石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

BPエネルギー統計レポート2014年版解説シリーズ:石油篇7 生産量(3)

2014-06-29 | その他

(注)本レポート1~18回は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0318BpOil2014.pdf

 

(1千万B/Dを超え1980年代の生産量を回復した米国!)
(4)主要産油国の生産量の推移(1990年、 2000年、2013年)
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/1-2-G03.pdf 参照)
 産油国の中には長期的に見て生産量が増加している国がある一方、年々減少している国もある。ここではサウジアラビア、ロシア、米国、中国、UAE、イラン、イラク、ベネズエラ及びブラジルの9カ国について生産量の推移を見てみる。

 サウジアラビアの生産量は1990年の711万B/Dが2000年には947万B/Dに増加、2013年は1,153万B/Dに達している。これは1990年比1.6倍という顕著な増加である。ロシアの石油生産は1990年に1千万B/Dを超えていたが、ソ連崩壊の影響で90年代は急減、2000年の生産量は658万B/Dに落ち込んだ。しかし同国はその後再び生産能力を回復し2013年は革命前の水準に戻り1,079万B/Dを記録している。

 現在世界第3位の産油国である米国は1980年代半ばまで1千万B/Dの生産量を維持していたが、その後は年を追う毎に減り1990年には891万B/D、さらに2000年には773万B/Dに減少している。そして2008年にはついに678万B/Dまで落ち込んだが、同年以降石油生産は上向きに転じ2013年には1,000万B/Dを突破している。

 中国、イラン及びUAE各国の1990年、2000年、2013年の生産量を比べると1990年から2000年の間は3カ国とも同じような増産傾向を示している。即ちイランの場合は327万B/D(1990年)→385万B/D(2000年)で、中国は278万B/D→326万B/D、UAEは228万B/D→266万B/Dであった。しかし2013年の生産量については中国418万B/D、UAE365万B/Dと2000年を超えているにもかかわらず、イランは356万B/Dにとどまり、中国及びUAEに追い抜かれている。これは欧米諸国による石油禁輸政策の影響である。

 イラクは1979年には350万B/Dの生産量を誇っていたが、1980年代はイラン・イラク戦争のため生産が減少、1990年の生産量は215万B/Dに落ち込んだ。更に1991年の生産量は湾岸戦争のため134万B/Dになり、経済制裁の影響で100万B/D以下に激減した年もあった。2000年には261万B/Dまで回復したものの、2003年のイラク戦争により再び低迷した。近年漸く生産は上向き2013年の生産量は314万B/Dとなっている。

 ベネズエラは1990年の224万B/Dから2000年には1.4倍の310万B/Dに増加した後、2013年には逆に262万B/Dに落ち込んでいる。これと対照的に1990年以降の20年間で生産量を急激に伸ばしたのがブラジルである。同国の1990年の生産量は65万B/Dでベネズエラの3割程度に過ぎなかったが、2000年には1990年の2倍の127万B/D、さらに2013年には211万B/Dに急増、その生産量はノルウェーをしのぎベネズエラ、ナイジェリアに肉迫している。

(石油篇生産量完)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

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今週の各社プレスリリースから(6/22-6/28)

2014-06-28 | 今週のエネルギー関連新聞発表

6/23 経済産業省    表層型メタンハイドレートの掘削調査を開始します~国による初めての本格的な地質サンプル取得作業の実施~ http://www.meti.go.jp/press/2014/06/20140623003/20140623003.html
6/23 石油連盟    木村 石油連盟会長定例記者会見配布資料 http://www.paj.gr.jp/from_chairman/data/2014/index.html#id696
6/24 OPEC    Joint Conclusion of the EU-OPEC Energy Dialogue http://www.opec.org/opec_web/en/press_room/2860.htm
6/26 三菱商事   ヨルダンで太陽光発電事業に参画 http://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2014/html/0000025075.html
6/27 JX日鉱日石エネルギー    人事異動について http://www.noe.jx-group.co.jp/newsrelease/2014/20140627_01_0970780.html

