・UAE石油相:今月の生産削減量は20万B/D以上。来月以降は13.9万B/D。 *
・オマーン/イラク/ベネズエラ3国が共同で協調減産延長を提唱。 *
・リビアの生産減で原油価格わずかに戻す。Brent $51.11, WTI $48.11。
*「OPEC/非OPECの協調減産は守られているか?(3月現在)」参照。
http://mylibrary.maeda1.jp/0403OpecNonOpecProductionCutMar2019.pdf
・UAE石油相:今月の生産削減量は20万B/D以上。来月以降は13.9万B/D。 *
・オマーン/イラク/ベネズエラ3国が共同で協調減産延長を提唱。 *
・リビアの生産減で原油価格わずかに戻す。Brent $51.11, WTI $48.11。
*「OPEC/非OPECの協調減産は守られているか?(3月現在)」参照。
http://mylibrary.maeda1.jp/0403OpecNonOpecProductionCutMar2019.pdf
2017.3.27
荒葉一也
3.ビジョン2030篇:笛吹けど踊らぬ民間経営者
ムハンマド副皇太子が旗を振る長期国家ビジョンSaudi Vision 2030(ビジョン2030)及び国家変革計画NTP2020は極めて野心的な計画である。そしてこれらの計画に関与し(或いは関与しようとしている)外国政府・企業関係者は今度こそサウジ政府の意気込みは本物である、と異口同音に語っている。確かにその通りであろうしそれにケチをつけるつもりはない。
しかしいわゆる評論家たちの目は必ずしもそうばかりとは言えない。彼らの多くはいくつかの計画の目標達成は難しいとみている。ビジョン2030の「繁栄する経済」と題する項目では、2030年までにGDPを現在の世界19位から15位以内に引き上げる、GDPに占める民間部門の比率を40%から65%に引き上げる、失業率を11.6%から7%に引き下げる、女性の労働参加率を20%から30%に引き上げる等の目標が取り上げられ、また「活力ある社会」の中では平均寿命を74歳から80歳に延ばす、現在の持ち家比率47%を2020年までに5%引き上げる等の目標が掲げられている。そして三番目に掲げられた「野心的な国家」ではe-Government(電子政府)を推進し世界ランク5位(現在は44位)を目指す[1]、非石油製品による政府歳入を現在の1,630億リアルから2030年には1兆リアルにアップさせる等が掲げられている。
ビジョン2030を実現するために2020年までに達成すべき目標を示したNTP2020では非石油収入を5,300億リアルに増やすこと、公務員の給与総額を4,800億リアルから4,560億リアルに削減すること、非政府部門で45万人以上の雇用を創出すること、国営企業を民営化するためのセンターを創設すること、石油精製能力を290万B/Dから330万B/Dにアップすること、全エネルギーに占める再生可能エネルギーの比率を4%とすることなどの具体的目標が挙げられている。
今回のビジョン2030及びNTP2020に共通しているのは目標が極めて具体的な数値として示されていることである。それゆえに国民や外国の政府・企業にとって非常にわかりやすい。しかしその反面、本当にこれだけ盛り沢山の目標を2030年或いは2020年まで(2020年と言えば残すところわずか3年である!) という限られた時間内に実現できるのか、という疑問が付きまとうのである。
石油収入に依存し人口が増え続けるサウジ社会が破たんするのを防ぐめには産業の多角化を図り雇用を創出する以外に道は無い、という思いがムハンマド副皇太子の胸中にあり、それは国の将来に対する不安の表れであると同時に父親のサルマン国王により将来の指導者として自分が選ばれたことに対する強い自負の表れでもある。
ただビジョン2030とNTP2020に掲げられた目標は政府の努力だけで達成できるものではない。上記に例示した目標を見てもわかる通り目標の多くは民間部門と密接にかかわっており、GDPに占める民間部門の比率向上、非政府部門の雇用創出などはまさに民間企業の協力なくしては達成不能である。
ところが政府が華々しく打ち上げたビジョン2030、NTP2020に対して民間企業経営者がもろ手を挙げて賛同しているようには見えないのである。政府の経済刺激策が大きなビジネスチャンスであるにもかかわらず、民間企業特に大手財閥のクールさが目に付く。今回のサルマン国王の来日に多数のビジネスマンが同行しているがそこには歴史のある大手財閥企業の名前は見えない。
