石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

(ニュース解説)OPEC、緊急会合で120万B/D減産―五つの疑問(3)

2006-10-31 | 今週のエネルギー関連新聞発表

(これまでの内容)

(第1回) 緊急会合の合意内容といくつかの疑問点

(第2回) 疑問1:何故緊急会合が必要だったのか?

 

(第3回)疑問2:何故「生産枠の縮小」ではなく、「生産量の削減」としたのか? 

 今回のOPECの決定が従来と大きく異なるのは、決定された内容が生産「枠」の縮小ではなく、生産「量」そのものの削減だったことにある。過去に生産量の削減のみを決議した例は、1998年3月の臨時会合で124.5万B/Dの削減を決めたケースだけである。因みにこの時は3ヵ月後に新たな生産枠を決定し、同時にイラクを生産枠の対象外とすることになり現在に至っている。この2回の会合以外ではすべて生産枠の拡大または縮小という形の決議を行っている。生産「枠」を如何に拡大または縮小するか、がOPEC会合の基本的な姿であった。

 1998年は石油価格が1バレル当り12ドルまで急落したため、この時OPECは生産枠を同年1月の2,620万B/D(但しイラクを除くOPEC10カ国)から、4月には2,580万B/D、更に7月には2,400万B/D強へと大幅に削減している。(当時イラクは経済制裁を受け極端に低い生産水準であったため、同国は生産枠縮小の対象外となった)

 これに比べ今回は原油価格が7月の最高値78ドルから20%近く下落したとは言え、まだかなり高い水準であることは間違いない。一方、2004年以降の急激な値上がりに対し、消費国の強い要請でOPECは生産枠を拡大し続け、昨年7月以降は2,800万B/Dと、最高の生産水準となっている。この結果、油価が高く、需要が堅調であるにもかかわらず、後述するように加盟国の中には自国の生産枠を下回る国が続出しており、サウジアラビアなどごく一部を除き他のOPEC加盟国はこれ以上の生産枠の拡大に応じられないのが実情である。

 OPEC Monthly Report(10月)によれば、OPEC11カ国の9月の実際の生産量は2,970万B/Dであり、生産枠の対象外であるイラクを除くと、10カ国の生産実績は2,760万B/Dとなっている。つまり公式生産枠2,800万B/Dに対して、実際の生産量は40万B/D下回っているのである。しかし生産枠と生産量の格差は各国で大きく異なっており、10カ国のうち生産量が生産枠を上回っている国と下回っている国が半々である。即ち生産量が生産枠を上回っているのは、アルジェリア、クウェイト、リビア、カタル及びUAEの5カ国で、逆に生産量が生産枠を下回っているのはインドネシア、イラン、ナイジェリア、ベネズエラ及びサウジアラビアの5カ国である。但しサウジアラビアは生産枠910万B/Dに対し生産量は909万B/Dと殆ど差がなく、むしろ同国はOPECが定めた生産枠を最も忠実に守っている、というのが正しい見方であろう。

 イラクを除くOPEC10カ国全体では、実際の生産量は生産枠(2,800万B/D)を1.4%下回っているが、国別に見るとアルジェリアは、生産枠(89万B/D)を1.5倍強も上回る138万B/Dを生産しており、またクウェイト、リビア、カタルも生産枠を1割以上上回っている。これに対してインドネシアは生産枠145万B/Dに対して生産量は40%低い88万B/Dにとどまっており、ベネズエラも2割強下回っている(生産枠322万B/D、生産量255万B/D)。またイラン(同411万B/D、同388万B/D)やナイジェリア(同231万B/D、同221万B/D)は生産枠を5%前後下回る生産水準である。生産量が生産枠を下回っている理由は、インドネシアの場合、油田が枯渇し生産量が頭打ちと言う物理的な理由であるが(インドネシアは既に石油の純輸入国であり、石油「輸出国」機構、即ちOPECメンバーたる資格が問われているほどである )、その他の3カ国(ベネズエラ、イラン及びナイジェリア)の場合は、内政又は外交等の人為的な理由である。即ちベネズエラ及びイランは米国を中心とする経済制裁のために能力に見合う生産をすることができず、またナイジェリアは国内テロで石油企業の社員や施設がテロの標的になり、生産水準を上げることができないのである。 

