石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

(SF小説) ナクバの東(14)

2024-10-03 | 荒葉一也SF小説

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(11)

 

第三章 パイロットのもう一つの敵 (2/3)

イスラエルでも戦闘機とパイロット達の出番は減り、せいぜい国内のガザ地区を爆撃する程度であった。その中で外国領土への出撃のチャンスが2003年に訪れた。イラク解放戦争である。イスラエル政府と軍部は戦争への参加を米国に打診した。当時のブッシュ共和党政権は親イスラエル色が強かったが、世界世論の手前イスラエルの申し出をやんわりと断った。戦争が始まって間もなくイラクのフセイン大統領はスカッドミサイルをイスラエルに撃ち込んで挑発した。イラクのミサイルはイスラエル占領地のヨルダン川西岸に着弾しただけで被害と言えるほどのものは何もなかったが、イスラエルにとってはそんなことは問題ではない。口実さえあれば敵を徹底的に叩くのがイスラエル流のやり方である。空軍は直ちに応戦体制を敷き、戦闘機のパイロット達はバグダッド空襲に勇み立った。

 

しかしこの時も米国はイスラエルの反撃を許さなかった。もしイスラエルの参戦を認めれば「独裁者からのイラク解放」と言う大義名分で同盟軍に参加させたパキスタンなどのイスラム諸国、或いは陸上部隊の自国通過を認めたサウジアラビア、クウェイトなどの湾岸諸国から反発を受けることが明らかだったからである。

 

イスラエル空軍のパイロットたちはCNNテレビでバグダッド空襲の実況中継を指をくわえて眺めるだけであった。戦闘機から発射されたミサイルが目標に向かって真っすぐ突っ込む様子、そして上空で目標攻撃の瞬間をとらえた偵察機からの映像をCNNは繰り返し放映した。テレビ・ゲームのように見えて実はゲームではない本当の戦争が行われているのであるが、それはバグダッド市民以外は誰も痛みを感じない世界であった。

 

(続く)

 

 

荒葉一也

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(SF小説) ナクバの東(13)

2024-10-01 | 荒葉一也SF小説

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(10)

 

第三章 パイロットのもう一つの敵 (1/3)

空を自由に飛び回りたいと言う人間の本能的欲求を現実のものにするのがパイロットである。パイロットが昔から男たちの憧れの職業であったことは洋の東西を問わない。特に戦闘機のパイロットは祖国防衛と言う愛国心と、敵との戦いと言う闘争本能が加わり一層花がある。日本の零戦、ドイツのメッサーシュミットとそのパイロット達は敗戦後もなお国民の郷愁をかきたてる英雄である。戦勝国の米国が作る戦争映画でも日本あるいはドイツの戦闘機パイロットが悪役にされた映画は無い。地上戦で敵国の将軍や兵隊が冷酷極まりない悪人として描かれているのとは対照的である。

 

しかし21世紀は国家間の紛争が局地的なものとなり、代わって中東では宗教色の強いテロ活動、即ちイスラム・テロ活動が頻発した。テロ活動は多くの場合、人口が密集した都市部で発生する。テロ組織も一般市民を装って日常活動を行う。しかも活動拠点が常に移動する。戦闘機は敵国の首都、空港、軍需工場など目標の所在が明確な施設を迅速に爆撃することが得意である。しかし頻繁に移動するテロの軍事拠点或いは都市に潜むテロ組織幹部に対する急襲などは治安部隊など地上軍の出番である。空軍が出動するとしてもアパッチ型ヘリコプターによるロケット砲攻撃がせいぜいであり、スピードが速いだけで全く小回りが利かない戦闘機の出る幕はない。

 

(続く)

 

 

荒葉一也

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(SF小説) ナクバの東(12)

2024-09-28 | 荒葉一也SF小説

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(9)

 

第二章 三つの飛行ルート (5/5)

こうして消去法の結果、サウジアラビア・イラクルートが採用された。もちろんこのルートにもリスクはある。しかしサウジアラビアもイラクもほぼ米国の言いなりであり、イスラエルがワシントンの上層部に手を回せば問題はないと判断した。

 

ただいずれのルートにも大きな問題点が一つあった。戦闘機の航続距離の問題である。どのルートも戦闘機の行動半径1,700キロメートルを超えており、任務終了の帰途どこかで給油しなければならないのである。

 

(続く)

 

 

荒葉一也

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(SF小説) ナクバの東(11)

2024-09-26 | 荒葉一也SF小説

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(8)

 

第二章 三つの飛行ルート (4/5)