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BPエネルギー統計レポート2014年版解説シリーズ:石油篇6 生産量(2)

2014-06-27 | その他

(注)本レポート1~18回は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0318BpOil2014.pdf

 

(2000年以降OPECの生産シェアは42%でほぼ一定!)
(3)石油生産量の推移とOPECシェア(1965~2013年)
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/1-2-G02.pdf 参照。)
 1965年の世界の石油生産量は3,180万B/Dであったが、その後生産は急速に増加し、1980年には6,296万B/Dとほぼ倍増した。その後価格の高騰により石油の消費は減少、1985年の生産量は5,746万B/Dにとどまった。1980年代は石油の生産が歴史上初めて長期にわたり減退した時期であった。

 1990年代に入ると石油生産は再び右肩上がりに増加し始めた。そして1995年(6,799万B/D)以降急激に伸び2000年に7,498万B/D、2005年は8千万B/Dを突破して8,211万B/Dに達している。これは中国、インドなど新興経済国の消費量が急増したことが主たる要因である。その後2000年代後半は原油価格の急騰とそれに続く景気後退で石油生産の増加は鈍り2013年の生産量は8,681万B/Dであった。

 地域毎のシェアの変化を見ると、1965年は北米の生産量が32%でもっとも多く、中東26%、欧州・ユーラシア18%、中南米14%、アフリカ7%と続き、アジア・大洋州はシェアが最も小さく3%であった。しかしその後北米の生産が停滞する一方、中東及び欧州・ユーラシア(特にロシア及び中央アジア各国)が急成長したため、現在(2013年)では中東のシェアが最も高く(33%)、次いで欧州・ユーラシア(20%)、北米(19%)の順となっている。米国のシェアは過去30年近く下がり続けたが、最近はわずかながらアップしている。これはシェール・オイルの生産が急増したためと考えられる。これとは逆にアフリカの生産は最近シェアが頭打ちから減少する傾向にある。

 石油生産に占めるOPEC加盟国のシェアの推移を見ると、1965年は44%であり、第一次オイルショック(1973年)前には50%近くに達した。しかし80年代前半にシェアは急落し85年には30%を切った。その後80年代後半から90年代前半にシェアは回復し、95年以降は再びシェアは拡大して40%台のシェアを維持しており2013年は42%であった。

 OPECのシェアが1980年代前半に急落したのは、第二次オイルショック(1979年)の価格暴騰を引き金として世界の景気が後退、石油需要が下落した時、OPECが大幅な減産を行ったためである。

 今後の石油生産の推移について需要と供給の両面で見ると、石油と他のエネルギーとの競合の面では、地球温暖化問題に対処するため太陽光、風力などの再生可能エネルギーの利用促進が叫ばれている。さらに石油、天然ガス、石炭の炭化水素エネルギーの中でもCO2排出量の少ない天然ガスの人気が高い。このように石油の需要を取り巻く環境は厳しいものがある。その一方、中国、インドなどのエネルギー需要は今後も拡大するとする見方が一般的である。基幹エネルギーである石油の需要は底堅く、今後も増えていくものと予測される。

 供給面ではブラジル、メキシコ湾における深海油田或いは自然環境の厳しい北極圏などのフロンティア地域において開発生産されるようになった。さらに特筆すべきはこれまで開発されていなかったシェール・オイル、サンド・オイルなど「非在来型」と呼ばれる石油が商業ベースで生産されるようになった。これは石油開発技術の進歩の成果であるが、その背景には石油価格が高止まりしていることがある。但しイランに対する経済制裁、リビア、イラク、ナイジェリア等の有力産油国の治安が悪化している。これらは一時的・短期的な要因とも考えられるが供給面における不確定要素も少なくない。

(続く)

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 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
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ニュースピックアップ:世界のメディアから(6月27日)

2014-06-27 | 今日のニュース

・OPEC事務局長:イラク政情不安でも原油供給に問題なし。価格高騰の原因は供給不足ではなく投機

 

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BPエネルギー統計レポート2014年版解説シリーズ:石油篇5 生産量(1)

2014-06-25 | その他

 

