率にして▲74%減少したことになる。ロシアからの輸入を補填したのはアルジェリア(214億㎥, 2019年→306億㎥, 2023年)、アゼルバイジャン(同112億㎥→236億㎥)などであり、地中海海底パイプライン或いはロシア領土を経由しない中央アジア旧CIS国家からのパイプラインによってヨーロッパの不足分が補充されたと考えられる。但し全体の輸入量も▲1,305億㎥(▲28%)減少していることから、パイプラインでの補充は不足分を穴埋めできなかったようである。

 

(続く)

 

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

     前田 高行     〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

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EI世界エネルギー統計(旧BP統計)2024年版解説シリーズ(10)天然ガス7

2024-07-28 | EIエネルギー統計

(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0608EiWorldEnergy2024.pdf

 

II. 天然ガス

3.天然ガスの輸出入

(2)2014年~2023年LNG輸出入量(続き)

(米国がLNG輸出世界一に!)

b. 輸出量(表http://bpdatabase.maeda1.jp/5-G02b.pdf参照)

2014年に3,336億㎥であったLNGの輸出量は、2017年以降増勢に転じ、2018年には4,300億㎥に達し、2021年に5千億㎥を突破、2023年の全世界の輸出量は5,492億㎥、2014年の1.6倍を記録している。

 

国別で見ると2014年当時はカタールの輸出量が1,036億㎥で、世界で唯一1千億㎥を超え、全世界の3分の1を占めていた。カタールに次ぐのがマレーシア(340億㎥)であり、第3位はオーストラリア(320億㎥)であった。

 

カタールは過去10年以上にわたり設備増強を凍結(モラトリアム)したため輸出量はほとんど増加していない。これに対してオーストラリアと米国は輸出が急増した。オーストラリアは2019年に1千億㎥の輸出体制を整え、2023年の輸出量は1,074億㎥に達し2位のカタールを急追している。オーストラリアをしのぐ勢いでLNG輸出トップに躍り出たのが米国である。2014年に4億㎥に過ぎなかった米国のLNG輸出量はシェールガスの開発が急速に発展し、2017年以降LNG輸出は急増した。2019年には500億㎥、2022年には1千億㎥を突破、2023年には遂に世界一のLNG輸出国になっている。2014年に比べると実に270倍に増加しているのである。

 

この結果、国別輸出シェアにも大きな変化が見られる。すなわちカタールは2014年の31%をピークに毎年シェアは下降し、2023は19.7%にとどまっている。一方米国は10年前の0.1%から2023年には世界シェア20.8%を達成、オーストラリアも2013年の10%から2023年にはカタールと並ぶ19.6%までシェアがアップしている。

 

米国、カタール、オーストラリアに次ぐLNG輸出大国のロシアは2013年に136億㎥を輸出、2023年には427億㎥を輸出している。ロシアはウクライナ紛争による欧米の経済制裁のため世界シェアが伸び悩んでいる。

 

(続く)

 

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EI世界エネルギー統計(旧BP統計)2024年版解説シリーズ(9)天然ガス6

2024-07-26 | EIエネルギー統計

(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0608EiWorldEnergy2024.pdf

 

II. 天然ガス

3.天然ガスの輸出入

(2)2014年~2023年LNG輸出入量

(対ロ経済制裁で急増した西欧のLNG輸入量!)

  1. 輸入量(表http://bpdatabase.maeda1.jp/5-G02a.pdf参照)

 過去10年間のLNG輸入量の推移を見ると、世界全体では 2014年の3,336億㎥から2023年には1.6倍の5,487億㎥に増加している。日本は2020年まで輸入量世界一であり、2014年は1,218億㎥のLNGを輸入した。これは原発の運転停止のため火力発電用LNGの輸入が急増したことが主な要因である。しかしそれ以降はほぼ一貫して前年を下回っており、2022年には1千億㎥を切り、2023年は903億㎥、2014年の7割にとどまっている。

 