副大臣はトルコ大使に人差し指を突き出し、ヘブライ語で「トルコは自国で放映された反ユダヤの番組を深く恥じ、このように謝罪に訪れたのである。」と居丈高に言い放ったのである。翌朝このニュースがテレビで報道され副大臣の発言内容が明らかになるとトルコ世論は激高し、副大臣発言は両国間の外交問題に発展した。さすがのイスラエルも副大臣の非礼を認めて謝罪した。

 

外務副大臣のトルコ大使侮辱事件とガザ救済船によるトルコ人殺害事件。この二つの事件はトルコ国民の心の奥底にいつまでも消えない反イスラエル感情を植え付けたのであった。イスラエルの外務省と諜報機関はトルコの国民感情を斟酌し、トルコ・ルートを避けるよう軍部に助言した。

 

(続く)

 

荒葉一也

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(SF小説) ナクバの東(10)

2024-09-24 | 荒葉一也SF小説

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(7)

 

第二章 三つの飛行ルート (3/5)

 

トルコ船臨検事件とはガザ地区のパレスチナ人のための救援物資を積み地中海を南下中のトルコ船籍の小型船がガザ沖合でイスラエルの臨検を受け、その時イスラエル側の発砲により9人のトルコ人が死亡した事件である。トルコ船が積んでいた物資は食料、医薬品、衣料などあくまでも人道的な支援物資であった。しかしイスラエルは武器弾薬があるに違いないと邪推し臨検を行ったことから悲劇が発生したのであった。

 

臨検事件の少し前に発生したのがトルコ大使侮辱事件であった。それはイスラエルがトルコ国内で放映されたテレビ番組にクレームをつけ公式な謝罪を求めたことに端を発した。この時、イスラエルに駐在するトルコ大使は外務副大臣に呼び出され彼の執務室を訪れた。部屋に入ると既にイスラエルの報道陣が控えており、またテーブルの上にはイスラエルの国旗だけが置かれていた。このような場では報道陣は写真を撮ると直ぐに退席するのが普通であり、またテーブルには両国の国旗を飾るのが外交儀礼である。

 

大使は一瞬いぶかしく思ったが、さほど気にも留めず低くゆったりしたソファーに身を沈めた。副大臣は背の高い事務椅子に傲然と座り、低いソファーのトルコ大使を見下ろすポーズを取りながら居並ぶ報道陣にヘブライ語で滔々と演説をはじめた。ヘブライ語を理解できないトルコ大使は穏やかな外交スマイルで副大臣の話が終わるのを待っていた。彼は副大臣が報道陣にとんでもない説明をしていることを知る由もなかった。もしトルコ大使が多少ともヘブライ語を理解することができ、或いはイスラエル外務省の副大臣が英語でしゃべっていれば大使は間違いなく憤然と席を立って抗議の意思を示したであろう。

 

(続く)

 

 

荒葉一也

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(SF小説) ナクバの東(9)

2024-09-21 | 荒葉一也SF小説

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(6)

 

第二章 三つの飛行ルート (2/5)

 三つのルートの中ではシリア・イラクルートが最短であり物理的なリスクは最も少ない。しかしシリアとの間ではゴラン高原の領有を巡る紛争が続いている。シリアは地域の軍事大国であり、同国上空を通過すれば全面戦争に拡大する恐れがある。この案は最初に斥けられた。

 

トルコ上空通過案とサウジアラビア・イラク上空通過案のいずれを選択するか? トルコとイスラエルは同じ親米国である。またイランはイスラエルにとって敵であると同時にトルコにとっても潜在的な脅威である。つまりイスラエルの敵が同時にトルコの敵なら「敵の敵は味方」と言うことになる。シリアルートに比べ政治的リスクは少ない、とイスラエル軍部は考えた。

 

しかし実はトルコ国内には数年前の2件の事件に起因する根強い反イスラエル感情が残っていたのである。その一つがイスラエルによるガザ沖合のトルコ船臨検事件であり、他の一つはあるテレビ番組におけるイスラエル外務副大臣のトルコ大使侮辱事件である。

 

(続く)

 

 

荒葉一也

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(SF小説) ナクバの東(8)

2024-09-19 | 荒葉一也SF小説

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(5)

 

第二章 三つの飛行ルート (1/5)

ナタンズを爆撃するため三つの飛行ルートが検討された。一つはシリア及びイラクの上空を通過するルート。二つ目は地中海上空からトルコを通過しイランに侵入するルート。そして三つめはサウジアラビアとイラクの国境線沿いに飛行するルートである。