(注)本レポート1~18回は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。

 

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0318BpOil2014.pdf

 

 

2.2013年の世界の石油生産量
(世界の石油生産量の3分の1を占める中東地域!)
(1) 地域別生産量
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/1-2-G01.pdf 参照)
 2013年の世界の石油生産量は日量8,681万バレル(以下B/D)であった。これを地域別でみると中東が2,836万B/Dと最も多く全体の33%を占めている。その他の地域については欧州・ユーラシア1,728万B/D(20%)、北米1,683万B/D(19%)、アフリカ882万B/D(10%)、アジア・大洋州823万B/D(10%)、中南米729万B/D(8%)である。

 各地域の生産量と埋蔵量(石油篇1参照)を比較すると、埋蔵量のシェアが生産量のシェアより高い地域は中東及び中南米であり、その他の地域(北米、欧州・ユーラシア、アフリカ、アジア・大洋州)は生産量のシェアが埋蔵量のシェアよりも高い。例えば中東は埋蔵量では世界の48%を占めているが生産量は33%に過ぎない。中南米も埋蔵量シェア19%に対し生産量シェアは8%である。一方、北米及び欧州・ユーラシアの場合、埋蔵量シェアがそれぞれ14%、9%に対して生産量のシェアは19%及び20%である。またアジア・大洋州も生産量シェアが埋蔵量シェアを8ポイント上回っている。このことから地域別に見て将来の石油生産を維持又は拡大できるポテンシャルを持っているのは中東及び中南米であることが読み取れる。

(前年比で二桁の伸びを示し1千万B/D台を突破した米国!)
(2) 国別生産量
(表http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/1-2-T01.pdf 参照)
 次に国別に見ると、最大の石油生産国はサウジアラビアである。同国の2013年の生産量は1,153万B/Dであり、第2位はロシア(1,079万B/D)であった。サウジアラビアはこれまで圧倒的な生産量を誇り両国の差は一時300万B/Dを超えたこともあったが、近年はその差が縮まり2009年、2010年の両年はロシアがサウジアラビアを追いぬき生産量世界一となった。しかし2011年以降は再びサウジアラビアが生産量世界一の座を取り戻している。

 第3位は米国であるが、同国の生産量は前年の889万B/Dから大幅に伸長し13.5%増加、1千万B/Dの大台を突破した。上位10カ国のうち前年比で二桁台の増加率は米国だけである。これら3カ国の生産量は4位以下を大きく引き離しており、世界に占めるシェアは4割弱の37%に達する。

 4位以下は中国(418万B/D)、カナダ(395万B/D)、UAE(365万B/D)と続きイランが僅差の356万B/Dで世界7位に入っている。しかし同国は欧米の禁輸措置により輸出量が激減し、これに伴って生産量は米国と対照的に前年比6%減と上位10カ国の中で際立って悪い。同国は一昨年の4位から昨年の6位、そして今年は7位と毎年順位を落としている。ライバルのイラクの生産量は前年をわずかに上回る314万B/Dで既にイラク戦争前を上回る生産水準に回復し、イランに次ぐ8位につけている。

 9位以下はクウェイト(313万B/D)、10位メキシコ(288万B/D)、11位ベネズエラ(262万B/D)、12位ナイジェリア(232万B/D)、13位ブラジル(211万B/D)と続き、以上の国々が生産量200万B/D以上の産油国である。

(続く)

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BPエネルギー統計レポート2013年版解説シリーズ:石油篇4 埋蔵量(4)

2014-06-24 | その他

(注)本レポート1~18回は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0318BpOil2014.pdf

 

(世界の石油の4分の3はOPECに!)
(5)OPECと非OPECの比率
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/1-1-G04.pdf 参照)
 既に述べた通り2013年末の国別石油埋蔵量ではベネズエラとサウジアラビアが世界1位、2位であるが、両国は共にOPECのメンバーである。また両国の他にイラン、イラク、クウェイト、UAE及びリビアが石油埋蔵量の上位10カ国に名を連ねている(「1.世界の石油の埋蔵量と可採年数」参照)。実にベストテンのうち7カ国がOPEC加盟国であり、非OPECで世界ベストテンに入っているのは3位カナダ、8位ロシア及び10位米国の3カ国だけである。OPEC全加盟国の埋蔵量を合計すると1兆2千億バレルに達し、世界全体(1.7兆バレル)の72%を占めている。
 
