(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)で一括ご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0249OilGasSupplyInJapan.pdf
4.冬寒く、夏暑い近未来の日本
1973年の第4次中東戦争でアラブ産油国は石油を外交の武器に使用した(いわゆる第一次オイルショック)。供給サイドには「石油を売らない自由」があり、価格が暴騰した。しかし1980年代以降は供給過剰となり石油は金さえ出せば買える市場商品となった(石油のコモディティ化)。但し石油にとって代わるエネルギーは現れず、需要側に「石油を買わない自由」はなかった。
最近久しぶりに石油を外交の武器にするケースが現れた。イランの核開発疑惑に対し米国が発動したイラン原油の輸入禁止措置である。第一次オイルショックとは逆に「買わない自由」の行使である。しかしイラン以外の産油国から十分な石油が確保でき、さらには年々自給率が高まる米国自身にとってはイラン原油の輸入禁止は殆ど実害がない。西欧諸国も影響は軽微である。深刻な影響を受けるのは日本、中国、韓国、インドなどのアジア諸国である。日本は米国の顔色を窺がい、制裁の例外措置を受けることで急激な影響を何とか回避しようとしている。「買わない自由」すら米国に握られていると言う日本の状況に寒気を覚える。
さらに日本は原発停止と言う試練が加わった。代替の発電燃料としてLNGを買い漁っている状況である。米国ではシェールガス革命で天然ガスの価格が史上最低水準にあるにも関わらず、日本のLNG輸入価格は米国の5倍以上(米国産ガスをLNGとして輸入する想定価格で比較しても2~3倍)である。日本は高価格のLNGを調達せざるを得ない。天然ガスについても日本には「買わない自由」は無いのである。
勿論日本の石油企業、商社、電力会社などは石油・天然ガスを安定的に確保する努力を怠っていない。海外の石油・天然ガスの開発事業に参画し、或いは天然ガスを石油価格連動ではなく現在の市場相場に近い価格で契約するケースも見られる。国内では太陽光、風力など再生可能なクリーン・エネルギーの開発が盛んに行われている。また自動車の燃費向上、LED照明の普及など省エネルギーの動きも活発である。この結果日本は10年前に比べて石油・天然ガスの消費量が減少している世界的にも極めて稀な国となっている 。
しかし現在のところ経済的に見て石油・天然ガス等の化石エネルギーに比肩できるものは見当たらず、世界経済が持続的に発展するためには化石エネルギーが必要不可欠であることも明らかである。従って今後も石油・天然ガスの価格は高止まりすると考えられる。
つまり日本の消費者は高い価格で石油・天然ガスを輸入しつつ、同時に高コストの太陽光、風力などの再生可能エネルギーを使用することとなり、企業も一般家庭も高い負担を覚悟しなければならないであろう。一般家庭では今までの快適さを我慢する「夏暑く冬寒い」生活を覚悟しなければならない。またマクロな日本経済で考えた場合、石油・天然ガスの高い輸入コストをカバーするために輸出を促進し貿易の赤字幅を少しでも減らすことを考えなければならない。
エネルギーの安定確保と輸出促進と言う日本の国益を追求しようとすれば米国の利害と相反する局面が増えるであろう。しかし再三述べてきたように米国が軍事面で日本と共同行動を取ることはあっても、経済面で日本の苦境に手を差し伸べることは期待できない。そのためには日本外交は時として米国と異なる対応を取ることも必要になる。そのため米国に対するダブル・スタンダード外交を覚悟しなければならない。潔癖症の日本人はダブル・スタンダードを「二枚舌」として嫌う傾向が強い。しかし外交の世界ではダブル・スタンダードこそ標準(スタンダード)なのである。米国に追随するだけではなく、リスクヘッジのための代替手段を確保しておかなければならない。日本のエネルギー確保は今後孤独な戦いを強いられる。しかし孤独を恐れてはならない。
(完)
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前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
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11/19 関西電力 BPシンガポール社からの液化天然ガス購入契約に関する基本合意書の締結について http://www.kepco.co.jp/pressre/2012/1119-2j.html
11/20 石油連盟 「国内外のエネルギー・環境政策に向けた産業界の提言」について http://www.paj.gr.jp/paj_info/press/2012/11/20-000605.html
11/22 国際石油開発帝石 帝石トッピング・プラント株式会社 頸城製油所における石油精製事業の終結について(お知らせ) http://www.inpex.co.jp/news/pdf/2012/20121122.pdf
11/22 BP BP, Rosneft and Rosneftegaz Sign Definitive Agreements Relating to the Sale of BP’s Interest in TNK-BP and BP’s Investment in Rosneft http://www.bp.com/genericarticle.do?categoryId=2012968&contentId=7080770
11/23 BP BP Appoints New Upstream Head http://www.bp.com/genericarticle.do?categoryId=2012968&contentId=7080802
(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)で一括ご覧いただけます。
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3.米国は2030年頃に石油の輸出国になる:IEAの予測
前項で米国内のシェールガス及びシェールオイル(軽質タイトオイル)の生産が急増し、近い将来石油・天然ガスを完全自給できる時代が来ると述べたが、つい最近IEA(国際エネルギー機関)は「World Energy Outlook 2012 (世界エネルギー展望2012)」の中で「米国のエネルギー・フローの潮目が変わり、米国は2020年代半ばまでにサウジアラビアをしのぐ世界最大の石油生産国に、2030年頃には石油の純輸出国になる」と明言している。さらに同報告書では「国際石油貿易はアジアへの流れが加速され、中東産石油をアジア市場へと運ぶ戦略的ルートの安全保障が注目される」とも記している 。
