[1] 世界的な格付け会社はS&P社のほかにMoody’s及びFitchRatingがあり、三大格付け会社と呼ばれている。
[2] ソブリン格付とは国債を発行する発行体の信用リスク、つまり債務の返済が予定通りに行われないリスクを簡単な記号で投資家に情報提供するものである。「ソブリン格付け」は、英語のsovereign(主権)に由来する名称であり、国の信用力、すなわち中央政府(または中央銀行)が債務を履行する確実性を符号であらわしたものである。ソブリン格付けを付与するにあたっては、当該国の財政収支の状況、公的対外債務の状況、外貨準備水準といった経済・財政的要因だけでなく、政府の形態、国民の政治参加度、安全保障リスクなど政治・社会的要因を含めたきわめて幅広い要因が考慮される。
これまでにブログおよび各種の雑誌への寄稿等に発表したレポート、エッセイ等を「マイ・ライブラリー(論稿集)」としてまとめました。 日々のニュースをモニタリングしているブログ「石油と中東」及び荒葉一也編集ブログ「OCIN Initiative」及び「Middle East Informant」とあわせてお読みください。
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(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0609RussiaEuEnergyTrade2019vs2023.pdf
(西欧はガス・石油をどこから調達し、ロシアはどこへ転売したのか?)
4.原油・石油製品貿易の変化
(ロシアのシェアは2019年の35%から2023年には11%に激減!)
4-1ヨーロッパの原油・製品国別輸入量(図http://bpdatabase.maeda1.jp/5-G21.pdf参照)
2019年のヨーロッパの原油輸入量は5億2,200万トン、製品は2億9百万トン、合計で7億3,200万トンであった。合計量を国別で見ると最も多かったのはロシアの2億5,900万トンで全体の35%を占めていた。ロシアに次いで輸入が多かったのはロシア以外の旧CIS諸国からが全体の1割強であり、米国、北アフリカ諸国、西アフリカ諸国、イラク、サウジアラビアなどが9%乃至5%で並んでいた。
2023年の原油・製品合計輸入量は6億3,000万トンと2019年に比べて14%減少している。これを国別に見ると2019年と大きく様相が変化している。同年の輸入国トップは米国の1億1,700万トンであり、輸入全体に占める割合は19%、2019年の1.7倍に増加している。米国に次ぐのは旧CIS諸国で、3番目がロシアである。ロシアからの輸入量は6,990万トンであり、2019年の4分の1弱に落ち込み、米国と対照的な結果である。また量は多くないもののUAE、クウェイト、中国、アフリカ諸国からの輸入が増加しており、供給源が多様化している。
(インド、中国向け輸出が激増!)
4-1ロシアの原油・製品輸出量(図http://bpdatabase.maeda1.jp/5-G22.pdf参照)
ロシアの原油及び製品の輸出量について2019年と2023年を比較すると総量では2019年の4.5億トンに対して2023年は3.3億トンで▲26%減少している。中でもヨーロッパ向けは2.6億トンから7千万トンと4分の1近くに減少している。一方この減少を補ったのが中国及びインド向けである。中国向け輸出は2019年の8千万トンから50%増加、2023年の輸出量は1.2憶トンに達している。インド向けの増加はさらに顕著であり、2019年の4百万トンから2023年には9千万トンと20倍以上増加している。
ヨーロッパ、中国、インド以外へのロシアの輸出も大幅に減少しており、このことからロシアは欧米の経済制裁によって閉ざされた世界の輸出ルートを中国とインドに振り替えたと言えよう。
以上
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp
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(西欧はガス・石油をどこから調達し、ロシアはどこへ転売したのか?)
(4倍に急増した米国産LNG輸入、全輸入量も増加しパイプラインの不足分を補填!)
