石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

(SF小説) ナクバの東(64)

2025-02-01 | 荒葉一也SF小説
Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(61)

第23章 米軍乗り出す(1)アル・ウデイド空軍基地(2/3)


しかしペルシャ湾地域において米国がシーレーン以上に重視していること、それはイランを封じ込め地域における米国の威信を揺るぎないものにすることである。30年前、ホメイニ師によるイスラム革命政権が成立して以来、米国にとってイランは不倶戴天の敵である。ホメイニ以前のイラン・パーレビ―(シャー)体制の時代に、米国はイランに近代兵器を大量に売り付け、イランを「ペルシャ湾の警察」に仕立て上げることで地域の治安を任せていた。

革命直後、テヘランの米国大使館がホメイニ支持の革命防衛隊によって一年以上占拠されるという事件があった。これにより米国の威信はいたく傷つけられた。当時の米国カーター政権は救出作戦を試みたが、救出ヘリコプターの不時着と言うお粗末な結果で失敗し、米国政府は恥の上塗りをした。これが今も米国民の脳裏から消えない深いトラウマを残した。

(続く)


荒葉一也
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(SF小説) ナクバの東(60)

2025-01-23 | 荒葉一也SF小説
Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(57)

第21章 さまよう3羽の小鳥(2)「マフィア」と「アブダッラー」の場合(3/3)

 
彼はまだ独身である。両親は既に亡くなっている。彼の身内は姉とその娘のルルの3人だけである。それだけに彼と姉との結びつきは強い。そして姪のルルは彼によくなついていた。

そんなルルが数週間前に高熱を出し、「叔父ちゃん!叔父ちゃん!」とうわ言を言っていると姉が伝えてきた。彼はその週末に急いで病院に駆け付けた。幸いにも熱は引いており、ベッドに起き上がった姪に彼は絵本を読み聞かせてやった。姪は彼の腕を抱え込みうれしそうに聞き入っていた。付き添いの姉が「ルル!そんなにくっ付いちゃ叔父さんに風邪が移っちゃうよ。」と注意したが彼女は抱え込んだ腕を離そうとしなかった。

(続く)


荒葉一也
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(SF小説) ナクバの東(59)

2025-01-21 | 荒葉一也SF小説
(英語版)
(アラビア語版)

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(56)

第21章 さまよう3羽の小鳥(2)「マフィア」と「アブダッラー」の場合(2/3)
 
「アブダラー」は二人とは対照的に終始寡黙であった。イラン領空を脱した直後から体に不調を感じ始めていたのである。2週間ばかり前、高熱を出し入院していた姪を見舞いに姉の嫁ぎ先近くの病院を訪れた。その後彼自身も微熱を出したが、幸い寝込むほどのことはなかった。ただそのことは仲間に伏せていた。もし体の不調を訴えればメンバーからはずされたに違いない。彼は3人のパイロットの一人に選ばれた栄誉を失いたくなかった。

アラブのミズラフィム出身である「アブダラー」は「エリート」のようなアシュケナジム出身者たちとは陰に陽に差別されてきた。そのため彼の友人の中には過激組織ハマスに身を投じる者も少なくなかったが、彼自身はイスラエル国民として生きる道を選んだ。「人は国家を選べない以上、国家とともに生きる。」それが彼の信念であった。そして軍隊に志願し忠実に義務を果たした結果、今回国家的使命を帯びたパイロットに選ばれた。そのため何としても今回の任務をやり遂げたかったのである。

(続く)

荒葉一也
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(SF小説) ナクバの東(56)

2025-01-14 | 荒葉一也SF小説
(英語版)
(アラビア語版)

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(53)

第20章 さまよう3羽の小鳥(1)「エリート」の場合(2/3)


その親鳥の出迎えがないまま3機は当てもなくペルシャ湾上空を南下した。残された燃料はあと1時間程度しかなく、ホルムズ海峡を越えることもできないことは確かだ。このままではペルシャ湾に不時着する他なく、墜落前にパラシュートで脱出したとしても、誰が彼らを拾い上げてくれるのだろう。左岸はさきほど空爆したばかりのイラン、右岸はサウジアラビア、バハレーン、カタール、UAEなどイスラエルの仇敵のアラブ諸国である。イランの巡視船或いは漁船に助けられたなら目も当てられない。かと言ってアラブ諸国の哨戒艇か漁船に助けられたとしても晒し者にされることは間違いない。いずれにしてもパイロット達にとっては勝利の凱旋どころではなさそうだ。

不安に駆られたパイロット達の反応は三者三様であった。「エリート」は内心の動揺を抑えリーダーとして冷静沈着さを装った。彼は僚機の「マフィア」と「アブダラー」に落ち着くように諭し、指令部が何らかの救出作戦を講じるに違いない、と元気づけた。確信があった訳ではない。しかしこれまでもイスラエル軍はどのような困難な状況でも決して仲間を見殺しにすることはなかった。司令部は必ずや自分たちを救出してくれるはずだと「エリート」は信じたかった。

(続く)


荒葉一也
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(SF小説) ナクバの東(55)

2025-01-11 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(52)

第20章 さまよう3羽の小鳥(1)「エリート」の場合(1/3)