かつて米国が地中海そしてペルシャ湾で外交及び軍事力を展開してきたのにはいくつかの理由がある。その一つは言うまでもなくイスラエル支援であり、もう一つは西欧諸国或いは日本、韓国、インドなどアジアの親米同盟国を繋ぎとめるためのエネルギー安全保障であった。エネルギー安全保障問題についてはヨーロッパ諸国ではペルシャ湾岸産油国の依存度を低下させる一方、北アフリカに関してはリビア内戦へのNATO軍事介入の例に見られるように米国抜きに自力で対処している。そして米国自身も全世界の紛争に介入する余力を失い、中東から撤退して太平洋にシフトしようとしている。
このように考えると米国が中東の反米イスラム勢力或いは中東産石油を渇望する中国を刺激してまで日本、インド、韓国などのためにリスクを負うつもりはなくなったと考えるのが常識的であろう。そもそも米国は国産で不足するエネルギーは隣接のカナダ、メキシコから輸入し、それでも足らない場合は南米のブラジルや大西洋対岸の西アフリカ諸国(ナイジェリアなど)から輸入すれば良いはずである。何も地球の反対側のペルシャ湾からはるばるスエズ運河或いは喜望峰を経由して輸入する必要はないのである。
完全自給体制が視野に入って来た現在では米国にとって中東問題はエネルギー問題ではなくイスラエル支援の問題でしかなくなりつつあると言えよう。米国は軍事力を中東から太平洋にシフトしようとしている。今や米国の死活的利益は環太平洋における自由貿易体制であり、そこにおける「仮想の敵」はまず中国、次いでロシアであろう。端的に言えば米国が守ろうとしているのは「自国の意のままになる自由貿易体制の堅持」であって「同盟国のためのエネルギー安全保障」ではないのである。
米国の対日戦略は日本近海における中国の脅威に対しては日本を支援し共同作戦を取るであろうが、ペルシャ湾からインド洋、東シナ海へと続く日本のエネルギー・シーレーンの安全確保まで保証してくれる訳ではない。かといって日本が自らの手で安全を確保することは日本固有の軍事力或いは日本の置かれた国際的立場から見ても無理な話である。さらに米国がエネルギーの輸出国になったとして緊急時に日本に優先的に配慮するとも思えない。米国は地球規模で国益を追求するドライな国である。
このような観点に立つと日本と同じエネルギー自給率ゼロの韓国の方がよほど将来に対する冷徹な目を持っている。朝鮮半島で常に脅威に直面している韓国は軍事力の行使に躊躇しない。と同時に国際社会で生き延びるためにはいかなる手も打つつもりのようである。米国とFTAを締結したのもその表れと言える。米国は天然ガス(LNG)の輸出をFTA締結国に限定している。つまり韓国は米国からLNGを輸入することができるが、日本は今のままでは輸入出来ない。
政治的外交的な安全保障の観点から今のところ日米同盟にかわるものはなく日本は米国に頼らざるを得ないのが現状である。しかしエネルギー安全保障の面では米国一国依存は極めて不安定なのである。日本は孤独である。
(続く)
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・GECF(ガス輸出国フォーラム)事務局長:ガス価格の石油連動は妥当。日本の動きを牽制。 *
*「石油・天然ガスの確保で孤独な戦いを強いられる日本」(連載第1回)参照。
http://blog.goo.ne.jp/maedatakayuki_1943/e/62f765741c62391792d2144dc0bb57cd
GECFについては「ガスOPECは生まれるのか?」参照。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0131GasOpecReport2007.pdf
11/14 石油連盟 石油増税反対 総決起大会について http://www.paj.gr.jp/paj_info/press/2012/11/14-000602.html
11/14 Shell Strong global gas demand underpin Shell's integrated gas strategy http://www.shell.com/home/content/media/news_and_media_releases/2012/shell_integrated_gas_strategy_141112.html
11/14 Total Qatar Petroleum and Total sign new agreement on Al Khalij oil field for a further 25 years http://www.total.com/en/press/press-releases/consultation-200524.html&idActu=2904
11/15 経済産業省 本多政務官がアラブ首長国連邦に出張しました http://www.meti.go.jp/press/2012/11/20121115001/20121115001.html
11/15 コスモ石油 Hyundai Cosmo Petrochemical 株式会社新規パラキシレン製造装置完成について http://www.cosmo-oil.co.jp/press/p_121115/index.html
11/15 石油連盟 木村 石油連盟会長定例記者会見配布資料 http://www.paj.gr.jp/from_chairman/data/2012/index.html#id604
11/15 三井物産 ブラジルで産業・商業向けエネルギーサービス事業に参画 http://www.mitsui.com/jp/ja/release/2012/1199324_3610.html
11/15 伊藤忠商事 カタール国における奨学金の提供について http://www.itochu.co.jp/ja/news/2012/121115.html
11/15 BP BP Announces Resolution of All Criminal and Securities Claims by U.S. Government Against Company Relating to Deepwater Horizon Accident http://www.bp.com/genericarticle.do?categoryId=2012968&contentId=7080497
11/16 経済産業省 再生可能エネルギー発電設備の導入状況を公表します(平成24年10月末時点(速報値)) http://www.meti.go.jp/press/2012/11/20121116005/20121116005.html