2.LNG貿易の変化(図http://bpdatabase.maeda1.jp/5-G10b.pdf参照)
天然ガスのもう一つの貿易形態であるLNG(液化天然ガス)についてヨーロッパの輸入量と輸入相手国の変化を見ると、2019年のヨーロッパのLNG輸入量は1,198億㎥であった。これに対し2023年のLNG輸入量は1.4倍の1,691億㎥に達している。前項に述べた通りパイプラインによる生ガスの輸入量は4,713億㎥から3,408億㎥に減少しており、パイプラインによる不足をLNGで補っていることがわかる。この結果、総輸入量に対するLNGの比率は、2019年の20%から2023年には33%に拡大している。
次に輸入相手国の変化を見ると、2019年のLNG輸入国トップはカタールの322億㎥であり、これに次ぐのがロシア205億㎥、米国183億㎥、ナイジェリア158億㎥、アルジェリア152億㎥であった。総輸入量に対する各国のシェアはカタール27%、ロシア17%、米国15%、ナイジェリア13%、アルジェリア13%である。
しかし2023年には様相が一変し、トップの輸入国は米国となり、輸入量は1,144億㎥でシェアは45%に達した。ヨーロッパが輸入するLNGのほぼ半分は米国産が占めていることになる。一方、2019年にトップで27%を占めていたカタールの2023年のシェアは12%に急落、3位であったロシアのシェアも17%から12%に落ちている。
3.天然ガス価格の変動(図http://bpdatabase.maeda1.jp/6-G01b.pdf参照)
ウクライナ紛争を契機とした天然ガス需給の激変は当然のことながら価格にも大きな影響を及ぼしている。天然ガスの価格指標として(1)日本価格(全量LNG)、(2)オランダTTF価格(パイプラインを中心とし一部LNG組み合わせ)及び(3)米国Henry Hub価格(ほぼ全量パイプライン)の3種類がある。従来は日本価格が最も高く、これにオランダTTF(ヨーロッパ)価格が続き、米国価格が3者の中で最安値であった。さらに日本とヨーロッパの価格は原油価格にスライドする部分が大きいのに対して、米国は豊富な資源量と縦横に張り巡らされたパイプライン網により独自の市場価格を形成している。
このような構図は2020年まで続き、同年の年間平均原油(Brent)価格が42ドルであったのに対して、天然ガス価格は100万BTU当たり日本価格が7.65ドル、オランダTTFは3.13ドル、米国Henry Hub価格は1.99ドルであった。
しかし21年から22年にかけて原油価格が70ドルから100ドル超に急騰、これに伴い日本のLNG価格は9.93ドルから16.98ドルに上昇、米国価格も連動して3.84ドルから6.38ドルにアップしている。ところがオランダTTF価格は日米をはるかに上回る急騰ぶりで、2021年には日本価格を上回る15.67ドルに急騰、さらに2022年には2020年の10倍を超える37.09ドルに暴騰した。2023年には日本価格とほぼ同等な水準に落ち着いているが、過去3カ年の価格変動は異常であった。ロシアからの天然ガス輸入停止によりヨーロッパ各国で天然ガス(特にLNG)の争奪戦が起きたことを示していると言えよう。
(続く)
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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http://mylibrary.maeda1.jp/0607ImfWeoJuly2024.pdf
IMF(国際通貨基金)が「世界経済見通し(World Economic Outlook Update、July 2024)」(以下、WEO)を発表した。 このレポートでは全世界、EU、ASEANなどの主要経済圏及び日米中印など主な国々の2022年(実績)から2025年(予測)まで4年間のGDP成長率が示されている。
本稿では今年(2024年)及び来年(2025年)の成長率を比較し、また前回4月の経済見通しに対してGDP成長率がどのように修正されたかを検証する。そして全世界及び主要経済圏並びに7カ国(日、米、中、印、独、露、サウジアラビア)の2023年から2025年の3年間の成長率の推移を比較する。
*WEOレポート:
https://www.imf.org/en/Publications/WEO/Issues/2024/07/16/world-economic-outlook-update-july-2024
(今年の世界の成長率は3.2%、前回4月見通しと変わらず!)