日本では首相の一声で経団連が民間経営者を束ねて首相の外国訪問に同行する。他の国でも似たような図式である。経団連のような統一した業界団体のない開発途上国では、権力者を取り巻くいわゆる政商たちが徒党を組むことが多い。しかしサウジアラビアの財閥はこれまで殆ど国王或いはサウド家の王族と行動を共にしていない。特にサルマン現国王の時代になってからその傾向が強いように見受けられる。つまり民間経営者たちはサルマン国王とムハンマド副皇太子の新経済方針に対して冷ややかな目を注ぎ、「お手並み拝見」とばかり様子見を決め込んでいる節がある。
民間経営者が積極的に手を出そうとしないのは政府の一連の政策にも原因がある。その一つはサウジ人化政策(サウダイゼーション)である。公共部門のサウジ人化が飽和状態に達したため政府は民間部門のサウジ人化政策を強力に進めている。若年層の人口が急増し、しかも失業率が高止まりしたままでは社会不安が増大する。それが政府の頭痛の種でありサウジ人化政策は最優先課題の一つである。しかし民間経営者サイドから見れば、サウド家政府の政策により外国人労働者に比べて給与が高くしかも極めて効率が悪い自国民の雇用を強制されることを意味する。新経済政策をビジネスチャンスととらえてもそこには大きなリスクが潜んでいるのである。
そしてもう一つは民間企業に対する政府の場当たり的な対応である。典型的な例は公共施設の建設事業、発電造水プラント建設事業などによくみられるが、石油価格が下落し歳入が急減すると契約通りに業務を遂行している民間企業に対して支払いをストップする悪弊である。民間事業者が契約を誠実に履行したにもかかわらず、発注官庁が代金を支払わないのである。民間企業同士であれば契約代金を支払わない業者は業界から追放される。しかしサウジ政府はいつも殿様商売なのである。
生き馬の目を抜く厳しい競争を勝ち抜いてきた民間経営者から見れば今のサウジ政府、即ち権力を一手に握るサウド家はとても安心して付き合える相手ではないと言えよう。ムハンマド副皇太子は民間経営者の冷ややかな視線にどのように対処するつもりであろうか。31歳の若きプリンスの前には巨大な壁が立ちはだかっていると言ってよかろう。
以上
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
荒葉一也
E-mail; areha_kazuya@jcom.home.ne.jp
携帯; 090-9157-3642
・Keystoneパイプラインによるカナダのオイルサンド原油のメキシコ湾製油所向け輸出でOPECの重質油輸出に影響か。
・OPEC/非OPEC協調減産、7月以降の延長可否は来月結論。 *
*OPECプレスリリース:http://www.opec.org/opec_web/en/press_room/28.htm
レポート「OPEC・非OPECの協調減産は守られているか(2017年3月)」:
http://mylibrary.maeda1.jp/0403OpecNonOpecProductionCutMar2019.pdf
2017.3.24
前田 高行
昨年11月のOPEC総会で加盟13カ国(インドネシアはこの時点で加盟資格を返上)はリビア及びナイジェリアを除く11カ国で2017年1月から生産量を120万B/D(厳密には1,164千B/D)削減することを申し合わせた。リビア及びナイジェリアは内戦状態で生産量が極端に低下していることを考慮して当面の間は減産の対象外とされた。また減産量はイランを除き9月の生産量が基準とされた。イランについては核問題による経済制裁のため生産量が低水準にある点を考慮して9月の生産量を若干上回る数値を認めている(http://menadabase.maeda1.jp/1-D-2-34.pdf 参照)。そして同時にロシア、メキシコ、カザフスタン、オマーンなど非OPEC産油国11カ国も60万B/Dの減産を決定、今年1月から6か月間にわたり22カ国で合計180万の協調減産体制が出来上がった。この協調減産状況を監視するためクウェイト、ロシアなどから成る監視委員会が結成され、1月22日の第1回を手始めに委員会が毎月開催されている。
