3月にイラン国営石油と中国石油化工(Sinopec)がイランのヤダバラン陸上油田開発の契約を締結すると言うニュースが報じられた(日経2/17他)。3月上旬にはSinopecが代表団をイランに派遣して詳細を協議する。
これには2年前の2004年10月に中国とイランが結んだMoUの伏線がある。このとき中国は北京を訪問したイランのザンガネ石油相(当時)との間で、25年間にわたり年間1千万トンのLNG(液化石油ガス)を購入する予備的な協定に署名した。契約の総額は1千億ドル、場合によっては1.5-2千万トン、2千億ドルとも言われる。MoUでは同時にヤダバラン油田開発にも言及され、Sinopecはバイ・バック方式で同油田を開発することなっている。当事者は詳細を明らかにしなかったが、予想生産量30万B/Dの半量15万B/Dを獲得するものと見られていた(2004/10/30付Arab Times-Kuwait)。
2004年のMoU締結当時、イランは米国の経済制裁措置下にあり、また中国がMoUの詳細を明らかにしなかっただけに、中国がどの程度このプロジェクトに本気で取り組むか注目された。現在はイランの核開発疑惑をめぐって米国が国連制裁をちらつかせ、米国とイランは2年前よりも更に緊張した状況にある。これに対して英仏独の西欧3カ国とロシアが仲に割って入る姿勢を打ち出している。
しかし今回の報道で資源獲得を目指す中国の意図がはっきり見えてきた。イランはサウジアラビアに次ぐ世界第2位の石油埋蔵量を有し、生産量は世界第4位である(本ブログ「BP統計に見る石油埋蔵量」参照)。また天然ガスについてもロシアに次いで世界第2位であり、生産量は第5位であり、世界最大級のエネルギー大国である。そして中国は言うまでも無く国連常任理事国5カ国の一角を占める政治大国である。その一方、イランは米国一強支配の世界の構図の中で孤立化の様相を深めている。また中国は経済成長でエネルギーの海外依存が増大し、最近の例でも中国はCNOOCのナイジェリア油田買収、CNPCのペトロカザフスタン買収など石油・天然ガス獲得に血眼になっている(本ブログ「CNOOCのナイジェリア油田買収」参照)。
このように両国は外交及び経済面で互いを必要とする関係になっており、また両国それぞれが持つブランドには大きな魅力がある。即ちイランにとっては米国、西欧、ロシアを相手の四面楚歌の中で、国連常任理事国と言う外交ブランドを持つ中国を味方に引き入れることは大きな価値がある。そして石油・天然ガスを必要としている中国にとっては、資源大国のブランドを有するイランと強い関係を築くことができれば大きな成果であろう。
そこには、エネルギーに乏しい西欧の足元を見透かすイランと、米国の中東政策の行き詰まりを見透かす中国のしたたかな打算が見え隠れしている。今回の両国の契約は、まさにこのような国際的な政治・経済力学を利用したものに他ならない。
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