一方、中国は毎年著しく増加しており、2014年の273億㎥が2023年には978億㎥に達し、10年間で3.6倍に増加、日本を抜いて世界一のLNG輸入国になっている。日本、中国に次いで輸入量が多いのは韓国であり、日中韓3か国の全世界に占める割合は2014年は60%であった。その後インド、西欧各国の輸入が伸び3か国のシェアは落ちているが、それでも2023年の世界シェアは45%を占めている。

 

国別輸入量の推移で特に注目されるのは、フランス、イタリアなどヨーロッパ諸国の輸入が急増していることである。2014年のフランスのLNG輸入量は69億㎥で日本の20分の1に過ぎなかったが、2023年は4.4倍の307億㎥、インドに次いで世界第5位のLNG輸入国に変身している。イタリアも同様2014年の45億㎥から2023年には3.6倍の163億㎥に増加している。増加は2022年以降に特に顕著であり、これはウクライナ戦争にからみロシアからのパイプラインによる天然ガス輸入がストップしたためである。

 

最近では地球温暖化問題が重視され、石油・石炭より二酸化炭素排出量が少ない天然ガスの需要が増加したため、世界全体にLNGの輸入が増加している。10年間で1.6倍、年平均5.8%の増加率を示している。そのような中で日本だけは10年前の7割に減少し、年率で▲3.2%減少しているのは特異なことである。

 

(続く)

 

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EI世界エネルギー統計(旧BP統計)2024年版解説シリーズ(7)天然ガス4

2024-07-24 | EIエネルギー統計

II. 天然ガス

3.天然ガスの輸出入

(1)2023年の国別天然ガス輸出入量

(1-1) パイプライン

(EUが世界全体の四割を占めるパイプライン輸入量!)

a. 輸入量(表http://bpdatabase.maeda1.jp/5-T02a.pdf参照)

2023年のパイプラインによる貿易量は6,770億㎥であった。これを国・地域別に見ると、輸入量が最も多いのはEUの2,691億㎥であり、世界全体の40%を占めている。これに次いで輸入量が多いのは米国の790億㎥であるが、同国の場合、次項(パイプライン輸出量)に見る通り891億㎥がパイプラインで輸出されている。国境を接するカナダ及びメキシコとの間に数多くのガスパイプラインがあり、このうち米国・カナダの両国間では大量の天然ガスが輸出或いは輸入されている。輸出入を相殺すると米国全体としては輸出超過の状態である。

 

EU、米国に次ぐ輸入国は中国とメキシコが610億㎥で並んでいる。中国はロシアの他、ウズベキスタンなど中央アジア各国から天然ガスを輸入している。5位はカナダ(280億㎥)である。なおカナダについては790億㎥の天然ガスがパイプラインを通じて米国に輸出されており(次項参照)、差し引きすれば輸出超過である。

 

輸入量第6位のUAEは石油の有力な輸出国であるが、国内の発電・造水用にガス燃料が必要であり、不足分を隣国カタールからパイプラインで輸入している。

 

(1千億億㎥を超えるノルウェーの輸出量!)

b. 輸出量(表http://bpdatabase.maeda1.jp/5-T02b.pdf参照)

2023年にパイプラインにより最も多量の天然ガスを輸出したのはノルウェーの1,107億㎥で、全世界(6,770億㎥)の16%を占めている。2位のロシアの輸出量は954億㎥であった。3位米国は891億㎥の天然ガスを輸出しているが、同時に790億㎥を輸入しており、純輸出量は101億㎥となる。4位カナダの輸出量は790億㎥であるが、同時に280億㎥を輸出しており純輸出量は510億㎥である。

 

(注)米国、カナダのように輸出と輸入を同時に行う例はロシア、カザフスタンなどにも見られるがいずれも輸入量はさほど多くない。

 

5位以下10位までの輸出国とその量は以下の通りである。

トルクメニスタン(395億㎥)、アルジェリア(345億㎥)、アゼルバイジャン(239億㎥)、カタール(195億㎥)、オランダ(182億㎥)、イラン(143億㎥)

 

(続く)

 

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EI世界エネルギー統計(旧BP統計)2024年版解説シリーズ(6)天然ガス3

2024-07-18 | EIエネルギー統計

 

II. 天然ガス

1.世界の消費量

(世界の天然ガスの22%を消費する米国!)

