その7.またも生産量据置を決めた第148回総会
3月5日ウィーンで第148回OPEC総会が開かれ、前回、前々回に続き加盟国の現行の目標生産量を据え置くことが決定された (イラクを除く12カ国合計2,967万B/D) (注)。OPECは昨年9月11日の総会で50万B/Dの増産を決定した後、12月5日(第146回)、今年2月1日(第147回)そして今回とわずか3ヶ月の間に3回の総会を開催しており、11月にはリヤドでOPEC首脳会議も開くなど、過去に例のない頻度で加盟国間の意見調整を行っている。
この間の原油価格の推移を見ると(WTI)、11月から今年1月はバレル当り85~95ドルで推移している。そして今年2月に入ってからは上げ足を早め、148回総会直後の3月6日の時間外取引ではついに史上最高の105.97ドルを記録した(上図参照)。第二次オイルショック後の1980年に記録した最高価格(40ドル強)をインフレ係数による現在価格に換算すると101ドルである。従って今や原油価格は史上最高値を更新し続けているのである。
3回にわたる会議にもかかわらずOPECは消費国が強く期待した増産を見送った。むしろOPECのハリル議長は、出身国のアルジェリア石油相の立場として減産の可能性すら指摘したほどである。これに対して消費国の立場を代弁する国際エネルギー機関(IEA)は、産油国特にOPEC諸国に増産を求め続け、また最大の消費国である米国のブッシュ大統領は、今年1月の中東和平行脚で訪問したサウジアラビアUAE、クウェイトなど各国で原油の増産を働きかけ、さらに大統領帰国直後にボドマン・エネルギー庁長官をサウジアラビアに派遣して増産を確約させようとしたほどである。
それにもかかわらず今回の総会は現行維持を決めたわけであるが、OPECはその理由についてプレスリリースの中で、(1)市場には十分な量の石油が供給されているが、(2)高価格はドル安とインフレおよび投機資金によるものである、と説明している 。総会にはエジプト、メキシコ、オマーン、ロシア及びスーダンもオブザーバーとして出席しており、OPECのシグナルは消費国および非OPEC諸国にも明確に発信されたわけである。
ロイターはOPEC12カ国(イラクを除く)の1月の生産量は3,020万B/Dと報じており 、OPEC加盟国は目標量を上回る生産を続けている。国内の治安の悪化で生産が落ち込んでいるナイジェリア、あるいは国有化問題でExxonMobilと係争中のベネズエラ、さらには生産枠の対象外とされているイラクの3カ国は政治的な理由で能力を下回る生産水準にあるが、その他のOPEC加盟国はいずれも生産能力一杯のフル生産の状態にある。
非OPECを含む世界の産油国の中で余剰生産能力があると見られているのはわずかにサウジアラビアくらいである。同国国営石油会社アラムコのジュマCEOは最近行われたCERA会議で、同国は2009年末までに生産能力を1,200万B/Dに引き上げ、そのために今後5年間に900億ドルを投資する、と述べている 。サウジアラビア以外にも、イラク、イラン、クウェイトなど確認済みの豊富な埋蔵量を有する国はいくつかあり、それらの国で油田の開発と生産が進展すれば世界の石油余剰生産能力がアップする可能性は残されている。仮にこれらの国が油田開発に着手しても実際に原油の生産が実現するのは数年先のことであるが、実は問題の確信は別のところにある。それは、原油からガソリンなどの石油製品を精製する製油所の能力が世界的に不足しており、しかも新たに市場に登場する原油は硫黄分の多い重質油で、日本を除く世界の製油所の多くがこれを処理できないからである。
米国ではここ数十年間、製油所の新設・増設が行われておらず、それが米国内における慢性的な石油高値の原因になっていると言われている。問題は産油国における原油の増産投資と、消費国における精製能力の増強投資の双方を視野に入れた取組みが必要なのである。但し米国のサブプライム問題に端を発して、世界的な不況の影が忍び寄っている。原油を増産し、製油所設備を増強することが本当に必要なのか否か、現在むずかしい判断を迫られていることも事実である。
(注)目標生産量2,967万B/Dの国別内訳は以下の通りである。(単位:万B/D)
アルジェリア(135.7)、アンゴラ(190)、エクアドル(52)、インドネシア(86.5)、イラン(381.7)、クウェイト(253.1)、リビア(171.2)、ナイジェリア(216.3)、カタル(82.8)、サウジアラビア(894.3)、UAE(256.7)、ベネズエラ(247)。合計2,967.3万B/D。
(第7回完)
(これまでの内容)
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