石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

(SF小説) ナクバの東(70)

2025-02-15 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(67)

第25章 米軍乗り出す(3)米国とサウジの駆け引き(3/3)
 

イスラエルのナタンズ爆撃当日、米中央軍現地司令部は軍事偵察衛星、AWACS、ペルシャ湾に浮かぶ原子力空母「ハリー・S・トルーマン」などあらゆる手段を講じて情報を収集していた。早暁にイスラエルの空軍基地から3機の編隊が飛び立ち、その後しばらくして大型機1機と戦闘機2機が同じ基地を離陸したことが確認された。最初の3機はイラクとサウジアラビアの国境上空を通過した後イランに侵入、ナタンズを爆撃した後、イランの追撃を振り切って領空外に逃れた。そこまではペンタゴンから聞かされた筋書き通りであった。

その後想定外の事態が発生した。後から飛び立った3機が途中でバラバラになり迷走を始めた。そしてそのうちの大型機と見られる1機が突然レーダーから消えたのである。その数分後、今度は爆撃を終えた3機がイスラエルへの帰還コースをはずれペルシャ湾上空をホルムズ海峡に向かい始めた。ウデイド空軍基地の現地司令部は混乱した。

(続く)


荒葉一也
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(SF小説) ナクバの東(69)

2025-02-13 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(66)

第25章 米軍乗り出す(3)米国とサウジの駆け引き(2/3)

 二日後、サウジアラビアの国防相は国防長官に爆撃機3機の上空通過を黙認する、と回答した。しかし給油機については何も触れなかった。国防長官は一瞬問い返そうとしたがその言葉を飲み込んだ。イスラエルのナタンズ爆撃さえ成功すれば十分な成果だ。それによりイスラエル、サウジアラビアそして米国自身も大きなものを得ることができる。その後の空中給油は外交的には大きな問題ではない、と考え直し国防長官はそれ以上深追いしなかった。

ただ国防長官は国防相の電話の声に含みがあるのを聞き逃さなかった。部下の空軍参謀本部長が懸念していた作戦をひょっとするとサウジアラビアが実行するかもしれない-----。国防長官の予感は的中した。しかもそれは更なる不幸をもたらすものであった。

(続く)


荒葉一也
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(SF小説) ナクバの東(68)

2025-02-11 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(65)

第25章 米軍乗り出す(3)米国とサウジの駆け引き(1/3)

 
イスラエル政府からナタンズ爆撃計画を打ち明けられ支援を要請されたとき、ホワイトハウスはついに来るべきものが来た、と受け取った。支援とは飛行ルート上のヨルダン、サウジアラビア及びイラクが余計な手出しをしないよう米国の外交的影響力を行使する、ということに尽きる。3カ国のうちヨルダンとイラクには手出しする能力がないから問題外であり、問題はサウジアラビアである。彼らはイスラエルと同等の空軍戦闘戦力を持っており、それは米国が与えたものである。

結局ワシントンはサウジアラビア国王にイスラエル機の上空通過を黙認するよう説得した。イランの核施設を破壊すればサウジアラビアを含む近隣アラブ諸国にとってもメリットがある、と説いたことは勿論である。前後して国防長官がサウジアラビアの国防相に同じ申し入れをした。そのとき国防長官は爆撃完了後、空中給油機がアラビア半島上空で戦闘機に給油することにも触れた。

(続く)


荒葉一也
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(SF小説) ナクバの東(67)

2025-02-08 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(64)

第24章 米軍乗り出す(2)殺(や)られる前に殺(や)れ(2/2)
 

「殺(や)られる前に殺(や)れ」「先制攻撃こそ最大の防御」と言ってはばからないイスラエルの右派政府及び軍部は、イランの核施設建設が進むにつれてますます強硬になっていった。かれらはこれまでにもイラクのオシラク原子力発電所やシリアの核疑惑施設を空爆している。イスラエルは自己の安全が脅かされると感じれば躊躇しない。それは脅威が客観的に証明されると言うレベルの問題ではなく、彼ら自身が脅威を「感じる」と言う皮膚感覚である。

