(これまでの内容)
(第1回) 緊急会合の合意内容といくつかの疑問点
(第2回) 疑問1:何故緊急会合が必要だったのか?
(第3回)疑問2:何故「生産枠の縮小」ではなく、「生産量の削減」としたのか?
今回のOPECの決定が従来と大きく異なるのは、決定された内容が生産「枠」の縮小ではなく、生産「量」そのものの削減だったことにある。過去に生産量の削減のみを決議した例は、1998年3月の臨時会合で124.5万B/Dの削減を決めたケースだけである。因みにこの時は3ヵ月後に新たな生産枠を決定し、同時にイラクを生産枠の対象外とすることになり現在に至っている。この2回の会合以外ではすべて生産枠の拡大または縮小という形の決議を行っている。生産「枠」を如何に拡大または縮小するか、がOPEC会合の基本的な姿であった。
1998年は石油価格が1バレル当り12ドルまで急落したため、この時OPECは生産枠を同年1月の2,620万B/D(但しイラクを除くOPEC10カ国)から、4月には2,580万B/D、更に7月には2,400万B/D強へと大幅に削減している。(当時イラクは経済制裁を受け極端に低い生産水準であったため、同国は生産枠縮小の対象外となった)
これに比べ今回は原油価格が7月の最高値78ドルから20%近く下落したとは言え、まだかなり高い水準であることは間違いない。一方、2004年以降の急激な値上がりに対し、消費国の強い要請でOPECは生産枠を拡大し続け、昨年7月以降は2,800万B/Dと、最高の生産水準となっている。この結果、油価が高く、需要が堅調であるにもかかわらず、後述するように加盟国の中には自国の生産枠を下回る国が続出しており、サウジアラビアなどごく一部を除き他のOPEC加盟国はこれ以上の生産枠の拡大に応じられないのが実情である。
OPEC Monthly Report(10月)によれば、OPEC11カ国の9月の実際の生産量は2,970万B/Dであり、生産枠の対象外であるイラクを除くと、10カ国の生産実績は2,760万B/Dとなっている。つまり公式生産枠2,800万B/Dに対して、実際の生産量は40万B/D下回っているのである。しかし生産枠と生産量の格差は各国で大きく異なっており、10カ国のうち生産量が生産枠を上回っている国と下回っている国が半々である。即ち生産量が生産枠を上回っているのは、アルジェリア、クウェイト、リビア、カタル及びUAEの5カ国で、逆に生産量が生産枠を下回っているのはインドネシア、イラン、ナイジェリア、ベネズエラ及びサウジアラビアの5カ国である。但しサウジアラビアは生産枠910万B/Dに対し生産量は909万B/Dと殆ど差がなく、むしろ同国はOPECが定めた生産枠を最も忠実に守っている、というのが正しい見方であろう。
イラクを除くOPEC10カ国全体では、実際の生産量は生産枠(2,800万B/D)を1.4%下回っているが、国別に見るとアルジェリアは、生産枠(89万B/D)を1.5倍強も上回る138万B/Dを生産しており、またクウェイト、リビア、カタルも生産枠を1割以上上回っている。これに対してインドネシアは生産枠145万B/Dに対して生産量は40%低い88万B/Dにとどまっており、ベネズエラも2割強下回っている(生産枠322万B/D、生産量255万B/D)。またイラン(同411万B/D、同388万B/D)やナイジェリア(同231万B/D、同221万B/D)は生産枠を5%前後下回る生産水準である。生産量が生産枠を下回っている理由は、インドネシアの場合、油田が枯渇し生産量が頭打ちと言う物理的な理由であるが(インドネシアは既に石油の純輸入国であり、石油「輸出国」機構、即ちOPECメンバーたる資格が問われているほどである )、その他の3カ国(ベネズエラ、イラン及びナイジェリア)の場合は、内政又は外交等の人為的な理由である。即ちベネズエラ及びイランは米国を中心とする経済制裁のために能力に見合う生産をすることができず、またナイジェリアは国内テロで石油企業の社員や施設がテロの標的になり、生産水準を上げることができないのである。
削減のベースを各国の生産枠とするのか、それとも実際の生産量とするのか、OPEC内部で大きく意見が分かれたのは、このように実際の生産量が生産枠に達しない国とそうでない国とがあったからである。ベネズエラやイランなどは生産枠の削減を主張し、サウジアラビアを含むその他大半のメンバーは実際の生産量の削減を主張した 。OPECは加盟国間の公平さを維持するため、国別の削減率をほぼ等しくするのが通例である。例えば各国が総枠の5%程度の削減に合意すれば、国別の削減割当も5%前後とされる。今回の場合、仮に生産枠から4%削減(112万B/D減)とするなら、ベネズエラやイランなど既に実際の生産量が生産枠を4%以上下回っている生産国にとっては、実害は全く無いことになる。これでは112万B/Dという削減量を実現できないことは明らかである。このため市場の関係者も、実生産量ベースの削減なら価格は反転するが、生産枠からの削減ではむしろ価格は更に低下するであろう、と述べている 。
10月19-20日のカタールでの緊急会合で、サウジアラビアのナイミ石油相は、市場の信任を得るためには実生産量ベースの削減でなければ意味が無い、と強く主張した。多くの国は彼の主張に賛同し、結局実際の生産量を削減(120万B/D)することが決定されたのである。
(今後の予定)
4.疑問3:何故削減量を120万B/Dに決めたのか?
5.疑問4:どのような根拠で各国の削減量を決めたのか?
6.疑問5:今後のOPECと世界の石油市場はどうなるのか?
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