 削減のベースを各国の生産枠とするのか、それとも実際の生産量とするのか、OPEC内部で大きく意見が分かれたのは、このように実際の生産量が生産枠に達しない国とそうでない国とがあったからである。ベネズエラやイランなどは生産枠の削減を主張し、サウジアラビアを含むその他大半のメンバーは実際の生産量の削減を主張した 。OPECは加盟国間の公平さを維持するため、国別の削減率をほぼ等しくするのが通例である。例えば各国が総枠の5%程度の削減に合意すれば、国別の削減割当も5%前後とされる。今回の場合、仮に生産枠から4%削減(112万B/D減)とするなら、ベネズエラやイランなど既に実際の生産量が生産枠を4%以上下回っている生産国にとっては、実害は全く無いことになる。これでは112万B/Dという削減量を実現できないことは明らかである。このため市場の関係者も、実生産量ベースの削減なら価格は反転するが、生産枠からの削減ではむしろ価格は更に低下するであろう、と述べている 。

 10月19-20日のカタールでの緊急会合で、サウジアラビアのナイミ石油相は、市場の信任を得るためには実生産量ベースの削減でなければ意味が無い、と強く主張した。多くの国は彼の主張に賛同し、結局実際の生産量を削減(120万B/D)することが決定されたのである。

(今後の予定)

4.疑問3:何故削減量を120万B/Dに決めたのか?

5.疑問4:どのような根拠で各国の削減量を決めたのか?

6.疑問5:今後のOPECと世界の石油市場はどうなるのか?

 

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:(ニュース解説)OPEC、緊急会合で120万B/D減産―五つの疑問(2)

2006-10-25 | 今週のエネルギー関連新聞発表

(これまでの内容)

(第1回) 緊急会合の合意内容といくつかの疑問点

(第2回) 疑問1:何故緊急会合が必要だったのか? 

 10月19日、OPECはカタルのドーハで緊急会合を開いた。前月11日の通常会合で現行の生産枠2,800万B/Dを据え置く決定を行ったばかりである。わずか1ヶ月余りで緊急会合を開かざるを得なかったほど事態は切迫していたのであろうか。

 その鍵は言うまでもなく原油価格である。代表的な指標であるWTI原油で見ると、1月初めの63ドル(バレル当り)が7月中旬には史上最高値の78ドルを記録したものの、通常総会前にはほぼ年初の水準に逆戻りした。しかし9月の通常会合では、この価格水準は容認できる範囲である、として生産枠を変更しないことが決定された。昨年7月に2,800万B/Dに引き上げて以来、1年以上も生産枠が変更されていないが、その間にも価格は60~70ドルの高値に張り付いたままであった。消費国からはOPECに対して強い増産要求があったが、サウジアラビアを除くOPEC加盟各国には増産余力が無かった。逆にインドネシアのように実際の生産量が生産枠にすら達しない国もあり、或いはナイジェリアやベネズエラのように減産を余儀なくされた国もあったのである。

 価格高騰の原因が、単なる需給バランスだけではなく、投機筋の資金が市場に流れ込んだことにあるのも事実である。7月以降に価格が低落したのは、高値での売り逃げを図った投機筋の動きによるもの、と見られている。OPECの公式見解は、在庫水準が高く市場に十分な原油が供給されている、したがって価格高騰は供給不足によるものではない、と言うものである。若し減産を決定すれば、消費国から強い反発を受け、OPECがスケープゴートにされることは必至であった。そのため穏健派のサウジアラビアなどは、減産も増産もせず現行の生産枠を維持する方向で9月の会合をリードしたのであろう。

 しかし9月11日以降も原油価格は低落を続け、10月初めには61ドル前後にまで落ち込んだ。これに危機感を抱いたOPEC議長のダウコル・ナイジェリア石油相は、各国に緊急会合を打診したのである。ダウコル議長の提案に対して、ベネズエラは積極的に賛成したが、その他の多くの加盟国は当初乗り気ではなかった。議長国のナイジェリアと反米政権のベネズエラの主張には政治的な動機がうかがわれ、穏健派はそれを嫌ったからでもあろう。

 この両国は自主減産と言う先制パンチで各国を促し、加盟国間で開催の可否をめぐる激しい駆け引きが行われたようである。終始一貫して開催を主張するダウコル議長に対して、OPEC事務局は明言を避けたため、ロイター、AFPなどが開催説、非開催説と言う全く異なるニュースを流すなど情報は混乱した。しかし、結局ダウコル議長の思惑通り19日にカタルのドーハで緊急会合が行われたのである。

 因みに今回の会合は「Consultative Meeting」と呼ばれるものである。OPECホームページの「OPEC Quotas:Crude Oil Production Ceiling Allocations」を見ると、OPECが加盟国の生産割当を変更する会合には四つのケースのあることがわかる。即ち(1)通常会合(Meeting)、(2)臨時会合(Extraordinary Meeting)、(3)閣僚委員会(Ministerial Monitoring Committee)及び(4)諮問会合(Consultative Meeting)の4種類である。(1)及び(2)の会合は3月、7月、9月、12月に開催され、生産割当の変更は殆どの場合、このどちらかの会合で決定されている。今回のようなConsultative Meeting形式で決定されたのは過去に一度しかない(2003年4月)。その意味でも今回の会合が異例のものであったことがわかるのである。

 (参考:OPEC記者発表)

142nd Meeting of the OPEC Conference (2006/9/11)

Consultative Meeting of the OPEC Conference, Doha, Qatar, 19-20 October 2006

(今後の予定)

3.疑問2:何故生産枠の削減ではなく、生産量の削減としたのか?

