6月12日、BPは毎年恒例の「BP Statistical Report of World Energy 2007」を発表した。本シリーズではすでに石油及び天然ガスの埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したが、最後に石油と天然ガスを合わせた形でその埋蔵量、生産量及び消費量についての解説を試みる。
石油+天然ガス篇(1):世界の石油と天然ガスの埋蔵量
2006年末の世界の石油埋蔵量は1兆2,082億バレルであるが、これに対して天然ガスの埋蔵量は181兆立方メートル(以下㎥)であり、これは石油に換算すると1兆1,414バレルとなり、石油と天然ガスの埋蔵量はほぼ同じであることがわかる。両者を合わせた合計埋蔵量は2兆3,496億バレルとなる。
これを地域別に見ると(上図参照)、中東が世界全体の埋蔵量の半分(51%)を占めており、次いで欧州・ユーラシアが23%であり、この両地域で世界の埋蔵量の4分の3を占めている。その他の地域についてはアフリカ9%、中南米6%、アジア・大洋州6%、北米5%となっている。
埋蔵量を国別に見たものが下表である。
順位 国名 石油 天然ガス 合計
億バレル 順位 兆立方米 石油換算 順位 億バレル %
1 ロシア 795 7 47.65 2,997 1 3,793 16.1%
2 イラン 1,375 2 28.13 1,769 2 3,144 13.4%
3 サウジアラビア 2,643 1 7.07 445 4 3,087 13.1%
4 カタル 152 14 25.36 1,595 3 1,747 7.4%
5 UAE 978 5 6.06 381 5 1,359 5.8%
6 イラク 1,150 3 3.17 199 10 1,349 5.7%
7 クウェイト 1,015 4 1.78 112 20 1,127 4.8%
8 ベネズエラ 800 6 4.32 271 9 1,072 4.6%
9 ナイジェリア 362 10 5.21 328 7 690 2.9%
10 米国 299 11 5.93 373 6 672 2.9%
全世界 12,082 181.46 11,414 23,496 100.0%
原油と天然ガスの合計埋蔵量が最も多い国はロシアの3,793億バレルであり、世界全体の 16.1%を占めている。ロシアは石油埋蔵量では世界7位(795億バレル)であるが、天然ガスの埋蔵量(47.65兆㎥、石油換算2,997億バレル)が非常に多いため合計埋蔵量では世界一となっている。2位と3位はそれぞれイラン及びサウジアラビアとなっており、両国の埋蔵量はイラン3,144億バレル、サウジアラビア3,087億バレルである。サウジアラビアは石油埋蔵量(2,643億バレル)は世界1位であるが、天然ガスは石油の6分の1(石油換算445億バレル)であり、これに対してイランは石油の埋蔵量はサウジアラビアの半分であるが(1,375億バレル)、石油を上回る天然ガスの埋蔵量(石油換算1,769億バレル)を有するため、石油と天然ガスの合計埋蔵量ではサウジアラビアより若干多い。
これら3カ国に続くのがカタルである。同国の場合石油の埋蔵量(152億バレル)は世界14位であるが、天然ガスはロシア、イランに次ぐ埋蔵量(石油換算1,595億バレル)を有しているため、合計埋蔵量では世界第4位である。これら上位4カ国だけで世界シェア合計は50%に達し、石油及び天然ガス資源が一部の国に偏在していることがわかる。
5位から10位まではUAE(石油換算合計1,359億バレル、以下同じ)、イラク(同1,349億バレル)、クウェイト(同1,127億バレル)、ベネズエラ(同1,072億バレル)、ナイジェリア(同690億バレル)、米国(同672億バレル)と続いている。クウェイトは石油こそ世界第4位の埋蔵量(1,015億バレル)であるが、天然ガスの埋蔵量が世界20位と非常に少ない。
これら上位10カ国の世界シェア合計は76.7%であり、世界の石油・天然ガス埋蔵量の4分の3を支配しているのである。
(石油+天然ガス篇第1回完)
前田 高行
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E-mail: maedat@r6.dion.ne.jp
6月12日、BPは毎年恒例の「BP Statistical Report of World Energy 2007」を発表した。以下は同レポートの中から天然ガスに関する埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したものである。
天然ガス篇(4):世界の天然ガス貿易:パイプラインとLNG
1. 地域及び国による生産と消費のバランス
前々回及び前回で天然ガスの地域別・国別の生産量及び消費量について説明したが、本稿では生産と消費のバランスについて分析を試みる。
先ず地域別の生産と消費のバランスを見ると(上図参照)、欧州・ユーラシアは生産と消費が世界6地域の中ではもっとも多い。しかし同地域は消費量が生産量を7百億立方米(以下㎥)上回っている。アジア・大洋州も6百億㎥の消費超過である。これに対してアフリカは消費量(760億㎥)を大幅に上回る生産量(1,800億㎥)があり、中東も5百億㎥の生産超過である。そして北米、中南米はほぼ需給が均衡している。
次に国毎に生産量と消費量の乖離が大きい上位5カ国を取り上げると以下の通りである。(単位:億㎥)
(1) 生産量が消費量を上回る上位5カ国
国名 生産量(A) 消費量(B) バランス(A-B)
ロシア 6,121 4,321 1,800
カナダ 1,870 966 904
ノルウェー 876 44 832
アルジェリア 845 237 607
UAE 474 -(*) 474
(2) 消費量が生産量を上回る上位5カ国
国名 生産量(A) 消費量(B) バランス(A-B)
米国 5,241 6,197 -956
日本 -(*) 846 -846
ドイツ 156 872 -716
イタリア 110 771 -661
ウクライナ 191 664 -474
* BP統計では不詳(10億㎥以下のため)