1.2024年のGDP成長率(表http://menadabase.maeda1.jp/1-B-2-08.pdf 参照)
今回7月見通しでは今年の世界の成長率は3.2%とされており、前回4月と変わっていない。IMFは世界経済が足踏み状態にあると分析している。
経済圏別に見るとEU圏の2024年の成長率は1.2%であり、4月の数値を0.1%アップしている。またASEAN5カ国は4.5%で前回4月と変化はない。これに対して中東・中央アジア諸国は石油生産と地域紛争が引き続き見通しの重しとなるため2.8%から2.4%に引き下げられている。
国別では今年の成長率は米国2.6%、日本0.7%、ドイツ0.2%、英国0.7%、ロシア3.2%、中国5.0%、インド7.0%である。日本とヨーロッパ先進国の成長率はいずれも1%以下であり、経済の回復は緩慢である。このような中で米国の成長率は2.6%と日欧に比べかなり高い。但し前回(4月)見通しと比べると米国は2.7%→2.6%、日本は0.9%→0.7%と下方修正されているのに対して、欧州各国は上方修正または現状維持されており、日本に対する評価が厳しい。
これら先進国に比べBRICS諸国の成長率は高い水準にある。特にインド(7.0%)は世界で最も高く、世界平均(3.2%)の2倍以上である。中国(5.0%)も世界平均を上回っており、また前回4月の4.6%を上方修正しており、インドと中国が世界の成長をけん引している。ウクライナ戦争下で欧米の経済制裁を受けて厳しい状況にあるロシアではあるが、成長率は世界平均と同じ3.2%である。日欧向けの石油・天然ガスの輸出はほぼストップしているが、それに代わりインド、中国向けが増加しており、経済的な影響は少ないとみられる。
産油国のサウジアラビアは1.7%であり、前回4月見通しの2.6%が大幅に下方修正されている。OPECプラスの協調減産は年内一杯続くと予測され、世界経済の回復も足踏み状態であることから、石油輸出に頼る同国経済も厳しい状況が続いている。
(続く)
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http://mylibrary.maeda1.jp/0606SovereignRatingJuly2024.pdf
2.2021年7月以降の格付け推移(続き)
(改善著しいオマーン!)
(3)GCC6カ国の格付け推移 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-G-3-01c.pdf参照)
GCC6か国(UAE、クウェイト、カタール、サウジアラビア、オマーン及びバハレーン)の過去3カ年のソブリン格付けの推移を見る。なおUAEはアブダビとラス・アル・ハイマの2首長国のみが格付けされている(ドバイは格付け対象外)ため、本稿ではアブダビの格付けをUAEとみなして比較している。
まず2021年7月時点ではアブダビはAAであり、これに続きクウェイトとカタールがAA-に格付けされていた。しかしクウェイトは2021年下半期にはA+に格下げされ、これに対してカタールは2022年下半期にAA-からアブダビと同格のAAに格上げされている。
3カ国は政治体制、人口・経済規模などが似通った産油(ガス)国である。それにもかかわらずクウェイトが格下げされているのは、同国が中途半端な議会制民主主義を採用している結果、政情が安定せず経済改革がほとんど進まないことに原因があると考えられる。カタールについては前項でも触れた通り天然ガス(LNG)が世界的に品不足で価格が高騰したためである。
サウジアラビアはこれら3カ国より低いA-であったが、2023年上半期にAに格上げされている。世界的な景気回復とOPEC+の協調減産による原油価格の上昇が同国の経済見通しを明るいものにしている。但し同国はUAE(アブダビ)、クウェイト、カタールを大きくしのぐエネルギー歳入を誇りながら、一方で人口も3カ国より飛びぬけて多いため、財政的なゆとりが乏しい。S&Pはこれらの事情を考慮してサウジアラビアの格付けを他の湾岸産油国より厳しく見ているようである。
産油量の少ないオマーンとほとんどないバハレーンの格付けは2021年7月時点では他の4カ国よりかなり低いB+にとどまっていた。その後、バハレーンは現在までB+格付けのままであるが、オマーンは2022年に一気に2ランクあげてBBとした後、2023年下期にさらに1ランク上のBB+に格付けされている。BB+は投資不適格では最も上のランクであり、同国は投資適格を目指して努力中である。
以上
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2.2021年7月以降の格付け推移
ここでは2021年1月以降現在までのソブリン格付けの推移を(1)G7及びアジア主要国、(2)BRICS及びトルコ、エジプト、並びに(3)GCC6カ国、それぞれについて検証する。
(投資適格で最も低いBBB-が続くインド!)