4.疑問3:何故削減量を120万B/Dに決めたのか?

5.疑問4:どのような根拠で各国の削減量を決めたのか?

6.疑問5:今後のOPECと世界の石油市場はどうなるのか?

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(ニュース解説)OPEC、緊急会合で120万B/D減産―五つの疑問(1)

2006-10-23 | 今週のエネルギー関連新聞発表

(第1回) 緊急会合の合意内容といくつかの疑問点

  OPEC(石油輸出国機構)は、10月19日夜から20日未明にかけてカタルの首都ドーハで緊急会合(正式には「Consultative Meeting」)を開催、120万B/Dの減産を決定した。会議後のプレスリリースによれば、OPECはイラクを除く加盟10ヶ国の現在の合計生産量を2,750万B/Dと規定し、そこから120万B/Dを減産、10カ国の生産量を2,630万B/Dとしている。

 減産する120万B/Dの国別内訳は、アルジェリア(59千B/D、以下同じ)、インドネシア(39)、イラン(176)、クウェイト(100)、リビア(72)、ナイジェリア(100)、カタル(35)、サウジアラビア(380)、UAE(101)及びベネズエラ(138)とされた。

 プレスリリースでは、この暫定的な減産は11月1日から実施され、12月14日にナイジェリアのアブジャで開かれる臨時総会で見直すこととされている。

 石油価格は7月に史上最高値をつけたあと急激に下落している。このような局面の中で9月中旬に開かれた第142回総会では、一部に減産を唱える加盟国もあったが、昨年7月に決定した生産枠(2,800万B/D)を維持することが決議された。しかしながらその後も石油価格は下落を続け、例えばニューヨーク原油市場の指標油種WTI (West Texas Intermediate)は、7月には78.4ドル(1バレル当り)であったものが10月初めには60ドルの大台を割り、3ヶ月の間に20%以上も値を下げた。

 そしてOPECの生産量も2,800万B/Dの生産枠を下回る状態が続いた。このような状況に危機感を抱いたダウコル議長(ナイジェリア石油相)は加盟各国に緊急会合を呼びかけ、その結果が今回の合意となったものである。 

 しかしながら今回の合意に至る経緯と合意内容及び今後の見通し等については、いくつかの不透明な部分や疑問点が見受けられる。それを列挙すれば以下の5点に絞られるであろう。

疑問1:何故緊急会合が必要だったのか?

疑問2:何故生産枠の削減ではなく、生産量の削減としたのか?

疑問3:何故削減量を120万B/Dに決めたのか?

疑問4:どのような根拠で各国の削減量を決めたのか?

疑問5:今後のOPECと世界の石油市場はどうなるのか?  

 本稿ではこれらの疑問点について、各種外電の報道内容を検証しつつ、筆者なりの見解を順次述べてみたいと思う。

 

 

(今後の予定)

2.疑問1:何故緊急会合が必要だったのか?

3.疑問2:何故生産枠の削減ではなく、生産量の削減としたのか?

4.疑問3:何故削減量を120万B/Dに決めたのか?

5.疑問4:どのような根拠で各国の削減量を決めたのか?

6.疑問5:今後のOPECと世界の石油市場はどうなるのか?

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(ニュース速報)OPEC緊急会合で11/1から生産量を2,630万B/Dに削減合意

2006-10-20 | 今週のエネルギー関連新聞発表

  OPECは10月19日、カタルのドーハで緊急会合を開き、原油市場の不安定は供給過剰と需給のファンダメンタルであることに留意し、現在の生産量2,750万B/Dを120万B/D減産し、2,630万B/Dとすることを決定した(なお、生産枠は2,800万であり、いずれもイラクは対象外)。

  国別の減産量は以下のとおり(単位:1,000B/D)。

  アルジェリア(59)、インドネシア(39)、イラン(176)、クウェイト(100)、リビア(72)、ナイジェリア(100)、カタル(35)、サウジアラビア(380)、UAE(101)、ベネズエラ(138)

  この暫定合意は、12月14日にナイジェリアで行われる臨時総会で見直しされる予定である。

OPEC Press Release (No17/2006, Doha, Qatar – 20 October 2006) 参照

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