 

ただいずれのルートにしてもシリア、イラク、トルコあるいはサウジアラビアのいずれかの国の領空を侵犯することに変わりはない。最初と最後のケースではレバノン又はヨルダンの領空も侵犯することになるが、イスラエルにとってこの2カ国は無視できる相手である。

 

 いずれの第三国の領空も侵さずにイランに至るルートが最も安全なのであるが、そのためには公海上空を通るしかない。このためにはアラビア半島沿いに紅海を南下、マンダブ海峡からアデン湾、アラビア海、オマーン湾を経由してホルムズ海峡を抜けペルシャ湾からイランに侵入する大回りコースしかない。しかしこのルートは戦闘機の航続距離を考えると問題外であった。航空母艦さえあれば、と嘆く軍の幹部もいた。空母があればアラビア海から燃料補給なしで出撃できるからである。

 

(続く)

 

 

荒葉一也

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(SF小説) ナクバの東(7)

2024-09-17 | 荒葉一也SF小説

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(4)

 

第一章 未明の出撃 (4/4)

イスラエルは米新政権の厳しい姿勢に焦ると同時に、イランの核兵器が開発途上である今こそがイランを叩く絶好のチャンスと考えた。イスラエル軍部にイラン攻撃論が急速に高まった。

 

 ナタンズ爆撃に向かうイスラエル空軍パイロットにとってはそのような政治や経済の問題など無関係である。今彼らの心は高ぶっている。何しろイスラエル空軍が他国に出撃するのは久しくなかったことである。最近で言えばイラクの核疑惑施設空爆とレバノン南部のヒズボラーキャンプ攻撃があるが、いずれも近距離の隣国であり、アラビア半島を横切る本格的な長距離爆撃は初めてのことである。

 

(続く)

 

 

荒葉一也

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(SF小説) ナクバの東(6)

2024-09-14 | 荒葉一也SF小説

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(3)

 

006.未明の出撃 (3/4)

これを契機にイランはウラン濃縮を再開、核兵器の実用化に必要な濃度まで今一歩に達した。欧米諸国はイランが危険なレッドラインを越えたととらえた。イスラエル軍部、そして極右国粋主義者達にとっても受け入れられないことであった。彼らユダヤ人は自分たちが人類史上最も優秀な民族であると固く信じている。米国の白人には一目置くものの、自国の周辺に住むアラブ人、ペルシャ人などは劣等民族としか考えていない。数次にわたる中東戦争でアラブ人を完膚なきまでに叩きのめした。そして今、米国のとりなしでUAE、スーダンなどいくつかのアラブ諸国と和平を結んだことによりアラブ陣営を無害化することに成功した。

 

イスラエルにとってペルシャ人とてもアラブ人と五十歩百歩である。イランごときが自分たちと対等の立場に立つのは我慢ならないのである。降ってわいたのが米国の大統領の交代である。新しい大統領はイラン核交渉への復帰を表明し、またイスラエル国内の入植地拡大に異議を唱えた。ただ復帰交渉は難航している。

 

(続く)

 

 

荒葉一也

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(SF小説) ナクバの東(5)

2024-09-12 | 荒葉一也SF小説

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(2)

 

第一章 未明の出撃 (2/4)

イランの核関連施設にはナタンズの他にウラン遠心分離に必要な六フッ化ウランを生産する施設がイスファハンにあり、またアラクに重水プラント及びプルトニウム生産炉がある。これら三つの施設が総合的に結びつけば、イランは米英仏露中の五大国及びインド、パキスタン、北朝鮮に次ぐ世界9番目の核兵器保有国となることができる。否、イスラエルが核兵器を保有していることは公然の秘密であるから、イランは10番目の核保有国となる。イスラエル自身は核兵器を保有していることを否定も肯定もしない。思わせぶりな態度を取ることがむしろ周辺アラブ・イスラム諸国に対する無形の圧力となっている。

 

その一方、イランの核開発を座視すればイスラエルは自国の優位性を失うことになる。そのイスラエルにイラン核施設を攻撃する絶好の機会が訪れた。米国の共和党大統領がイランと世界の強国が結んだ核開発協定を一方的に離脱し、経済制裁を課した。と同時に大統領はUAEなどアラブの数カ国を抱き込んでイスラエルと外交関係を結ばせた。さらに中東地域からの米軍の撤退を進めた。この結果、中東地域のパワーバランスが崩れたのである。

 

(続く)

 

 

荒葉一也

(From an ordinary citizen in the cloud)

 

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