(1) G7及びアジア主要国の格付け推移(図http://menadabase.maeda1.jp/2-G-3-01a.pdf参照)
先進国の中ではドイツが過去3年間継続して最高のトリプルAの格付けを維持している。米国はドイツより1ランク低いAA+を続けている。なお米国の場合、S&Pは2011年にトリプルAからAA+に引き下げ、またS&Pと並ぶ格付け会社FitchRatingは一昨年トリプルAからAAに引き下げている。
アジアの経済大国中国と日本の格付けは過去3年間A+で推移している。AAAのドイツより4ランク、米より3ランク低く、過去3年間格差は解消していない。台湾は2021年は英国、仏、韓国と並びAAであったが、2022年上期に米国と並ぶAA+に引き上げられた。これに対してG7の一角を占める仏は今年上半期にAA-に格下げされた。
2025年には日本を追い抜き、米国、中国、ドイツに次ぐ世界第4位のGDP大国になると予測されているインドは[1]、過去3年間BBB-である。これは投資適格の中で最も低く、S&Pの格付け定義では「債務を履行する能力は適切であるが、事業環境や経済状況の悪化によって債務履行能力が低下する可能性がより高い」とされている。
(格付けなしのロシア!)
(2) BRICS及びトルコ、エジプト(図http://menadabase.maeda1.jp/2-G-3-01b.pdf参照)
コロナ禍前の世界的な経済成長の中で注目されたBRICs諸国のうち、上述した中国、インドを除く3カ国(ブラジル、ロシア、南アフリカ)並びに中東の大国トルコとエジプトを加えた5カ国のソブリン格付けの推移は以下のとおりである。
2021年7月時点ではロシアがBBB-であり、唯一投資適格であった。しかし2022年4月のウクライナ侵攻に伴い、S&Pは同国をN.R.(No Rating)として格付け対象から除外しており、現在もその状態が続いている。
2021年7月の格付けは、ブラジルと南アフリカがBB-、トルコは1ランク低いB+、エジプトはさらに1ランク低いBであり、4カ国はいずれも投資不適格であった。BBの格付け定義は、「より低い格付けの発行体ほど脆弱ではないが、事業環境、財務状況、または経済状況の悪化に対して大きな不確実性、脆弱性を有しており、状況によっては債務を期日通りに履行する能力が不十分となる可能性がある。」とされ信用度が低い。
トルコは2022年下期にB+からBに格下げされてエジプトと同格付けになったが、今年上半期に再びB+に戻った。一方エジプトはBからB-に格下げされ、トルコと明暗を分けている。
(続く)
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[1] 「IMF 世界経済見通し(2024 年 4 月):低成長続く先進国、高成長続くインド」参照。
http://mylibrary.maeda1.jp/0600ImfWeoApr2024.pdf
本レポートは著名な格付け会社Standard & Poors (S&P)[1]の世界主要国及びMENA諸国のソブリン格付け[2]を取り上げて各国を横並びに比較するとともに、いくつかの国について過去3年間にわたる半年ごとの格付け変化を検証するものである。
因みにS&Pの格付けは最上位のAAA(トリプルA)から最下位のCまで9つのカテゴリーに分かれている。このうち上位4段階(AAAからBBBまで)は「投資適格」と呼ばれ、下位5段階(BBからCまで)は「投資不適格」又は「投機的」とされている。またAAからCCCまでの各カテゴリーには相対的な強さを示すものとしてプラス+またはマイナス-の記号が加えられている[3]。なおC以下でS&Pが債務不履行と判断した場合はSD(Selective Default:選択的債務不履行)格付けが付与され、さらに格付けを行わない場合はN.R.(No Rating)と表示される。
S&P(日本)ホームページ:
*過去のレポートは下記ホームページ参照。
http://mylibrary.maeda1.jp/SovereignRating.html
(日本は台湾/韓国より低く、中国/イスラエルと同じA+!)