イスラエル右派政府及び軍部のそのような皮膚感覚は日本人のように平和な世界に生きる者とは全く異なる。彼らは建国以来60年以上もの間、脅威と隣り合わせに生きてきた。彼らに常識的な脅威論や平和論は通用しない。明日攻撃されるかもしれない相手に対する正しい対応は、「殺られる前に殺る」ことである。そこでは彼ら自身の暴力は正しい暴力であり、敵の暴力は叩きのめすべき暴力なのである。

今やイランに対しても同じことである。イスラエル国内の強硬派の暴走とそれを後押しする米国内の国会議員や右派宗教指導者たち。ワシントンが彼らを抑えるのはもはや限界であった。

(続く)


荒葉一也
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(SF小説) ナクバの東(66)

2025-02-06 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(63)

第24章 米軍乗り出す(2)殺(や)られる前に殺(や)れ(1/2)
 
ペルシャ湾地域の混乱はイランの核開発疑惑問題に端を発した米国のイラン封じ込め政策によってさらにエスカレートした。イランが核開発で地域の主導権を握れば、中東全体が不安定になり、さらに将来イランの核兵器がイスラム・テロ組織に流れる恐れがある、というのが米国の理屈である。

しかし米国が本当に守ろうとしていた利益、それはイスラエルの安全保障であった。米国にとってはるか大西洋を隔て地球の裏側にあるとも言えるイスラエルそのものは経済的にはさほど大きな意味を持たない。それでも米国がイスラエルに肩入れするのは、政治家たちがイスラエル・ロビーの圧力に意のままに操られているためであり、また聖地エルサレムのあるイスラエルに対するキリスト教右派の過剰な思い入れのためであった。さらに9.11同時多発テロが米国民のアラブに対する嫌悪感を高めた。それを最大限に利用したのがイスラエルでありそのロビイスト達であった。

(続く)

荒葉一也
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(SF小説) ナクバの東(64)

2025-02-01 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(61)

第23章 米軍乗り出す(1)アル・ウデイド空軍基地(2/3)


しかしペルシャ湾地域において米国がシーレーン以上に重視していること、それはイランを封じ込め地域における米国の威信を揺るぎないものにすることである。30年前、ホメイニ師によるイスラム革命政権が成立して以来、米国にとってイランは不倶戴天の敵である。ホメイニ以前のイラン・パーレビ―(シャー)体制の時代に、米国はイランに近代兵器を大量に売り付け、イランを「ペルシャ湾の警察」に仕立て上げることで地域の治安を任せていた。

革命直後、テヘランの米国大使館がホメイニ支持の革命防衛隊によって一年以上占拠されるという事件があった。これにより米国の威信はいたく傷つけられた。当時の米国カーター政権は救出作戦を試みたが、救出ヘリコプターの不時着と言うお粗末な結果で失敗し、米国政府は恥の上塗りをした。これが今も米国民の脳裏から消えない深いトラウマを残した。

(続く)


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(SF小説) ナクバの東(63)

2025-01-30 | 荒葉一也SF小説
(アラビア語版)

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(60)

第23章 米軍乗り出す(1)アル・ウデイド空軍基地(1/3)



 カタールのアル・ウデイド空軍基地はアフガニスタンからアラビア半島、さらにインド洋全域を作戦地域とする米中央軍の前線司令部である。そこはペルシャ湾周辺諸国に睨みを利かす重要な航空基地であり、イラク撤退後はイランが監視対象となっている。

ペルシャ湾沿岸は世界有数の産油地帯であり、ペルシャ湾とその出口のホルムズ海峡、さらにインド洋に至る海上ルートは「タンカー・シーレーン(石油タンカーの航路)」として世界のエネルギーの大動脈となっている。このためシーレーンの安全確保は米国の国益の為にも重要である。と言ってもエネルギーに関する限り米国自身がペルシャ湾の石油に依存する割合は小さい。最も影響を受けるのは日本や韓国など極東の同盟国である。米国としてはこのエネルギーの「シーレーン」を守ることで日本や韓国に恩を売っていると言える。