(1)2023年の国別消費量  (表http://bpdatabase.maeda1.jp/3-T01b.pdf参照)

 2023年の世界の天然ガス消費量は4兆102億立法メートル(㎥)であり前年(2022年)比では横ばいである。

 

 天然ガスの最大の消費国は米国であり、消費量は8,865億㎥、世界全体の22%を占める。同国は石油消費量も世界1位でありエネルギー消費大国である。2位はロシアの4,534億㎥、3位は中国の4,048億㎥である。これら3か国の世界シェア合計は44%に達する。4位はイラン、5位はカナダであり、6位サウジアラビア、7位メキシコに続いて8位を日本が占めている。9位、10位はドイツ及びUAEであり、上位10カ国が世界全体の消費量に占める割合は64%に達する。

 

 これら上位10カ国の顔触れを石油の消費国順位と比較すると、米国、ロシア、中国、カナダ、サウジアラビア及び日本の6カ国は両方に顔を出しているが、イラン、カナダ、メキシコ及びドイツは石油消費の上位10傑に入っていない。

 

(1970年以降の半世紀で消費量4倍に急成長!)

(2) 1970~2023年の消費量の推移(図http://bpdatabase.maeda1.jp/3-G02b.pdf参照)

 1970年に9,600億㎥であった天然ガスの消費量はその後1992年に2兆㎥、2008年には3兆㎥の大台を超え、2021年に4兆㎥を超え2023年の消費量は4兆102億㎥に達している。1970年から2023年までの間で消費量が前年度を下回ったのは1997年、2009年、2020年及び2022年の4回であり、53年間の増加率は4倍を超えている。

 

石油の場合は第二次オイルショック後の1980年から数年間にわたり急激に消費量が減った例に見られるように、価格が高騰すると需要が減退すると言う市場商品としての現象が見られる。天然ガスの場合は輸送方式がパイプラインであれば生産国と消費国が直結しており、またLNGの場合もこれまでのところ長期契約の直売方式が主流である。そして天然ガスは一旦流通網が整備されると長期かつ安定的に需要が伸びる傾向がある。これに加え最近では地球環境問題の観点からCO2排出量の少ない天然ガスの需要が増加している。この結果天然ガス消費量は石油の2倍のスピードで増加している。

 

(4千億㎥を超えた中国、1千億㎥を割った日本!)

(3) 米国、中国、日本、インド4カ国の過去10年間の消費量推移

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/3-G03b.pdf参照)

米国(2023年の天然ガス消費量世界1位)、中国(同3位)、日本(同8位)及びインド(同12位)の2014年から2023年までの消費量の推移を見ると、2014年は米国が7,223億立方メートル(㎥)、次いで中国が1,884億㎥、日本1,248億㎥、インド485億㎥であり、米国とその他3カ国の格差は4倍以上であった。その後中国の消費量は急ピッチで増加、2016年には2千億㎥、2019年には3千億㎥を突破、2023年の消費量は4,048億㎥を記録し、米国との格差は2倍程度まで縮まっている。

 

 一方、日本の消費量は2014年の1,248億㎥が過去10年間の最高であり、その後は年々減少、2023年には924億㎥と1千億㎥を切り、中国の4分の1以下、米国の10分の1程度に縮小している。インドは2014年の消費量485億㎥に対し2023年は626億㎥であり過去10年間に1.3倍増加している。

 

(続く)

 

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EI世界エネルギー統計(旧BP統計)2024年版解説シリーズ(5)天然ガス2

2024-07-17 | EIエネルギー統計

II. 天然ガス

1.世界の生産量(続き)

(トップを独走する米国!)