 加盟国の中にはベネズエラ、イラン、イラクのように埋蔵量の公表数値に水増しの疑いがある国もあるが(前項参照)、統計上で見る限りOPECの存在感は大きい。OPEC総会では生産枠を3千万B/Dと決めており生産量が議論の基準となっており、将来の生産能力を考えた場合、埋蔵量の多寡が決定的な意味を持ってくる。この点からOPEC加盟国の埋蔵量が世界全体の7割以上を占めていることはOPECが将来にわたり石油エネルギーの分野で大きな存在感を維持すると言って間違いないであろう。OPEC加盟国の間でもベネズエラ、イラン、イラクなどが埋蔵量の多寡に拘泥するのはその延長線上だと考えられる。

 OPEC対非OPECの埋蔵量比率を歴史的に見ると、1980年末はOPEC62%に対し非OPECは38%であった。その後この比率は1985年末にOPEC66%、非OPEC34%、さらに1995年末にはOPEC74%に対し非OPEC26%とOPECの比率が上昇している。これは1970年代の二度にわたる石油ショックの結果、1980年代に需要の低迷と価格の下落が同時に発生、非OPEC諸国における石油開発意欲が低下したためである。

 1990年代末から2000年初めにかけて世界景気が回復し、中国・インドを中心に石油需要が急速に伸び価格が上昇した結果、ブラジル、ロシア・中央アジアなどの非OPEC諸国で石油の探鉱開発が活発となり、2000年末にはOPEC68%、非OPEC32%と非OPECの比率が再度上昇している。2000年以降、OPECのシェアは2005年末69%、2013年末72%と増加傾向にあり1990年代と同じ水準に達している。これはベネズエラが2008年から2010年にかけて自国の埋蔵量を3倍以上増加させたことが最大の要因である。

 前項(3)で取り上げたようにOPEC3カ国(ベネズエラ、イラン、イラク)と非OPEC2カ国(米国、ブラジル)は2000年以降いずれも埋蔵量が増加している。しかし両グループの性格は全く異なることを理解しなければならない。ベネズエラなどOPEC3カ国の埋蔵量は国威発揚と言う動機が働いて水増しされているものと推測されるが、政府が石油産業を独占しており水増しの有無を検証することは不可能である。

 これに対して石油産業が完全に民間にゆだねられている米国、或いは国際石油企業との共同開発が一般的なブラジルのような国では埋蔵量を水増しすることはタブーである。何故ならもし水増しの事実が露見すれば当該石油企業は株主訴訟の危険に晒されるからである。かつてシェルが埋蔵量を大幅に下方修正して大問題となったが、私企業としては決算時に公表する埋蔵量は細心の注意を払った数値でなければならないのである。

 ただ一般論としては埋蔵量に常にあいまいさがつきまとうのは避けられない。本レポートで取り上げたBPの他にも米国エネルギー省(DOE)やOPECも各国別の埋蔵量を公表している。しかしいずれも少しずつ数値が異なる。埋蔵量そのものを科学的に確定することが困難であると同時にそれぞれの査定に(たとえ米国の政府機関と言えども)政治的判断が加わる。結局「埋蔵量」とは掴みどころの無いものとしか言いようがないのである。

(石油篇埋蔵量完)

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サウジアラビア・サウド家(改訂版)(11)

