(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0609RussiaEuEnergyTrade2019vs2023.pdf
(西欧はガス・石油をどこから調達し、ロシアはどこへ転売したのか?)
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、EUは対ロシア制裁を強化し、同年12月には海上輸送による原油輸入を停止、2023年2月には石油製品の輸入も禁止した。その後、G7とEUは追加制裁としてロシア産原油の輸出価格を1バレル60ドルに設定した。さらにロシア産ガスの輸入抑制を目的として2027年までに全てのロシア産エネルギーを禁輸する計画をたてている。この結果、ロシア・ヨーロッパ間の石油・天然ガスの輸出入は激減した。
2022年は新型コロナ禍が終息し世界経済が再発展するタイミングであっただけに、ヨーロッパは石油・天然ガスの新たな輸入先確保に追われ、またロシアは戦費調達のため石油・天然ガスの歳入を増やさねばならず新たな販売ルートを求めている。経済制裁はヨーロッパとロシア双方に多大な影響を及ぼしたのである。
本稿ではEI(Energy Institute)が発表した世界エネルギー統計2024年版(Statistical Review of World Energy 2024)のデータをもとに、2019年(新型コロナ禍以前)と2023年(ウクライナ侵攻後)のロシアと西欧双方の天然ガスと石油の輸出入関係を比較し、どのような変化が生じているかを検証したものである。
*世界エネルギー統計2024年版については本ブログの解説シリーズ(全11回)を参照ください。
(ロシアからの輸入量が激減、不足分を穴埋めできず!)
- パイプラインによるヨーロッパの天然ガス輸入量の変化
(図http://bpdatabase.maeda1.jp/5-G10a.pdf参照)
2019年にヨーロッパがロシアからパイプラインで輸入した天然ガスは1,880億㎥であった。同年の輸入総量は4,713億㎥であったため、ロシア産は40%を占めていたことになる。そして2023年の輸入総量は3,408億㎥であり、うちロシアからの輸入は498億㎥であった。
2019年に比較するとロシアからの輸入量は▲1,382億㎥、率にして▲74%減少したことになる。ロシアからの輸入を補填したのはアルジェリア(214億㎥, 2019年→306億㎥, 2023年)、アゼルバイジャン(同112億㎥→236億㎥)などであり、地中海海底パイプライン或いはロシア領土を経由しない中央アジア旧CIS国家からのパイプラインによってヨーロッパの不足分が補充されたと考えられる。但し全体の輸入量も▲1,305億㎥(▲28%)減少していることから、パイプラインでの補充は不足分を穴埋めできなかったようである。
(続く)
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp
(英語版)
(アラビア語版)
(目次)
第7章:「アラブの春」―はかない夢のひと時(20)
187 シリア情勢:敵の敵は味方か敵か?(4/5)
イスラーム過激派勢力であるヌスラ戦線(現ファトフ軍)とイスラム国(IS)は宗教意識が強く自己犠牲をいとわないため戦闘能力は高い。しかし宗教をバックとする勢力は指導者次第であり簡単に分裂する。ISIL(イラクとシリアのイスラム国)の指導者バグダディはヌスラ戦線と袂を分かち中央政府に対する反政府活動ではなく、外国の支援に頼らない自らの国家「イスラム国」を樹立した。彼らは西欧勢力が植民地時代に線引きをした現在の国境(サイクス・ピコ協定)を認めない。彼らは理想のカリフ制イスラーム宗教国家を目指し、インターネットを利用して外国に住む若者を巧みに誘い、戦闘員に仕立て上げている。
独立自営型の「IS(イスラム国)」、アル・カイダのネットワークに頼るヌスラ戦線、クルド人兵士に支えられ欧米と湾岸諸国の援助に頼るシリア民主軍。これら乱立する反政府組織と対峙するのがロシアやイランに支えられるシリア政府軍。基本的にはアサド政権を支えるロシア・イランと反政府勢力をバックアップする中東及び欧米諸国という対立構造の中で諸勢力が群雄割拠してシリア情勢は混乱を極めている。
(続く)
荒葉 一也
E-mail: Arehakazuya1@gmail.com
(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0608EiWorldEnergy2024.pdf
II. 天然ガス
(原油価格に連動した日本、超安値の米国、ガス不足に振り回される西欧!)