(3)主要国の2014~2023年の生産量推移(図http://bpdatabase.maeda1.jp/2-G03b.pdf参照)

 2014年から2023年までの天然ガス生産量の推移について、ここでは2023年世界1位、2位、3位の米国、ロシア及びイランに加え、同6位カタール、7位オーストラリアの5カ国の動きを見る。

 

 2014年の米国とロシアの天然ガス生産量はそれぞれ7,047億㎥及び5,912億㎥であり米国がロシアを19%上回っていた。米国ではシェールガス開発が軌道に乗り生産量が急増、低迷するロシアをしり目に両国の格差は2017年以降急速に拡大している。2020年の生産量はロシアの6,384億㎥に対し米国は1.5倍近い9,248億㎥であった。更に2022年及び2023年はウクライナ紛争による西欧諸国の輸入制限によりロシアの天然ガス生産量が急減した。2023年の生産量は米国が1兆㎥を超え、一方ロシアは10年前の2014年を下回る5,864億㎥にとどまっている。

 

 カタールとイランの生産量は2015年までほとんど同じであった。LNG輸出中心のカタールは2010年までにLNG年産7,700万トン体制を整え、長期契約により世界のLNG市場をリードしているが、供給過剰を回避するため新規設備投資を凍結する「モラトリアム体制」を取った。このため2010年代を通じて生産量はほとんど増えていない。これに対して1億人近い人口を抱えるイランは国内のエネルギー消費を賄うため天然ガスの生産を高めた。この結果2023年の生産量はイランの2,517億㎥に対しカタールは1,810億㎥にとどまり、2014年に比べるとイランは1.4倍増加したのに対し、カタールは1.1倍の増加にとどまっている[1]

 

 カタールの生産量が停滞している間に意欲的な増産に取り組んだのがオーストラリアである。同国の2014年の生産量は653億㎥でありカタールの4割にとどまっていたが、2023年には1,517億㎥に拡大しカタールに迫っている。

 

(続く)

 

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[1] 現在、カタールは「設備増強モラトリアム宣言」を撤回し、年産1億2千万トンを目指して設備の増強に着手、LNG輸出市場での主導権を回復しようとしている。

 

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EI世界エネルギー統計(旧BP統計)2024年版解説シリーズ(4)天然ガス1

2024-07-15 | EIエネルギー統計

II. 天然ガス

1.世界の生産量

(シェールガス開発で伸びる米国、欧米の経済制裁で激減するロシア!)

(1) 2023年の国別生産量 (表http://bpdatabase.maeda1.jp/2-T01b.pdf参照)

 2023年の世界の天然ガス生産量は年産4兆592億立法メートル(㎥)であり、前年(2022年)を若干上回っている。最大の生産国は米国であり、年産量は1兆353億㎥、世界全体の4分の1を占めている。同国は石油生産量も世界1位であり(I.1.(1)参照)、エネルギー生産大国である。2位はロシアの5,864億㎥で、米露2か国だけで世界シェアは4割に達する。ロシアの生産量は前年を5.2%下回っているが、これはウクライナ戦争をめぐる欧米の経済制裁によりヨーロッパ向けのパイプラインによる輸出がストップしているためである。

 

3位はイラン、4位中国で5位カナダ、6位はLNG輸出大国カタールである。7位から10位までの生産国を列挙すると、オーストラリア、ノルウェー、サウジアラビア及びアルジェリアの各国である。

 

 これら上位10カ国の顔触れを石油と比較すると、米国、ロシア、イラン、中国、カナダ、サウジアラビアの6カ国は両方に顔を出しているが、カタール、オーストラリア、ノルウェー及びアルジェリアの4カ国は石油生産上位10カ国に入っていない(同様に石油生産上位10カ国のうちイラク、UAE、ブラジル及びクウェイトの4カ国は天然ガス生産上位10カ国に入っていない)。これは各国に存在する油田あるいはガス田の地質構造上の違いによるもので、ごく大まかにいえばカタール、オーストラリア、アルジェリアなどはガス単体のいわゆるドライガス田が多く、一方、イラク、UAE、クウェイトなどはガスと原油が一緒に生産されるウェットガス田であり、天然ガスが原油の生産に左右されるためである。

 

(50年間で4倍になった天然ガス生産!)