2014-06-23 | OPECの動向

2.第三次サウド王朝(続き)
(6)ファイサル時代に固まった現代の諸制度(その4:石油が武器に変化した時代)
 2013年のサウジアラビアの原油生産量は1,150万B/Dで世界最大である(BP統計)。同国の動向は世界の石油市場のみならず世界経済にも大きな影響力を持っているが、そのルーツはファイサル時代のOPECと第一次オイル・ショックにある。サウジアラビアをリーダーとするOPECは、当時セブン・シスターズと呼ばれていたエクソン、シェルなど欧米の石油会社から国有化を勝ち取り、石油の価格決定権を奪い取ったのである。そしてサウジアラビアは1973年に第四次中東戦争が勃発すると、OAPEC(アラブ石油輸出国機構)を糾合して日本を含む西欧諸国に対する石油禁輸措置を打ち出した。ファイサルは石油が武器になりうることを証明したのである。ファイサル時代のOPECと第一次オイルショックーこれはサウジアラビアが世界の経済のみならず政治を左右する力を持つに至った最初の出来事であった。

 サウジアラビアで石油が発見されたのは1940年のことであるが、本格的な生産が始まったのは第二次大戦後であった。1965年の生産量は中東ではクウェイトに次ぐ222万B/Dを記録したが、その後も1970年には385万B/D、1975年には722万B/Dと、ファイサル治世のわずか10年の間に3.3倍に増加している。石油生産の増加と同時にセブン・シスターズから価格支配権を奪い取ったことによりファイサル時代の石油収入は爆発的に増え、1970年に54億ドルであった同国のGDPは5年後の1975年には8.7倍の468億ドルに膨らんでいる。

 OPEC結成以前、世界の石油市場はメジャーズ、別名セブン・シスターズと呼ばれる国際石油企業(IOCs)が牛耳っていた。彼らは生産量を調整し価格を談合することで自己の利益を極大化することだけを考え産油国の事情には見向きもしなかった。戦後最初の不況が訪れると彼らは1959年と60年の二度にわたり中東の原油公示価格を下げた。中東産油国の収入は原油価格に比例していたため、サウジアラビアなど産油国はその直撃を受けたのである。

 国際石油企業(IOCs)に対抗するため1960年、サウジアラビア、クウェイト、イラン、イラク及びベネズエラの5カ国はOPEC(石油輸出国機構)を結成した 。当初OPECはIOCに歯が立たなかったが、その後インドネシアなどの産油国を仲間に引き入れ徐々に交渉力をつけていった。OPECの交渉人として先頭に立ったのは1962年サウジアラビアの石油大臣に就任したファイサル国王の秘蔵っ子アハマド・ザキ・ヤマニである。ヤマニはメジャーを相手に巧妙な駆け引きで産油国の取り分を増やしていった。同じ年に国連で「天然の富と資源に対する恒久主権」が決議され、天然資源を国有化する正当性が国際的に認められた。リビア、イラク、クウェイト等で石油企業が国有化され世界の石油産業の流れは一気にOPECに傾いたのである。

 リビア等が一方的全面的な国有化を行ったのに対し、サウジアラビアは「事業参加方式」と呼ばれる漸進的な国有化策を取った。この結果同国は現在も国際石油企業と良好な関係を保っている。またクウェイト、UAEなど他のGCC諸国では石油大臣が王族或いは有力部族出身者に限定されている中で、サウジアラビアはヤマニ以降現在のナイミまで代々テクノクラートを任命しており異色である。国際石油企業との良好な関係の維持及び石油大臣のテクノクラート任命の二点もファイサルの遺産と言って良いであろう。

 さらに何よりもファイサルと石油の関係を際立たせているのは1973年の第4次中東戦争でサウジアラビアが石油戦略を発動したことであろう。第四次中東戦争は当時のサダト・エジプト大統領がイスラム教徒の聖なる月「ラマダン(断食)」に仕掛けた奇襲戦法であった。しかしこの奇襲戦法はサダトとファイサルが事前に綿密な協議を重ねた末のものであり、開戦後サウジアラビアを中心とするOAPEC(アラブ石油輸出国機構)は米国及びイスラエルの支持国に対して石油供給を削減するという誰しも予想しなかった戦略を発動したのである。