(注)全体の経緯については2月3日付レポート「OPEC減産合意の経緯」参照。
http://mylibrary.maeda1.jp/0397OpecProductionCut.pdf
3月17日の監視委員会では各国が申告した前月(2月)の生産量に基づき評価が行われ、OPECでは減産順守率を106%と説明している。1月の順守率は94%であり、このことから1月は減産目標を下回ったが、2月は目標をオーバーした減産を達成していることが解る。但し、独自の集計を行っているIEA(国際エネルギー機関)では順守率を1月105%、2月94%と全く逆の判定をしている。この事実をとらえてメディアは生産国側に立つOPEC(本部:ウィーン)と消費国側に立つIEA(本部:パリ)による「二都物語」だとはやし立てている[1]。
OPEC11カ国の目標と1月以降の実績をOPEC月例レポートの国別生産量で比較すると11カ国中、実績が目標値を下回っているのはサウジアラビア、イラン、アンゴラの3カ国だけであり、特にサウジアラビアとイランがいずれも目標生産量を20~30万B/D下回っている。アンゴラ及び目標値に達していない8カ国は目標生産量との乖離は小さく、またロシアを筆頭とする非OPEC11カ国の減産量は目標(60万B/D)の40%にとどまっている[2]。
これらの事実から減産量はサウジアラビアとイランの2カ国に負うところが大きいことがわかる。このうちイランは輸出余力があるにも関わらず米国の意向で欧米諸国への輸出が思うようには回復しないためと考えられる。一方サウジアラビアは常に十分な輸出余力を有しており、実際に1千万B/Dを超える生産を続けていたことから、現在までのところサウジアラビア一国が率先して減産している形である。
このような状況を受けて北海ブレント原油の価格は1月以降2月末までは55ドルを上回る水準を続けてきた。しかし3月に入ると50ドル台前半に下落している。米国で原油の在庫が増加し、またシェールオイルが増産する兆しを見せているからである。主要な石油消費地であるアジア市場での原油売り込み競争が激しくなっており、中国向け輸出ではイランとサウジアラビアがしのぎを削っている。
以上
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行
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E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp
・OPEC協調減産の2月達成度でIEAとOPECが正反対の評価。
・サウジアラムコIPO及び合弁製油所を巡るアジアとの関係。 *
*「アラムコIPOの行方は?」荒葉一也参照。
http://mylibrary.maeda1.jp/0400AramcoIpoMar2017.pdf
2017.3.19
荒葉一也
3.外交篇:米トランプ政権誕生で漸く腹が据わったサウジアラビア外交
しばらく鳴りを潜めていたムハンマド副皇太子が3月14日ホワイトハウスでトランプ米国大統領と会談、イラン、シリア、イエメン、イスラム国など山積する中東問題について意見を交換した。トランプ新政権誕生後、中東アラブ諸国の首脳が大統領と直接顔を合わせるのはこれが初めてである。しかも歴代大統領が国家元首以外ではこれまで慣例として認めていなかった大統領執務室(オーバル・オフィス)での写真撮影を許可し、さらに会談後は昼食に招くなど異例の厚遇ぶりを演出した。
ムハンマド副皇太子の訪米外交に力を入れたのはサウジ側も同じである。オバマ前大統領時代に過去最悪ともいえるまでに落ち込んでいた対米関係を改善することはサウジの悲願だったからである。実は同じ時期にサルマン国王一行が大人数を従えて日本を訪問したのであるが、予定されていた複数の有力閣僚が直前に訪日をキャンセルしている。Al-Jubeir外務大臣は副皇太子の露払いとして先行渡米し、またFalihエネルギー相はエネルギー会議「CERAウィーク」出席を名目にテキサス州ヒューストンに飛んでいる。共に副皇太子を支えるためと考えられる。サルマン国王にとっては米国に出かけたムハンマド皇太子のことがよほど心配だったに違いない。副皇太子は第二副首相兼国防相に加え経済開発問題会議議長も兼務しているが外交は直接の担当分野ではない。外交は首相を兼務するサルマン国王が前駐米大使のAl-Jubeir外相を指揮する形である。しかし国王は実質的な外交の決定権を当初から息子のムハンマド副皇太子に委ね、外相もテクノクラートとして副皇太子の指示に忠実に従っている格好である。