1.2024年7月現在の主要国の格付け状況
(表:http://menadabase.maeda1.jp/1-G-3-01.pdf 参照)
2024年7月現在の格付けを今年1月のそれと比べると最高格付けAAA(トリプルA)のドイツ、カナダ、シンガポールに変動は無く、またAA+の米国[4]、AAの英、A+格付けの日本、中国なども変化はなかった。しかしこれまで英国と同格であったフランスはAAからAA-に格下げされた。
極東諸国(地域)の中では台湾と香港が最高ランクのAAA(トリプルA)に次ぐAA+に格付けされている。韓国はこれら2カ国より1ランク低いAAであり、日本と中国はさらに2ランク低いA+とされている。台湾と香港の格付けは米国と同格である。日本は中国と同じA+であり中東諸国クウェイト或いはイスラエルと同格、サウジアラビア(A)よりも1ランク高い。台湾は政治的、軍事的に緊張をはらんだ状況に置かれているが、IT産業が好調であるなど、経済的には日本或いは中国よりも安定していることから高いソブリン格付けを得ている。中国の動向を踏まえると、今後台湾と香港がどのように評価されるか注目される。
G7の国々のうちドイツ及びカナダはAAAの最高格付けであり、米国は1ランク下のAA+、英国はさらに1ランク低いAAである。フランスは今回AA-に格下げされた。日本はフランスに次ぐA+に格付けされ、イタリアは投資適格ではあるがG7の中では極めて低いBBBにとどまっている。
因みに格付け定義ではAAは「債務を履行する能力は非常に高く、最上位の格付け(トリプルA)との差は小さい」とされ、これに対して格付けAは「債務を履行する能力は高いが上位2つの格付けに比べ、事業環境や経済状況の悪化からやや影響を受けやすい」とされている。またBBBの定義は「債務を履行する能力は適切であるが、事業環境や経済状況の悪化によって債務履行能力が低下する可能性がより高い」格付けである。
(続く)
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[1] 世界的な格付け会社はS&P社のほかにMoody’s及びFitchRatingがあり、三大格付け会社と呼ばれている。
[2] ソブリン格付とは国債を発行する発行体の信用リスク、つまり債務の返済が予定通りに行われないリスクを簡単な記号で投資家に情報提供するものである。「ソブリン格付け」は、英語のsovereign(主権)に由来する名称であり、国の信用力、すなわち中央政府(または中央銀行)が債務を履行する確実性を符号であらわしたものである。ソブリン格付けを付与するにあたっては、当該国の財政収支の状況、公的対外債務の状況、外貨準備水準といった経済・財政的要因だけでなく、政府の形態、国民の政治参加度、安全保障リスクなど政治・社会的要因を含めたきわめて幅広い要因が考慮される。
[3] S&Pの格付け定義についてはhttp://menadabase.maeda1.jp/1-G-3-02.pdf参照。
[4] FitchRatingは最近米国格付けを最上位のAAAからAAに引き下げた。S&Pはすでに2011年にAAAからAAに引き下げている。引き下げの理由はFitchRating, S&P共に連邦債務の上限問題に関して連邦政府と議会の関係が不安定であるためとしている。