 たちまち世界経済は混乱に陥ったが、最大の被害者は石油資源を持たない日本であり、有名な「トイレットペーパー騒動」が持ち上がり、消費者物価が急騰、狂乱物価と呼ばれた。田中角栄首相(当時)は三木副総理を特使としてアラブ8カ国に派遣して石油禁輸措置の緩和を求めた。ファイサル国王が三木特使に対して日本を友好国とし、従来通りの原油供給を約束したことで日本は胸をなでおろしたのである。

(続く)

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BPエネルギー統計レポート2014年版解説シリーズ:石油篇3 埋蔵量(3)

2014-06-22 | その他

(注)本レポート1~18回は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0318BpOil2014.pdf

 

(2000年の1.5倍になった米国の埋蔵量!)
(4)8カ国の国別石油埋蔵量の推移(2000-2013年)
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/1-1-G03.pdf 参照)
 ここではOPEC加盟国のベネズエラ、サウジアラビア、イラン、イラク及びUAEの5カ国にロシア、米国、ブラジルを加えた計8カ国について2000年から2013年までの埋蔵量の推移を追ってみる。

 ベネズエラは2013年末の埋蔵量が2,983億バレルで世界一であるが、世界一になったのは3年前の2010年からである。2000年当時の同国の埋蔵量は現在の4分の1の768億バレルにすぎず、イラン、イラク、UAEよりも少なかった。ところが同国は2007年に埋蔵量を994億バレルに引き上げると翌2008年にはさらに2倍弱の1,723億バレルとしたのである。そして続く2009年、2010年にも連続して大幅に引き上げ、それまで世界のトップであったサウジアラビアを抜き去り石油埋蔵量世界一の国となった。

 しかし世界の石油関係者たちの中にはベネズエラの発表数値に疑問を持つ者が少なくない。埋蔵量の上方修正が2006年のチャベス前大統領再選以来顕著になっていることから、大統領が国威発揚を狙って数値を意図的に水増ししている可能性が否定できないのである。埋蔵量が多いことは将来の増産余力があることを示しているため、OPEC強硬派と言われるチャベス大統領がサウジアラビアなどのOPEC穏健派諸国に対抗し、さらには世界最大の石油消費国米国を牽制する意図もうかがわれるのである。同大統領の死去により南米一の産油国ベネズエラが今後どのような石油政策をとるのかが注目される。
 
 実はベネズエラのように国威発揚のため埋蔵量を引き挙げているOPEC産油国は他にもある。それは互いの対抗心から埋蔵量を競い合っているイランとイラクである。2000年末の埋蔵量はイラク1,125億バレル、イラン995億バレルであったが、2002年にはイランが1,307億バレルに上方修正しイラクを逆転した。その後2009年までその状態が続いたが、2010年にイランが再度上方修正し、イラクとの差が開くと、イラクは2011年、2012年と2年連続して埋蔵量を見直し、結局2013年末の埋蔵量はイラン1,570億バレル、イラク1,500億バレルでその差はわずかである。

 イラク及びイランはいずれも長い間国際社会の経済制裁を受け石油開発は殆ど進展しておらず、イラクで最近漸く国際石油会社による開発が始まったばかりである。このような中で両国が度々埋蔵量を上方修正している理由は互いのライバル意識で順位を競い合ったからとしか説明がつかないのである。OPEC加盟国であるベネズエラ、イランおよびイラクの埋蔵量数値は信ぴょう性が疑わしいと言わざるを得ない。

 これに対して同じOPEC加盟国でもサウジアラビアやUAEの公表値は全く変化していない。両国とも1990年末に改訂して以来昨年末まで埋蔵量は殆ど変化していない。2013年末の埋蔵量はサウジアラビアが2,659億バレル、UAEは978億バレルであり20年以上横ばい状態である。横這いと言う意味は毎年、生産量を補う埋蔵量の追加があったことを意味している。例えばサウジアラビアの場合は1990年から2013年までの生産量は900~1,000万B/Dであり、年率に換算すると33~37億バレルであるから、これと同量の埋蔵量が追加されてきたことになる。これは毎年超大型油田を発見しているのと同じことなのである。これはUAEについても言えることである。サウジアラビアもUAEも探鉱開発では古い歴史があり国内には石油のフロンティアと呼べる場所は殆ど見当たらない。にもかかわらず両国が埋蔵量を維持できた理由は、一つは既開発油田からの回収率をアップしたことであり、もう一つは既存油田の下の深部地層に新たな油田を発見したためである。