(続く)


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(SF小説) ナクバの東(60)

2025-01-23 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(57)

第21章 さまよう3羽の小鳥(2)「マフィア」と「アブダッラー」の場合(3/3)

 
彼はまだ独身である。両親は既に亡くなっている。彼の身内は姉とその娘のルルの3人だけである。それだけに彼と姉との結びつきは強い。そして姪のルルは彼によくなついていた。

そんなルルが数週間前に高熱を出し、「叔父ちゃん!叔父ちゃん!」とうわ言を言っていると姉が伝えてきた。彼はその週末に急いで病院に駆け付けた。幸いにも熱は引いており、ベッドに起き上がった姪に彼は絵本を読み聞かせてやった。姪は彼の腕を抱え込みうれしそうに聞き入っていた。付き添いの姉が「ルル!そんなにくっ付いちゃ叔父さんに風邪が移っちゃうよ。」と注意したが彼女は抱え込んだ腕を離そうとしなかった。

(続く)


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(SF小説) ナクバの東(59)

2025-01-21 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(56)

第21章 さまよう3羽の小鳥(2)「マフィア」と「アブダッラー」の場合(2/3)
 
「アブダラー」は二人とは対照的に終始寡黙であった。イラン領空を脱した直後から体に不調を感じ始めていたのである。2週間ばかり前、高熱を出し入院していた姪を見舞いに姉の嫁ぎ先近くの病院を訪れた。その後彼自身も微熱を出したが、幸い寝込むほどのことはなかった。ただそのことは仲間に伏せていた。もし体の不調を訴えればメンバーからはずされたに違いない。彼は3人のパイロットの一人に選ばれた栄誉を失いたくなかった。

アラブのミズラフィム出身である「アブダラー」は「エリート」のようなアシュケナジム出身者たちとは陰に陽に差別されてきた。そのため彼の友人の中には過激組織ハマスに身を投じる者も少なくなかったが、彼自身はイスラエル国民として生きる道を選んだ。「人は国家を選べない以上、国家とともに生きる。」それが彼の信念であった。そして軍隊に志願し忠実に義務を果たした結果、今回国家的使命を帯びたパイロットに選ばれた。そのため何としても今回の任務をやり遂げたかったのである。

(続く)

荒葉一也
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(SF小説) ナクバの東(56)

2025-01-14 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(53)

第20章 さまよう3羽の小鳥(1)「エリート」の場合(2/3)


その親鳥の出迎えがないまま3機は当てもなくペルシャ湾上空を南下した。残された燃料はあと1時間程度しかなく、ホルムズ海峡を越えることもできないことは確かだ。このままではペルシャ湾に不時着する他なく、墜落前にパラシュートで脱出したとしても、誰が彼らを拾い上げてくれるのだろう。左岸はさきほど空爆したばかりのイラン、右岸はサウジアラビア、バハレーン、カタール、UAEなどイスラエルの仇敵のアラブ諸国である。イランの巡視船或いは漁船に助けられたなら目も当てられない。かと言ってアラブ諸国の哨戒艇か漁船に助けられたとしても晒し者にされることは間違いない。いずれにしてもパイロット達にとっては勝利の凱旋どころではなさそうだ。

不安に駆られたパイロット達の反応は三者三様であった。「エリート」は内心の動揺を抑えリーダーとして冷静沈着さを装った。彼は僚機の「マフィア」と「アブダラー」に落ち着くように諭し、指令部が何らかの救出作戦を講じるに違いない、と元気づけた。確信があった訳ではない。しかしこれまでもイスラエル軍はどのような困難な状況でも決して仲間を見殺しにすることはなかった。司令部は必ずや自分たちを救出してくれるはずだと「エリート」は信じたかった。

(続く)


荒葉一也
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