(2) 1970~2023年の生産量の推移 (図http://bpdatabase.maeda1.jp/2-G02b.pdf参照)

 1970年の世界の天然ガス生産量は9,800億㎥であった。その後半世紀の間生産量は毎年大きく増加し、2023年には1970年の4.1倍の4兆600億㎥に達している。この間、前年比でマイナスになったのは1997年、2009年及び2020年の3回だけである。

 

 年間生産量が1兆㎥を超えたのは1971年であるが、その後は5~7%の成長を続け20年後の1992年に2兆㎥に達した。その後、増加のスピードは加速し、年産3兆㎥を達成したのは16年後の2008年であった。そして2021年には4兆㎥を超えている。

 

(続く)

 

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EI世界エネルギー統計(旧BP統計)2024年版解説シリーズ(3)石油3

2024-07-12 | EIエネルギー統計

I.石油(続き)

3.石油精製能力

(拮抗する米国と中国の石油精製能力!)

(1) 2023年の国別石油精製能力 

(表http://bpdatabase.maeda1.jp/3-T01d.pdf参照)

 2023年の世界の石油精製能力は1億350万B/Dである。国別で精製能力が最も高いのは中国の1,848万B/Dであり、米国は中国よりほんのわずかに少ない1,843万B/Dである。両国はそれぞれ世界全体の精製能力の18%弱を占めている。両国に次いで高い精製能力を保有しているのはロシアである。ロシアは678万B/Dの能力を有しているが米国、中国の3分の1程度にとどまっている。

 

 世界4位はインド(509万B/D)、5位韓国(336万B/D)、6位サウジアラビア(329万B/D)であり、7位に日本(307万B/D)がランクされている。8位、9位及び10位の各国とその精製能力は以下のとおりである。

 

 8位イラン(260万B/D)、9位ブラジル(229万B/D)、10位ドイツ(208万B/D)。

 

(ついにトップに躍り出た中国!)

(3) 米国、中国、日本、韓国、インド5カ国の過去10年間の精製能力推移

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/3-G03d.pdf参照)

 米国とアジア4カ国(日、中、韓、印)の 2014年から2023年まで10年間の石油精製能力の推移を追う。

 

 2014年の米国の精製能力は1,797万B/Dであり、中国1,525万B/D、インド万B/D、日本375万B/D及び韓国372万B/Dであった。米国は2019年に1,897万B/Dのピークに達したが、2021年には精製能力は100万B/D削減され1,794万B/Dとなり、2023年は1,843万B/Dまで回復した。

 

 これに対し中国の精製能力は2016年を底にその後は急激に能力を高め、2019年には1,600万B/D、2022年に1,700万B/D台へと増加のスピードが上がり、米国との格差が縮小した。そして2023年には1,848万B/Dとなりついに米国を上回る精製能力を確保している。

 

 日本と韓国とインドの3か国を比較すると、2014年はインドの精製能力は432万B/Dですでに日本(375万B/D)を上回っており、韓国の精製能力は日本を60万B/D強下回っていた。過去10年間を通して見ると、日本は一貫して減少しており、2023年の精製能力は300万B/Dをわずかに超える307万B/Dにとどまっている。

 

一方、韓国は2019年までは精製能力が拡大し続け日本を追い抜いた。ここ数年は横ばい状態であるが、2023年の精製能力は336万B/Dで、世界第5位に位置付けられている。インドは日本と逆に過去10年間継続して精製能力が増強しており、2023年の同国の能力は509万B/Dに達している。

 

(続く)

 

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EI世界エネルギー統計(旧BP統計)2024年版解説シリーズ(2)石油2

2024-07-11 | EIエネルギー統計

I.石油(続き)

2.世界の消費量

(全世界の石油消費量が初めて1億B/Dを突破!)

(1) 2023年の国別消費量 (表http://bpdatabase.maeda1.jp/3-T01a.pdf参照)

 2023年の世界の石油消費量は1億22万B/Dであり、史上初めて1億B/Dを突破した。国別で石油消費量が最も多いのは米国の1,898万B/Dであり、世界全体の19%を占めている。これに次ぐのが中国の1,658万B/D、シェア17%である。消費量が1千万B/Dを超えるのはこの2カ国だけであり、3位インド(545万B/D)と比べると米国は3.5倍、中国は3倍の消費量を誇っている。米国と中国は石油の爆食国であると言えよう。

 

 世界4位はサウジアラビア(405万B/D)、5位ロシア(364万B/D)、6位日本(337万B/D)である。7位から10位までの各国の順位と消費量は以下のとおりである。

 

 7位韓国(280万B/D)、8位ブラジル(257万B/D)、9位カナダ(235万B/D)、10位メキシコ(196万B/D)。

 

(1970年の消費量5千万B/D弱が半世紀後の2023年には1億B/D超える!)