 非OPECのロシア、米国及びブラジルの3カ国も2000年末と2013年末を比較するといずれも埋蔵量が増加している。即ち2000年末の埋蔵量はロシア690億バレル、米国304億バレル、ブラジル85億バレルに対し、2013年のそれはロシア930億バレル、米国442億バレル、ブラジル156億バレルでありブラジルの伸びが最も大きい。但し、3カ国のうちロシアとブラジルは毎年漸増しているのに対して、米国の場合は2009年末までは横ばい状態を続け、2010年に350億バレルに上方修正されている。これはシェールオイルの開発が軌道に乗ったためと考えられる。

 (続く)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

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BPエネルギー統計レポート2014年版解説シリーズ:石油篇2 埋蔵量(2)

2014-06-21 | その他

(注)本レポート1~18回は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0318BpOil2014.pdf

 

(1980年以降で3度目の踊り場に差し掛かった埋蔵量と可採年数!)
(2) 1980年~2013年の埋蔵量の推移
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/1-1-G02.pdf 参照)
 各年末の可採埋蔵量は、[ 前年末埋蔵量 + 新規発見(又は追加)埋蔵量 - 当年中の生産量]、の数式で表わされる。従って埋蔵量が増加することは新規発見又は追加埋蔵量が当年の生産量を上回っていることを示している。

  1980年以降世界の石油埋蔵量はほぼ一貫して増加してきた。1980年代後半に埋蔵量が大幅に増えたのは1979年の第二次オイルショックにより石油価格が高騰したことにより80年代前半に石油開発に拍車がかかり、その成果が現れた結果だと考えられる。1990年代に入ると毎年の追加埋蔵量と生産量(=消費量)がほぼ均衡し、確認埋蔵量は横ばいの1兆バレルで推移した。2000年代前半には埋蔵量は1.3兆バレル台にアップし、後半は埋蔵量の増加に拍車がかかって、2007年以降2010年末までの埋蔵量は毎年1千億バレずつ増加してきた。2011年以降は1.6兆バレル台で横ばい状態にある。

 2000年代は中国、インドなど開発途上国の経済が拡大し、それにつれて石油需要がほぼ毎年増加している(石油消費の項参照)。それにもかかわらず各年末の埋蔵量が増加したのは石油価格が上昇して石油の探鉱開発のインセンティブが高まった結果、新規油田の発見(メキシコ湾、ブラジル沖、中央アジア等)、非在来型と呼ばれるシェール・オイルの開発或いは既開発油田の回収率向上による埋蔵量の見直しがあったためと考えられる。

 過去40年の埋蔵量の推移を俯瞰すると1980年代に増加した後、90年代は停滞、90年代末から2000年代前半に埋蔵量は再び増加し、2000年代半ばに一旦停滞した。そして2008年から2011年にかけて3度目の増勢を示した後、現在は3度目の停滞期に入っているようである。今後の埋蔵量については米国を中心とするシェール・オイルの開発と言う増加要因が考えられる一方、世界景気の回復で石油消費が増加すると言うマイナス要因も考えられ、見通しは不透明である。ただ、BP統計からは埋蔵量の増加と停滞のサイクルが短くなっていると言う事実が読み取れる。

(オイル・ピーク論は昔の話!)
(3) 1980年~2013年の可採年数の推移
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/1-1-G02.pdf 参照)
 可採年数(以下R/P)とは埋蔵量を同じ年の生産量で割った数値で、現在の生産水準があと何年続けられるかを示している。オイルショック直後の1980年は埋蔵量6,800億バレルに対し同年の生産量は6,300万B/D(年換算230億バレル)であり、R/Pはわずか30年にすぎなかった。しかし1990年代にはR/Pは40年台前半で推移し、1999年以後の10年間のR/Pは40年台後半に伸び、2009年末のR/Pはついに50年を突破した。そして2013年末の埋蔵量は1兆6,900億バレル(上記)であり、生産量は8,700万B/D(年換算317億バレル。なお生産量は次章で改めて詳述する)で、R/Pは53.3年に達している。前項の埋蔵量推移の俯瞰でも述べたとおり、可採年数についても1980年以降3度目の踊り場に差し掛かっているようである。