2015年1月のサルマン国王即位時の米サウジ関係は最悪の状態であった。オバマ前大統領は一連の「アラブの春」騒動でアラブの民主勢力に肩入れし、さらに核開発問題をめぐってイランと「歴史的な核合意」を締結した。これによりオバマは中東における戦争の脅威が薄れたとして、外交・国防の重点を中東から太平洋地域にシフトした。この結果、中東に「力の空白」が生まれ、シーア派のイランがシリア・アサド政権及びイエメン反政府組織のフーシー派を支え、またシリアとイラクにまたがる地域ではイスラーム過激派「イスラム国」が台頭した。スンニ派の盟主を自認するサウジアラビアにとっていずれも耐え難いことであった。
スンニ派の「イスラム国」はイスラム原理主義を標榜しており、この点では同じスンニ派原理主義であるワッハーブ派を奉じるサウジアラビアと「イスラム国」は似た者同士である。しかしサウジアラビアのサウド王家は実際は絶対君主制の世俗政権であり、従って中東でイスラーム宗教勢力が強くなりすぎることは好ましくないのである。サウジアラビアがイランを極端に嫌うのもシーア派とスンニ派の宗派闘争というよりむしろ世俗君主制政権対宗教政権の対立が根底にあり、サウジアラビアはそのことが表面化することを嫌っているからというのが一面の真理であろう。イランの宗教性を嫌っているのは米国も同じであり、だからこそサウジアラビアは米国べったりの姿勢を見せ石油政策および武器輸入で米国の歓心を買っていたのである。
しかしオバマ政権末期にはサウジアラビアの米国に対する期待はことごとく裏切られアブダッラー前国王は米国に嫌悪感すら抱くようになった。このような状況を引き継いだサルマン国王は2016年1月の即位直後から米国依存脱却を模索した。同年6月にムハンマド副皇太子がロシアのプーチン大統領及びフランスのオランド大統領と相次いで会談したのは米国離れにより中東情勢を転換しようとしたためと見ることができる。しかし中東情勢を動かすことができるのは米国の他にはないことをサウジは思い知らされた。ロシアもフランスもサウジアラビアに対して外交辞令を並べるか、さもなくば武器の売り込みに熱心なだけであった。結局サウジアラビアが頼る先は米国しかないことを思い知らされたのである。
オバマ民主党政権からトランプ共和党政権に交代し、サウジアラビアの期待が一気に膨らんだ。トランプ大統領はイスラム国の殲滅に米軍を投入し、イランとの核合意を破棄する姿勢を見せている。場合によっては直接イランを叩くことすらほのめかしている。サウジアラビアにとっては願ってもないことである。
但しサウジアラビアはトランプ米政権の中東政策の真の意図を忘れてはならない。それは二つある。一つは(邪悪とみなす)イスラーム思想が米国に広がるのを阻止すること。トランプはイスラーム思想そのものは民主主義と相いれない過激思想と見ている。彼にとってはヨーロッパ諸国のイスラームとの融和政策こそがこれら各国にイスラーム・テロをもたらし、イスラーム難民を呼び込んだ元凶に映る。だからこそイスラーム思想に忠実な宗教国家イランは我慢がならないのである。
トランプ中東政策の二つ目の意図は徹底したイスラエル擁護政策である。これはトランプを支える共和党の伝統的な政策であり、保守派の米国白人層を代弁したものでもある。米国のビジネス特に金融界を牛耳るユダヤ人の実力は不動産業で浮き沈みを経験したトランプにとって十分すぎるほどわかっているはずだ。
イスラームを国家の基本理念に据え、また歴史的にパレスチナ支援の姿勢を明確にしているサウジアラビア政府にとってはこのようなトランプ政権の二つの意図はいずれも簡単に受け入れられるものでないことは間違いない。しかし今のサウジアラビアが頼れる相手は米国しかないのである。トランプ政権の誕生でサウジアラビアの外交はようやく腹が据わったようである。
(続く)
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
荒葉一也
E-mail; areha_kazuya@jcom.home.ne.jp
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