4. 天然ガス価格の推移(2014年~2023年)
(図http://bpdatabase.maeda1.jp/6-G01b.pdf 参照)
天然ガスの取引価格には通常US$ per million BTU(百万BTU当たりのドル価格)と呼ばれる単位が使われている。BTUとはBritish Thermal Unitの略であり、およそ252カロリー、天然ガス25㎥に相当する[1]。
市場の自由取引にゆだねられた商品は一般的には価格が一本化されるが(一物一価の法則)、天然ガスについては歴史的経緯により現在大きく分けて三つの価格帯がある。液化天然ガス(LNG)として輸入する日本では原油価格にスライドするケースが多い。巨額の初期投資を必要とするLNG事業では販売者(カタール・オーストラリアなどのガス開発事業者)と購入者(日本の商社、電力・ガス会社などのユーザー)の間で20年以上の長期安定的な契約を締結することが普通である。この場合価格の指標として原油価格が使われているためである。
これに対してヨーロッパでは供給者(ロシア、ノルウェー、アルジェリアなど)と消費者(ヨーロッパ各国)がそれぞれ複数あり、パイプライン事業者を介して天然ガスが取引されており、EU独自の価格体系が形成されている。また完全な自由競争である米国では天然ガス価格は独立した多数の供給者と需要家が市場を介して取引をしており需給バランスにより変動する市況価格として形成される。
ここでは日本価格、オランダTTF価格(以下オランダ価格)、及び米国Henry Hub価格(以下米国価格)について2014年から2023年までの推移を比較することとする。なお参考までに原油価格(ドル/バレル)も合わせて比較の対象とした。
2014年の日本価格は15.73ドル、オランダ価格8.11ドル、米国価格4.34ドルであり、当時の原油価格は98.95ドルであった。米国価格が最も低く、日本価格は4倍弱であり、オランダ価格は両者の中間に位置している。
2014年から2016年にかけて原油価格が暴落したため、2016年の日本価格も6.73ドルと2014年の半値以下まで下落した。この時オランダ価格も4.53ドルまで落ち、日本価格との比率は1.9倍から1.5倍に縮小している。2020年までは日本価格とオランダ価格は原油価格とほぼ同じアップダウンを繰り返しているが、米国価格はこの間も一貫して2~3ドルの低価格で推移している。
2021年になるとコロナ禍が終息して環境問題による天然ガスの需要増加の兆しが見えたことに加え、ウクライナ紛争で欧米諸国が対露経済制裁に乗り出したことで市況が激変した。これまでロシアからのパイプラインによる天然ガスに依存していた西欧諸国はアルジェリア等アフリカ諸国からのパイプライン輸入の増加を図る一方、世界各国のLNGを買い漁った。この結果ガス価格は急騰2022年のオランダ価格はついに37ドルに急騰、日本価格(16.98ドル)の2倍以上に跳ね上がった。
2023年には価格は落ち着きを見せ日本価格とオランダ価格は共にほぼ13ドルとなっている。一方米国価格は2022年に原油価格に連れて2020年の6ドル強まで上昇したが、2023年は通常ベースの2ドル台におさまっている。
以上
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp
[1] 東京ガスHPhttp://www.tokyo-gas.co.jp/IR/library/pdf/investor/ig1000.pdfより。
(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0608EiWorldEnergy2024.pdf
II. 天然ガス
3.天然ガスの輸出入
(2)2014年~2023年LNG輸出入量(続き)
(米国がLNG輸出世界一に!)
b. 輸出量(表http://bpdatabase.maeda1.jp/5-G02b.pdf参照)
2014年に3,336億㎥であったLNGの輸出量は、2017年以降増勢に転じ、2018年には4,300億㎥に達し、2021年に5千億㎥を突破、2023年の全世界の輸出量は5,492億㎥、2014年の1.6倍を記録している。
国別で見ると2014年当時はカタールの輸出量が1,036億㎥で、世界で唯一1千億㎥を超え、全世界の3分の1を占めていた。カタールに次ぐのがマレーシア(340億㎥)であり、第3位はオーストラリア(320億㎥)であった。
カタールは過去10年以上にわたり設備増強を凍結(モラトリアム)したため輸出量はほとんど増加していない。これに対してオーストラリアと米国は輸出が急増した。オーストラリアは2019年に1千億㎥の輸出体制を整え、2023年の輸出量は1,074億㎥に達し2位のカタールを急追している。オーストラリアをしのぐ勢いでLNG輸出トップに躍り出たのが米国である。2014年に4億㎥に過ぎなかった米国のLNG輸出量はシェールガスの開発が急速に発展し、2017年以降LNG輸出は急増した。2019年には500億㎥、2022年には1千億㎥を突破、2023年には遂に世界一のLNG輸出国になっている。2014年に比べると実に270倍に増加しているのである。