(2) 1970~2023年の消費量の推移(図http://bpdatabase.maeda1.jp/3-G02a.pdf参照)

1970年の全世界の石油消費量は4,570万B/Dであったが、2年後の1972年に5千万B/D台に、そして1977年には6千万B/D台を超える急増ぶりであった。その後1980年代は横ばい状態であったが、1990年以降再び増加に勢いがつき、1995年に7千万B/D、2004年に8千万B/D、2014年に9千万B/Dを突破、ほぼ10年毎に1千万B/D増加した。2020年はコロナ禍の影響で消費が急減したが、2023年は1億B/Dを突破している。

 

(日本を追い抜き格差広げるインド!)

(3) 米国、中国、日本、インド4カ国の過去10年間の消費量推移

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/3-G03a.pdf参照)

 2023年の石油消費量が世界1位から3位までの米国、中国、インド及び世界6位の日本の4カ国について2014年から2023年まで10年間の石油消費量の推移を追う。

 

 2014年の米国の消費量は1,811万B/Dであり、中国1,102万B/D、日本438万B/D及びインド387万B/Dであった。米国は2019年に1,942万B/Dのピークに達したが、2020年はコロナ禍のため1,718万B/D強に急減した。2023年の消費量は1,898万B/Dであり、ほぼコロナ禍前の水準まで回復している。

 

 これに対し中国の消費量は2014年以降昨年まで一本調子で増加している。即ち、2014年は1,102万B/Dであったが、2017年には1,300万B/Dを突破、さらに2019年には1,432万B/Dとなり、コロナ禍の間も横ばいを維持し、2023年の消費量は過去最大の1,658万B/Dに達した。10年前には米国と中国の消費量の差は700万B/Dであったが、10年後には240万B/Dまで格差が縮小している。

 

 日本の消費量は過去10年間ほぼ一貫して減少しており、2014年には米国、中国に次いで世界3位であったが、2015年にはインドに追い抜かれ世界4位に転落した。その後さらにサウジアラビア及びロシアにも追い抜かれ、昨年の消費量は世界6位の337万B/Dであった。

 

 日本とは逆にインドはコロナ禍の2020年21年を除き消費量は増え続けている。2014年の同国の石油消費量は386万B/Dであったが、2023年には1.4倍の545万B/Dに達している。日本の場合は2023年は2014年の0.8倍であり、10年間で2割減少しており、インドと対照的である。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

     前田 高行     〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

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EI世界エネルギー統計(旧BP統計)2024年版解説シリーズ(1)石油1

2024-07-10 | EIエネルギー統計

ロンドンに本社を置くEnergy Institute (以下EI)が2024年世界エネルギー統計(Statistical Review of World Energy 2024)を発表した。

*HP:https://www.energyinst.org/statistical-review

 

因みにEIはエネルギー関連分野のエンジニアやその他の専門家のための専門組織であり、2003 年に石油協会とエネルギー協会が合併して設立され、約 20,000 人と 200 社の国際会員がいる(ウィキペディアより)。本統計は2022年まで国際石油企業bp社が発表してきた世界エネルギー統計(bp Statistical Review of World Energy)をそっくり引き継いだものである。

 

以下は同レポートの中から世界のエネルギーの生産量、消費量、貿易量等について石油及び天然ガスを中心として解説したものである。

 

なお2022年以前のbpエネルギー統計については下記をご参照ください。

http://mylibrary.maeda1.jp/BPstatistics.html

 

I.石油

1.世界の生産量

(1千万B/Dを超える米国、サウジアラビア、ロシア!)