ナタンズ爆撃作戦の任務を終えたイスラエル空軍の3機の戦闘機は追手を振り切ってイランの領空外に抜け出した。

しかしそこで待ち受けていたのは進路を南にとりペルシャ湾上空をホルムズ海峡に向かえ、という指令であった。程なく司令部から、給油機がサウジアラビア領内で撃墜された、との驚愕すべき情報がもたらされた。当初の作戦では往路と同じルートでイスラエルに帰還する途中に空中給油機が出迎え、燃料を補給して基地に戻ることになっていた。親鳥が3羽の小鳥の労をねぎらい餌を腹いっぱいに与え、そして全員で意気揚々と基地に舞い戻る予定だったのである。

(続く)


荒葉一也
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(SF小説) ナクバの東(54)

2025-01-09 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(51)

第19章 撃ち落された給油機(3)爆発炎上する給油機(2/3)

 
 隊長の視線の先、地上には細い一本の線が東西に延びている。トランス・アラビア・パイプライン、通称TAPラインである。今は使われていないが、かつてサウジアラビア東部の豊かな原油を地中海に運ぶパイプラインであり、サウジアラビア領内の砂漠の中をイラクとの国境に沿って延々と続いている。

 隊長は給油機の破片がTAPラインに向かって落下していくのを見て、サウジアラビア領空内で撃墜したことを再確認した。

 「客人は我々のテントに立ち寄るようにとの申し出を断り領空外に逃走しようとした。従って領空侵犯で撃墜した。」

 隊長は基地に報告すると部下の僚機2機を引き連れ、基地に向かってゆっくり高度を下げ始めた。

(続く)


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(SF小説) ナクバの東(53)

2025-01-07 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(50)

第19章 撃ち落された給油機(3)爆発炎上する給油機(2/3)

 
 そのようなことが何度か繰り返された後、後尾につけていた攻撃隊長が断を下した。

 「給油機を撃墜する。」

その声を受け並走する2機の僚機は左右に分かれて行った。隊長はミサイル発射ボタンをぐいと押した。標的は目の前にある大型機。目をつぶってでも撃墜できる確かな標的だ。次の瞬間、ミサイルは狙い違わず給油機に命中した。燃料を腹一杯に蓄えた給油機は大きな炎に包まれた。ばらばらになった機体の破片が陽光を受けきらきら光りながら落下して行く。

(続く)


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(SF小説) ナクバの東(52)

2024-12-31 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(49)

第19章 撃ち落された給油機(3)爆発炎上する給油機(1/3)

 
 一方、客人であるイスラエル給油機を取り囲んだサウジアラビア戦闘機は給油機のパイロットに向かって自分たちのテントに立ち寄ること、即ちハフル・アル・バテン基地に着陸するように話しかけた。それは話しかけたと言うより命令したと言った方がいいのかもしれない。それに対して給油機は何も答えず、機体を左右に振っては囲いから逃れようと身をよじった。しかし給油機と戦闘機では運動性能に天と地の差があり、包囲網を脱出することが不可能であることは明らかであった。3羽の鷹に囲まれたのろまなアホウドリはその進退が極まりつつあった。

 次第にハフル・アル・バテン基地が近づいて来る。アホウドリはついに横を並走する鷹に体をぶつけて活路を見出そうとした。さすがの鷹もその時だけは身を横に逸らす他なかった。

(続く)


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(SF小説) ナクバの東(51)

2024-12-28 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(48)

第18章 撃ち落された給油機(2)引き裂かれる編隊(3/3)

 

イスラエル機のパイロットは言い知れぬ恐怖感と威圧感の中で次第に焦りを覚え始めた。追尾を振り切ろうとアクロバット飛行を繰り返したおかげで燃料を予想以上に使い果たしたようである。給油機と引き離され、砂漠の上空をあてどなく飛び続け、最早帰投のために残された燃料はぎりぎりである。ここはアラビア半島上空の敵地の真っただ中、砂漠に不時着する訳にはいかない。イスラエルの護衛機2機には基地に帰投する選択肢しか残されていなかった。

護衛の2機が踵を返すのを確認したサウジアラビア機のパイロットは基地の作戦本部に作戦終了を報告して帰途についた。
「客人の従者はお帰り願いました。」

(続く)


荒葉一也
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(SF小説) ナクバの東(50)

2024-12-26 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(47)

第18章 撃ち落された給油機(2)引き裂かれる編隊(2/3)
 

3機に取り囲まれたイスラエルの護衛機は時には速度をあげ、時には急上昇、急降下、旋回を繰り返し、敵機を振り切って給油機に合流しようとした。しかしサウジアラビア機はぴったりとそして執拗に寄り添ったままである。両方の戦闘機は全く同じ米国ゼネラル・ダイナミック(現ロッキード・マーティン)社製のF16である。飛行性能が同じであるためイスラエル機が如何にアクロバット技能を駆使しても結局サウジアラビア機を引き離すことはできない。

イスラエルのパイロットはミサイルで相手を攻撃することもできない。当たり前の話だが空対空ミサイルは真っ直ぐ前方にしか飛ばないから真横や真後ろにいる敵機は撃ち落とせない。むしろ後尾につけたサウジアラビア機ならいつでも自機を撃墜できるはずだが、攻撃する気配は見せない。サウジアラビアの3機はただ無言でイスラエル機と編隊飛行を続けるばかりであった。

(続く)


荒葉一也
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