この結果、国別輸出シェアにも大きな変化が見られる。すなわちカタールは2014年の31%をピークに毎年シェアは下降し、2023は19.7%にとどまっている。一方米国は10年前の0.1%から2023年には世界シェア20.8%を達成、オーストラリアも2013年の10%から2023年にはカタールと並ぶ19.6%までシェアがアップしている。
米国、カタール、オーストラリアに次ぐLNG輸出大国のロシアは2013年に136億㎥を輸出、2023年には427億㎥を輸出している。ロシアはウクライナ紛争による欧米の経済制裁のため世界シェアが伸び悩んでいる。
(続く)
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp
(英語版)
(アラビア語版)
(目次)
第7章:「アラブの春」―はかない夢のひと時(19)
186 シリア情勢:敵の敵は味方か敵か?(3/5)
これら多種多様な勢力に対して外国勢も肩入れの仕方が猫の目のように変わる。米国は反政府勢力の中のリベラル民主勢力であるシリア民主軍を応援するため武器を供給し軍事訓練を行おうとした。しかし西欧的民主主義イデオロギーが希薄な中東では、リベラル勢力はひ弱で武器や資金援助も結局砂漠に水を撒くように雲散霧消している。
サウジアラビアなど湾岸の世俗君主制国家もシリア民主軍に肩入れするが、こちらは消去法での支援選択である。つまりGCC諸国はヌスラ戦線やIS(イスラム国)のようなサラフィー主義(イスラム過激主義)は自分たちの体制を危うくするが、イランの支援を受けるシリア政府はもっと受け入れがたい。本音ではリベラル勢力を警戒しているが、欧米と歩調を合わせておけば絶対君主体制はひとまず安泰であるため、消去法の選択肢としてシリア民主軍に賭けているのである。しかし欧米の武器支援と湾岸諸国の経済支援を受けているにもかかわらずシリア民主軍の実戦能力は他の反政府勢力と比べて格段に劣っており、彼らは自分たちの身を守るだけで精一杯である。
(続く)
荒葉 一也
E-mail: Arehakazuya1@gmail.com
7/22 INPEX
執行役員の担当業務変更について
https://www.inpex.co.jp/news/assets/pdf/20240722.pdf
7/24 OPEC
OPEC Secretariat receives compensation plans from Iraq, Kazakhstan, and Russian Federation
https://www.opec.org/opec_web/en/press_room/7357.htm
7/25 TotalEnergies
Second quarter and first half 2024 results
https://totalenergies.com/news/press-releases/second-quarter-and-first-half-2024-results
(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0608EiWorldEnergy2024.pdf
II. 天然ガス
3.天然ガスの輸出入
(2)2014年~2023年LNG輸出入量
(対ロ経済制裁で急増した西欧のLNG輸入量!)
過去10年間のLNG輸入量の推移を見ると、世界全体では 2014年の3,336億㎥から2023年には1.6倍の5,487億㎥に増加している。日本は2020年まで輸入量世界一であり、2014年は1,218億㎥のLNGを輸入した。これは原発の運転停止のため火力発電用LNGの輸入が急増したことが主な要因である。しかしそれ以降はほぼ一貫して前年を下回っており、2022年には1千億㎥を切り、2023年は903億㎥、2014年の7割にとどまっている。
一方、中国は毎年著しく増加しており、2014年の273億㎥が2023年には978億㎥に達し、10年間で3.6倍に増加、日本を抜いて世界一のLNG輸入国になっている。日本、中国に次いで輸入量が多いのは韓国であり、日中韓3か国の全世界に占める割合は2014年は60%であった。その後インド、西欧各国の輸入が伸び3か国のシェアは落ちているが、それでも2023年の世界シェアは45%を占めている。
国別輸入量の推移で特に注目されるのは、フランス、イタリアなどヨーロッパ諸国の輸入が急増していることである。2014年のフランスのLNG輸入量は69億㎥で日本の20分の1に過ぎなかったが、2023年は4.4倍の307億㎥、インドに次いで世界第5位のLNG輸入国に変身している。イタリアも同様2014年の45億㎥から2023年には3.6倍の163億㎥に増加している。増加は2022年以降に特に顕著であり、これはウクライナ戦争にからみロシアからのパイプラインによる天然ガス輸入がストップしたためである。
最近では地球温暖化問題が重視され、石油・石炭より二酸化炭素排出量が少ない天然ガスの需要が増加したため、世界全体にLNGの輸入が増加している。10年間で1.6倍、年平均5.8%の増加率を示している。そのような中で日本だけは10年前の7割に減少し、年率で▲3.2%減少しているのは特異なことである。
(続く)
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp