石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(161)

2024-05-30 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第6章:現代イスラームテロの系譜(16

 

161 悪の枢軸イラクとの戦争(2003年)(4/4)

兵士を鼓舞するこのようなスローガンが無くても圧倒的な物量を誇る有志連合の前にイラク軍は衆寡敵せず、である。戦闘は早々と決着がつき、ブッシュ大統領は2か月後にはペルシャ(アラビア)湾に浮かぶ原子力空母「アブラハム・リンカーン」の艦上で「大規模戦闘終結宣言」を行ったのである。

 

しかしよく知られているとおり戦争後の調査でイラクに大量破壊兵器など存在しなかったことがわかり、イラク戦争の開戦理由が否定された。さらにフセインをとらえ死刑に処した後もイラクの治安は回復するどころかむしろ宗派対立、部族対立が表面化し治安の悪化が常態化した。ようやく2011年にオバマ大統領によりイラク戦争終結宣言が出て米軍は全面撤退したのである。しかし本当のところは戦争が終結したから軍が撤退したのではなく、軍を全面撤退させるために戦争の終結を宣言したという方が正しいのであろう。

 

米軍の撤退を見計らったかのようにシリアからイラク北部にかけて「IS (イスラム国)」が侵入して来るのである。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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ENEOSの年間売上高をしのぐアラムコ利益:邦系2社vs IOCs/Aramco2023年(度)業績比較(1)

2024-05-30 | 海外・国内石油企業の業績

はじめに

 国内1位、2位の石油企業ENEOSホールディングス(以下ENEOS)と出光興産(以下 出光)の2023年度決算(2023年4月~2024年3月)が相次いで発表された。国際石油企業5社(ExxonMobil, Shell, BP, Total及びChevron、以下メジャーズ)の2023年決算(2023年1月~12月)については既に「五大国際石油企業2023年業績速報」としてレポートした。本稿はこれら7社にサウジアラビアの国営石油会社SaudiAramco(以下アラムコ)を加えた8社の決算資料の中から利益、売上高、キャッシュフローを抽出、ドル建て換算で比較したものである。

8社は以下の通り決算期間、業態及び規模、決済通貨等が異なり単純に比較することの意味は少ないが、そのことを踏まえたうえで本レポートをお読みいただきたい。

 

(1)決算期間の違い

メジャーズ及びアラムコは四半期決算をメインとし3カ月ごとの数値を公表、第4四半期(10-12月)の決算資料で年間の業績を提示している。これに対してENEOS及び出光の決算期は4月から翌年3月までであり、3カ月ごとに期初(4月)からの累計額を表示している(例えば9月末は4-9月の6か月間、12月末は4-12月の9か月間の累積値である)。このように決算期間が3か月ずれているため景気或いは原油価格の変動が及ぼす影響にタイムラグがあらわれる。

 

(2)業態及び規模の違い

 アラムコは原油の開発生産を主力事業としており、その販売量は世界一である。メジャーズは原油の開発生産及び石油製品の販売の双方で世界規模の事業を展開しており、最近では天然ガスの生産増強に加え太陽光など非化石エネルギーの生産販売にも注力している。これに対して邦系2社は石油精製による製品販売を事業の中核とし、しかも日本国内市場を対象としており規模が小さい。

 

(3)決済通貨の違い

 アラムコ及びメジャーズの決算はドル建てであり(但しTotalEnergiesはユーロ建てとドル建ての併記)、一方邦系2社は円建てである。本稿では比較のため2社の決算説明資料に明記された各社の換算レートを用いてドル建てに換算し比較している。従って例えば円安であればメジャーズ及びアラムコとの見かけ上の格差が拡大し、一方円高であれば格差は縮小することになる。因みに今期(2023年度)の為替レートはENEOS145.0円/ドル、出光144.6円/ドルである。

 

アラムコ、メジャー五社、ENEOS及び出光興産の決算ホームページは下記のとおり。

 

Aramco:

https://www.aramco.com/-/media/publications/corporate-reports/reports-and-presentations/2023/fy/saudi-aramco-fy-2023-full-financials-english.pdf

ExxonMobil:

https://corporate.exxonmobil.com/news/news-releases/2024/0202_exxonmobil-announces-2023-results

Shell:

https://www.shell.com/media/news-and-media-releases/2024/fourth-quarter-2023-results-announcement.html

BP:

https://www.bp.com/en/global/corporate/news-and-insights/press-releases/fourth-quarter-2023-results.html

Total:

https://totalenergies.com/media/news/press-releases/fourth-quarter-and-full-year-2023-results

Chevron:

https://www.chevron.com/newsroom/2024/q1/chevron-reports-4q-2023-results

ENEOSホールディングス:

https://www.hd.eneos.co.jp/ir/library/statement/

出光興産:

https://ssl4.eir-parts.net/doc/5019/tdnet/2439015/00.pdf

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

     前田 高行     〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

 

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中東と石油のニュース(5月29日)

2024-05-29 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

 

(中東関連ニュース)

・ガザのパレスチナ人死者36,000人に

・イスラエル首相:ラファ空爆による難民被害は不運な事故

・米軍建設のガザ支援物資荷揚げふ頭、荒天で損壊。修理完了まで使用不能

・トルコの貿易停止措置の対応に追われるイスラエル

 

・イラン:国会議長に強硬派のMohammad Qalibaf再選

・エジプト大統領、北京到着。中アラブ協力フォーラムに出席

・IAEAレポート:イランのウラン濃縮、核兵器製造の水準に近づく

・日本Uhuru社、サウジでスマートシティ事業に進出

ウフル社プレスリリース参照。

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(160)

2024-05-28 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第6章:現代イスラームテロの系譜(15

 

160 悪の枢軸イラクとの戦争(2003年)(3/4)

こうして2003年3月、米国はイギリス、オーストラリアなど数か国と有志連合を組み、「イラクの自由作戦」の名のもとにイラクに攻め込んだ。戦いに臨む米軍には伝統に輝く二つの勇ましいスローガンがあった。第二次世界大戦そして湾岸戦争に続いて対イラク戦争でもこの掛け声が唱えられた。「ショー・ザ・フラッグ(Show the Flag)」と「ブーツ・オン・ザ・グラウンド(Boots on the ground)」の二つのスローガンである。

 

これらを直訳すれば「ショー・ザ・フラッグ」は「旗(幟)色を鮮明に」、「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」は「戦場に軍靴の音高く」ということになる。二つを合わせて意訳するなら「軍旗を押し立て前線に乗り込む」ということにでもなるのであろう。つまりそこにあるのは「敵か味方かはっきりさせろ」ということであり、そして「ともかく戦場で敵と直接対峙しろ。臆病者になるな」と叱咤激励するのである。テキサス出身のカウボーイの末裔ブッシュ大統領は、かつてインディアン(差別用語だとして現在では「ネイティブ・アメリカン」と称されているが)を蹴散らした騎兵隊長の気分だったと考えればわかりやすい。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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中東と石油のニュース(5月27日)

2024-05-27 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・イラン、原油40万B/D増産、400万B/D体制樹立目指す

(中東関連ニュース)

・首都テルアビブに空襲警報。イスラム過激派のハマス、7か月ぶりの長距離砲発射

・仏大統領、カタール首相などアラブ4カ国首脳と協議

・シリア国民の4分の1以上570万人が極貧状態:世銀レポート

・イエメンフーシ派、捕虜100名以上を釈放

・サウジ、12年ぶりに駐イラク大使を任命

・サウド国王大学、東京大学と提携

・サウジACWA Power、海水淡水技術で東レ、三井住友などとMoU 締結

・エジプト中小企業庁、企業振興策でJICAとMoU締結

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今週の各社プレスリリースから(5/19-5/25)

2024-05-25 | 今週のエネルギー関連新聞発表

5/21 JOGMEC

ブラジル連邦共和国におけるインペックス北東ブラジル沖石油株式会社の事業終結について

https://www.jogmec.go.jp/news/release/news_10_00181.html

 

5/22 OPEC

COP29-OPEC High-Level Energy Dialogue

https://www.opec.org/opec_web/en/press_room/7335.htm

 

5/24 ENEOS

世界初、AI技術による原油処理装置の自動運転を開始

https://www.eneos.co.jp/newsrelease/upload_pdf/20240524_02_01_2002167.pdf

 

5/24 Shell

Atapu Consortium Takes Final Investment Decision on Atapu-2 Project in Brazil’s Pre-Salt

https://www.shell.com/news-and-insights/newsroom/news-and-media-releases/2024/atapu-consortium-takes-final-investment-decision-on-atapu-two-project-in-brazils-pre-salt.html

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(159)

2024-05-25 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第6章:現代イスラームテロの系譜(14

 

159 悪の枢軸イラクとの戦争(2003年)(2/4)

そして1991年の湾岸戦争ではブッシュ(父)米国大統領が躊躇することなく軍事行動を起こし、イラク軍をクウェイトから撃退した。しかし当時、軍事行動の目的はクウェイト解放のみ、という国連決議の制約のためバクダッドを目前にしてブッシュ(父)大統領は連合軍の引き揚げを命じた。フセイン政権はかろうじて生き延び、その後国内の実権を握り続け、シーア派、クルド族など対立する勢力を弾圧しつつ富国強兵を図り、恐怖政治を続けたのであった。

 

息子のブッシュ大統領が持ち出したのがフセイン政権の大量破壊兵器隠匿及び国際テロ組織アル・カイダとの結託の疑惑であった。ブッシュ・ドクトリンを掲げて、米国は国連でイラクに対する軍事制裁を説き続けた。安全保障理事会ではロシア、中国に加えフランスも反対、米国に同調したのは英国のみであったが、それでもブッシュはネオ・コンの強硬姿勢を崩さなかった。彼にとってフセイン政権打倒はイラクを民主主義国家に変えるという湾岸戦争で果たし得なかった父親の夢を実現することだった。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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中東と石油のニュース(5月24日)

2024-05-24 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・原油価格、4日連続で下落。Brent $81.70, WTI $77.28

(中東関連ニュース)

・スペイン、ノルウェー、アイルランドのEU3カ国がパレスチナ政府承認

・イラン:故ライシ大統領、故郷のMashhadに埋葬

・バハレーン国王、ロシアと中国訪問

・UAE大統領、5/28日に韓国訪問

・新サウジ駐日大使、天皇陛下に信任状提出

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利益は前年同期比減、前期比増:2024年1-3月期五大国際石油企業決算速報 (10完)

2024-05-24 | 海外・国内石油企業の業績

III. 過去2年間の四半期業績推移(続き)

(原油価格との連動が薄れてきた売上高!)

2.売上高の推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-61.pdf 参照)

 2022年4-6月期から今期(2024年1-3月期)まで過去2年間8四半期の売上高の推移を見ると、2022年4-6月期はExxonMobilが1,157億ドル、Shellは1,001億ドルであり、この2社が売上高1千億ドルを超えている。両社に次ぐのがTotalEnergies748億ドル、bp695億ドルであり、最も少ないChevronの売上高は654億ドルであった。因みに同期間のBrent原油平均価格は113.93ドル/バレルで、2024年1-3月期までの8四半期の中では最も高かった。

 

 原油価格は続く7-9月期も100ドルを超えたが、10-12月期には89ドルに下落、2023年4-6月期には78ドルまで大幅に下落した。その後は80ドル台に持ち直したが、今期は83ドルにとどまっている。

 

原油価格の変動と各社の売上高の相関関係を見ると、ExxonMobil、TotalEnergies及びChevronは下記の通り原油価格と売上高がかなり相似している。(単位:Brent原油 $/bbls, 売上高 億ドル)

 

            2022年               2023年                      2024年

            4-6月  7-9月  10-12月 1-3月  4-6月  7-9月  10-12月 1-3月

Brent($/bbls)114    101    89     81     78     87     84     83

 

ExxonMobil   1,157  1,121  954    866    829    954    843    831

TotalEnergies  748    690  686    626    563    590    592    563

Chevron       654    635  545    488    472    545    489    466

 

 これに対してShellは原油価格が下落した2022年10-12月期及び2023年10-12月期には逆に売上高が伸びている。その一方、今期は原油価格が前期に比べ▲1.4%の小幅な下落だったのに対し売上高は▲8%も減少しており、売上高と原油価格の相関関係が乏しい。bpも同様の傾向が見られる。

 

 因みにShell及びbpは原油・天然ガスの合計生産量が5社の中で最も少ない。このことから両社は石油・天然ガス以外の非化石エネルギー(太陽光、風力発電など)の開発生産販売あるいは非エネルギー分野にシフトしつつあると考えられる。

 

以上

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

     前田 高行     〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                   E-mail; maedat@r6.dion.ne.jp

 

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利益は前年同期比減、前期比増:2024年1-3月期五大国際石油企業決算速報 (9)

2024-05-23 | 今日のニュース

III. 過去2年間の四半期業績推移

 ここでは2022年4ー6月期以降2024年1-3月期までの8四半期の業績推移を比較する。

 

(利益トップの王座を譲らないExxonMobil!)

1.純利益の推移

(図:http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-62.pdf 参照)

  2022年4-6月期は5社すべてが利益を計上したが、Shellの180億ドル、ExxonMobilの179億ドルを筆頭にChevron及びbpも100億ドル前後の高い利益を確保した。TotalEnergiesはこれら4社より低い水準の57億ドルの利益であった。

 

翌7-9月期はShellの利益は3分の1に、またbpはマイナスに転落した。Chevron及びTotalEnergiesが横ばいにとどまり、197億ドルの利益を出したExxonMobilが他社を大きく引き離し利益トップとなった。ExxonMobilの利益はその後減少傾向を示したものの、今期(2024年1-3月期)までトップの座を保っている。

 

Shellは2022年7-9月期以降毎期増減を繰り返し、今期はExxonMobilに次ぐ74億ドルの利益を計上している。Chevron及びTotalEnergiesは他社に比べ利益の変動幅が小さく、最近の四半期は50億ドル乃至60億ドルの利益を計上している。bpは他の4社に比べて利益が少なく、昨年4-6月以降は5社の中で最も低い利益水準にとどまっている。

 

因みに2022年4-6月期の利益を100とした場合、bpは4分の1に下落、ExxonMobil、Shell及びChevronも4割台に沈んでおり、TotalEnergiesのみが8四半期前の水準に戻っている。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

     前田 高行     〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                   E-mail; maedat@r6.dion.ne.jp

 

 

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