(1) 2023年の国別生産量(表http://bpdatabase.maeda1.jp/2-T01a.pdf参照)

 2023年の世界の石油生産量は9,626万B/Dであり、前年の9,441万B/Dを2%上回った。国別では米国が最も多く1,936万B/Dであり、これは全世界の生産量の20%を占め突出している。これに次ぐのがサウジアラビアの1,139万B/D、ロシア1,108万B/Dで共に全世界の12%近くを占めているが米国の半分強にとどまっている。前年と比較すると米国が8.5%増加したのに対して、サウジアラビアとロシアはOPEC+(プラス)の協調減産方針に基づき前年を下回る生産量にとどまっている。生産量が1千万B/Dを超えるのはこの3カ国だけであり、3カ国の世界生産に占める割合は43%に達している。

 

 世界4位のカナダから10位クウェイトまでの各国の順位と生産量は以下のとおりである。

 4位カナダ(565万B/D)、5位イラン(466万B/D)、6位イラク(436万B/D)、7位中国(420万B/D)、8位UAE(392万B/D)、9位ブラジル(350万B/D)、10位クウェイト(291万B/D)。

 

(50年間で2倍に増えた石油生産量!)

(2) 1970~2023年の生産量の推移(図http://bpdatabase.maeda1.jp/2-G02a.pdf参照)

 1970年に4,800万B/Dであった石油の生産量は1980年には6,300万B/Dに増加した。1980年代前半は価格高騰のため需要が減少、生産量も減少を余儀なくされたが、1985年以降再び成長軌道に乗り2004年には8千万B/Dを、また2015年には9千万B/Dを突破し2019年には9,500万B/Dに達した。2020-22年は新型コロナウィルス禍のため経済活動が低迷、石油需要も大幅に減退したため、生産量は9千万B/D前後まで低下した。しかし2023年の生産量は9,626万B/Dと新型コロナ禍以前の水準を超えるまでに回復している。

 

(シェールオイル開発で米国が驚異的な生産増!)

(3)主要国の過去10年間の生産量の推移(図http://bpdatabase.maeda1.jp/2-G03a.pdf参照)

 ここでは石油生産量が世界1~3位の米国、サウジアラビア、ロシアに加え、米国の経済制裁のため石油輸出に苦しむ世界5位のイラン及び世界8、9位のUAE、ブラジルの6カ国について過去10年間の生産量の推移を検証する。

 

 2014年の石油生産量は米国が1,181万B/Dと最も多く、サウジアラビアが僅差の1,152万B/Dで続き、ロシアも1千万B/Dを超える生産量であった。これに対しイランは371万B/D、UAE 359万B/D、ブラジルは234万B/Dであった。

 

 この後シェールオイルの生産を本格化させた米国は2017年以降加速度的に増産し、世界一の石油生産国の座を確固たるものとしている。これに対し石油歳入に頼るサウジアラビアとロシアは石油価格の高値維持を狙い、OPEC+(プラス)として協調減産体制をとった結果、生産量は長期にわたり停滞している。

 

 イランは2015年まで400万B/Dを下回るレベルで推移した。その後2017年には494万B/Dまで回復したが、2020年には大きく減退し(323万B/D)、過去10年間では最も低い生産量となった。これは米国の経済制裁とコロナ禍の影響が重なったためである。コロナ禍が終息した2023年の生産量は466万B/Dまで回復、コロナ禍前の水準に戻った。イランはOPEC+の協調減産の対象外であり、さらに欧米の禁輸制裁措置をかいくぐり、中国、インドなどへの輸出が伸びていることが生産増の要因である。

 

 UAEの2014年の生産量は359万B/Dでイランとほぼ同じである。このような状況は10年間続いており、2016年から2018年まではイランがUAEを上回り、2019年から2022年まではUAEがイランを上回っている。しかし2023年はUAEの生産量392万B/Dに対し、上記の通りイランの生産量は466万B/Dに達し再びイランがUAEを追い越している。

 

 ブラジルは深海油田の開発が軌道に乗り、2014年以降生産量が順調に増加した。即ち2014年に234万B/Dであった同国の石油生産量は、2020年には他の産油国が新型コロナ禍の影響で生産が減少した中で唯一前年を上回り300万B/Dの大台を突破した。そして2023年には過去10年間で最高の350万B/Dにアップ、10年前に比べ120万B/D増加している。

 

(続く)

 

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

     前田 高行     〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

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