(注)HP「中東と石油」の「OPECの部」で全文をご覧いただけます。
その4.OPECの原油生産量と世界に占めるシェア
BP統計(BP Statistical Review of World Energy)によれば、OPEC11カ国の2006年の生産量の合計は3,420万B/Dであり、同年の全世界の生産量8,166万B/Dに占めるシェアは41.9%であった。後で詳しく述べるとおりOPECのシェアがもっとも高かったのは第一次オイルショック時(1973年)の53.2%であり、その前後数年にわたって50%台を記録している。その当時に比べ現在のOPECのシェアが40%そこそこにとどまっていることをとらえて、OPECの市場支配力が衰えたとする議論があるが、そこには一つの大きな事実誤認がある。
それは生産量の大きさが単純に市場支配力を示していないからである。つまりある国の生産量が如何に多くても、その国の国内消費量が生産量を上回る場合は市場支配力を云々することはできない。例えば世界の上位10カ国の生産量が全世界に占める割合は62.4%に達するが、それら10カ国の中には米国(3位)、中国(5位)のように石油の輸入国もある。またOPECの一員であるとは言え、インドネシアのように既に純輸入国となっている国もある。従って市場支配力を議論する場合は生産量と国内消費量の差、つまり輸出余力を問題にしなければならない。この点については次回で詳しく述べるが、ここでは「OPECシェア」として巷間に流布しているOPECと全世界の生産量の比較を取り上げることとする。
上図は1965年から2006年までのOPEC加盟国の生産量とシェアをプロットしたものである。赤の実線がOPEC加盟国の合計生産量であり(左軸:単位は万B/D)、青の破線は全世界の生産量に占めるシェア(右軸:%)である。1965年当時のOPEC(9カ国)の生産量は1,326万B/Dであり、全世界に占めるシェアは41.7%であった。その後加盟国数の増加及び各国の生産量の増加の相乗効果によりOPEC全体の生産量は急速に拡大し1969年には2千万B/Dの大台を突破、第一次オイルショックの1973年には最初のピークである3,110万B/Dの生産量を記録した。そして同年の全世界の生産量に占めるシェアは53.2%に達した。このシェアはOPECの歴史上最も高いシェアである。
3千万B/Dを越す生産水準は(1975年の一時的な落ち込みを除き)1979年の第二次オイルショックまで続いたが、その間に非OPEC産油国の生産量の伸びがOPEC加盟国のそれを上回ったため、OPECのシェアは漸減し1978年には50%以下に逆戻りしている。二度のオイルショックの反動で1980年代に入ると世界の石油の需要は急減、価格も急落したが、最も大きな影響を受けたのはOPEC加盟国であり生産量は1979年の3,145万B/Dが1982年には2千万B/Dに落ち込んだ。このためOPECは同年から生産割当制を導入したのであるが(シリーズその3「生産枠の変遷」参照)、生産量の減少を止めることができず、遂に1985年には1979年の半分近い1,698万B/Dになった。この間シェアも50%強から30%を切るまでに落ち込み、OPECの市場支配力にかげりが見えたのである。
1985年を底として世界の石油需要は回復し、OPECの生産量もその後はほぼ一本調子で上向き1998年には再び3千万B/Dの大台に達した。しかし世界の生産量に占めるシェアは1992年に40%に戻ったもののその後2006年まではほぼ横ばい状態のままである。このことはその間の非OPEC産油国の生産がOPEC加盟国のそれと同じ伸び率であったことを示している。中央アジアのカザフスタンなど非OPECの有力産油国が生まれたことが主な要因であると考えられる。
このように生産量で見る限りOPECのシェアは1990年代も2000年代も殆ど変化していない。第二次オイルショック後20世紀末までの間、「石油の価格は市場が決める」と言われOPEC斜陽論が幅をきかせてきた。しかし21世紀に入ってOPECのシェアが1990年代とさほど変わっていないにもかかわらず現在OPECの力が見直されつつある。その理由は(1)今後も世界的にエネルギー需要が増加し石油は売り手市場の状況が続くと考えられること、(2)産油国の中でパワーを発揮できるのは現在の生産量の多寡ではなく今後の生産余力があり且つそれを輸出に振り向けることのできる国であることであり、そして(3)OPEC加盟国の中にサウジアラビアのようにそれらの条件を満たす有力な国がある、ためである。
次回は石油の生産量ではなく輸出量から見たOPECのシェアについて検証を試みることとする。
(第4回完)
(これまでの内容)
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前田 高行
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