 石油のR/Pは過去30年以上ほぼ毎年伸び続け、1980年の30年から2013年の53年へと飛躍しているのである。この間に生産量は6,300万B/Dから8,700万B/Dへ40%弱増加しているのに対して埋蔵量は6,800億バレルから1兆6,900億バレルと2.5倍に増えている。過去30年の間毎年7~8千万B/D(年換算約250~300億バレル)の石油を生産(消費)しながらもなお埋蔵量が2.5倍に増えているという事実は石油が地球上で次々と発見され(あるいは技術の進歩によって油田からの回収率が向上し)ていることを示しているのである。

 かつて石油の生産が限度に達したとするオイル・ピーク論が声高に叫ばれ、石油資源の枯渇が懸念された時期があった。理論的には石油を含む地球上の炭化水素資源は有限である。しかし上記の生産量を上回る新規埋蔵量の追加とそれによるR/Pの増加が示すように、現在の技術の進歩を考慮すると当面石油資源に不安は無いと言って間違いないのである。

 現代における問題はむしろ人為的なリスクであろう。人為的なリスクとは例えばイラン問題に見られるような地政学的なリスクであり、或いは治安が不安定なイラク、リビア、ナイジェリアのような産油国の国内リスク、公海上のタンカーに対する海賊の襲撃行為に見られる原油輸送段階のリスク、さらには国際的な投機筋の暗躍による市場リスクなのである。

(石油篇続く)

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 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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今週の各社プレスリリースから(6/15-6/21)

2014-06-21 | 今週のエネルギー関連新聞発表

6/16 BP    BP Statistical Review shows strength of global energy system amid disruptions and shifting world economy http://www.bp.com/en/global/corporate/press/press-releases/bp-statistical-review-shows-strength-of-global-energy-system-ami.html
6/16 国際石油開発帝/石油資源開発    「メタンハイドレート中長期海洋産出試験にむけての基本方針・基本計画検討に係る支援作業」のJOGMECからの受託について http://www.japex.co.jp/newsrelease/pdf/20140616_JAPEX_JointSupport_MH_OffshoreProductionTest_J.pdf
6/16 コスモ石油    アラブ首長国連邦での日本語教育プログラム提供の覚書更新について http://www.cosmo-oil.co.jp/press/p_140616/index.html
6/17 BP    BP and CNOOC sign 20-year LNG deal http://www.bp.com/en/global/corporate/press/press-releases/bp-and-cnooc-sign-20-year-lng-deal.html
6/17 Total    Brazil, a Country of the Future for Total http://total.com/en/media/news/news/Brazil-a-Country-of-the-Future-for-Total
6/17 経済産業省    「平成25年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書)」が閣議決定されました http://www.meti.go.jp/press/2014/06/20140617001/20140617001.html
6/18 shell    Shell completed sell-down of 78 million shares in Woodside http://www.shell.com/global/aboutshell/media/news-and-media-releases/2014/shell-completed-sell-down-78million-shares-in-woodside.html
6/18 コスモ石油/東燃ゼネラル石油    千葉製油所における共同事業検討に関する覚書締結について http://www.cosmo-oil.co.jp/press/p_140618/index.html
6/18 昭和シェル石油    昭和シェル石油グループ 太陽電池事業資産等のソーラーフロンティアへの統合を検討 http://www.showa-shell.co.jp/press_release/pr2014/0618.html
6/19 ExxonMobil    ExxonMobil Chemical Company Begins Multi-Billion Dollar Expansion Project in Baytown, Texas - See more at: http://news.exxonmobil.com/press-release/exxonmobil-chemical-company-begins-multi-billion-dollar-expansion-project-baytown-texa#sthash.sCA6qOUg.dpuf 

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