(注)下記HP「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括ご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0192QatarGas.pdf
3.対米LNG輸出の蹉跌と福島原発事故の僥倖
天然ガスは石油に比べCO2の排出量が少なく環境に優しいエネルギーとして脚光を浴びている。カタールはその追い風に乗って設備を増強し輸出先を開拓しており、その戦略は大きな成果を上げている。しかし唯一の誤算が米国である。カタールの米国向けLNG輸出は1999年に始まり、2000年には年間13億㎥を記録したが、一方で米国内ではシェールガスの商業生産が軌道に乗り天然ガスの生産量は2005年以降増加傾向にある。このためカタールの対米LNG輸出は伸び悩んでおり今後も期待薄である 。カタールは次々と完成するLNG設備により余剰生産能力を抱え、ブラジル(2010年7月) 、カナダ(2010年10月) 、バングラデシュ(2011年1月) など精力的に新規顧客を開拓する必要に迫られている。
ところが本年3月の福島原発事故により状況は一変した。東電に限らず日本の電力会社は軒並みLNGの調達に走りだした。浜岡原発の運転再開の目途が立たない中部電力はトップが直ちにカタールに向かいLNGの追加供給交渉を行い36万トンを確保した 。原発事故の余波は日本国内にとどまらず、世界中に広がりつつあり、それまで低迷していたスポット物のLNG価格が上昇、これにつれてLNGタンカーの用船料も急騰する有様である 。原発事故は世界的な悲劇であるが、カタールの天然ガス事業にとって僥倖であったことは間違いない。
4.したたかな中国、予断を許さぬ今後
LNGが売り手市場に転じたことにより現在のカタールは強気である。しかし買い手は日本のような弱腰の国だけではない。中国の対応に注目が集まる。天然ガスの需要が急激に増加している同国は2007年に純輸入国に転じ、2010年の輸入量は164億㎥に達し今後も急増するものと思われる。
しかしカタールと中国は2年前にLNGの追加供給について基本合意したものの、その後交渉は殆ど進展していない 。カタールが提示する売値に対して中国側が難色を示しているためと伝えられている。天然ガスの輸入確保について中国は日本以上に大きな問題を抱えているにもかかわらず、同国はしたたかである。
世界の天然ガスの需給関係を見た場合、当面は売り手市場であろう。ただ一方で豪州を含め世界では天然ガスの開発が活発であり、中長期的には需給関係は再び安定し供給不足は解消されるという見方もできる。LNG市場でカタールの天然ガス争奪戦が何時まで続くかは今しばらく状況を注視する必要があろう。
(参考レポート)
1.「BPエネルギー統計レポート2011年版解説シリーズ:天然ガス篇」
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0189BpGas2011.pdf
2.「シェールガス、カタールを走らす」
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0148ShaleGasQatar.pdf
以上
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