上記のデータからいくつかのことを読み取ることができる。北米の場合はカナダから米国への輸出により地域内での天然ガスの需給がバランスしている。また欧州・ユーラシアについては域内のロシアやノルウェー等からドイツ、イタリア、ウクライナ等へ天然ガスが供給されているが、それでも不足する量はアルジェリアなどアフリカ地域或いは中東から輸入している。アジア・大洋州についても、域内では生産国のインドネシア、マレーシアから消費国の日本、韓国等に輸出されているが、不足分はその他の地域(特に中東)からのLNG輸入に頼っている。
2. 天然ガスの貿易動向:パイプラインとLNG(1997~2006年)
天然ガスの輸出にはパイプラインとLNGの2種類がある。伝統的にはロシアから西ヨーロッパ向け或いはカナダから米国向けのように気体のままパイプラインによって輸出されていたが、最近では極低温で液化(LNG)し、専用のLNG運搬船で輸出するケースが増えている。下表は1997年から2006年の貿易量(単位:億㎥)をまとめたものである。
貿易量に占める割合
パイプライン LNG 合計 前年比増加率 パイプライン LNG
1997年 3,217 1,113 4,330 - 74.3% 25.7%
1998年 3,331 1,130 4,461 3.0% 74.7% 25.3%
1999年 3,605 1,232 4,838 8.4% 74.5% 25.5%
2000年 3,893 1,370 5,263 8.8% 74.0% 26.0%
2001年 4,113 1,430 5,543 5.3% 74.2% 25.8%
2002年 4,314 1,498 5,812 4.9% 74.2% 25.8%
2003年 4,549 1,688 6,237 7.3% 72.9% 27.1%
2004年 5,021 1,780 6,800 9.0% 73.8% 26.2%
2005年 5,327 1,888 7,215 6.1% 73.8% 26.2%
2006年 5,371 2,111 7,481 3.7% 71.8% 28.2%
(BP統計より筆者作成)
1997年の天然ガスの貿易量はパイプラインとLNG合わせて4,330億㎥であったが、2006年には1.7倍の7,481億㎥に拡大し、その間の年間平均増加率は5.9%であった。因みにこの間の天然ガス全体の消費量の平均増加率は2.3%であり、天然ガスの国際間貿易が急速に拡大していることがわかる。また1997年には貿易量に占めるパイプラインとLNGの比率はほぼ1:4(パイプライン74.3%、LNG 25.7%)であったが、その後LNG貿易の伸び率がパイプラインのそれを上回っており、2006年にはパイプラインが全体のほぼ7割(71.8%)に対してLNGは全体の3割近く(28.2%)に達している。
今後天然ガスの国際間貿易は更に拡大し、またその中でLNGの比率が増大することは間違いないものと思われる。
(天然ガス篇完)
(これまでの内容)
(前田 高行)
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6月12日、BPは毎年恒例の「BP Statistical Report of World Energy 2007」を発表した。以下は同レポートの中から天然ガスに関する埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したものである。
天然ガス篇(3):世界の天然ガスの消費量
(1) 地域別・国別消費量
2006年の世界の天然ガス消費量は2兆8,508億立方メートル(以下㎥)であった。地域別では欧州・ユーラシアが1兆1,463億㎥と最も多く全体の40%を占めている。これに次ぐのが北米(7,703億㎥、27%)であり、これら2地域だけで世界の3分の2の天然ガスを消費している。3番目に多いのがアジア・大洋州4,385㎥(15%)で、その他の地域は中東2,893億㎥、中南米1,306億㎥、アフリカ758億㎥であった。アフリカの天然ガス消費量は世界全体の3%で、欧州・ユーラシアの15分の1に過ぎない。
(詳細は「天然ガス消費量1965~2006年」参照)
次に国別に見ると、最大の天然ガス消費国は米国であり、同国の2006年の消費量は6,197億㎥であった。これは全世界の22%に相当する。第2位はロシア(4,321億㎥、15%)、これに続くのがイラン(1,051億㎥)、カナダ(966億㎥)、英国(908億㎥)である。6位以下にはドイツ(872億㎥)、日本(846億㎥)、イタリア(771億㎥)、サウジアラビア(737億㎥)、ウクライナ(664億㎥)、中国(556億㎥)が名を連ねている。
(詳細は「国別天然ガス消費量1965~2006年」参照)
(2)天然ガス消費量の推移
1965年に6,552億㎥であった天然ガスの消費量は、2006年までの41年間常に前年を上回っている。1971年には1兆㎥、1991年に2兆㎥の大台を超え、2006年の消費量は1965年の4.4倍の2.85兆㎥に達している。
石油の場合は第二次オイルショック後の1980年から急激に消費量が減った例に見られるように、価格が高騰すると需要が減退すると言う市場商品と同様の現象がある。しかし天然ガスの場合は輸送方式がパイプライン或いはLNGの形であり、生産国と消費国が直結している点が石油とは異なっている。そしてこれら輸送施設を整備するために多くの時間とコストを必要とする反面、一旦設備が稼動すると長期かつ安定的に需要が伸びる傾向がある。天然ガスの消費量が過去41年間にわたり一貫して増加しているのはこのような天然ガスの特性によるものと考えられる。
上図「天然ガスの地域別消費量推移(1965~2006年)」は、全世界及び欧州・ユーラシア、北米、アジア・大洋州3地域の消費量の推移を見たものである。地域毎の生産量の推移にはいくつかの大きな特徴が見られる。1965年の世界の天然ガス消費量のうち71%は北米、残る24%を欧州・ユーラシアが占めており、その他アジア・大洋州、中南米、中東及びアフリカを合わせてもわずか5%にすぎなかった。その後、北米の消費量は6~7千億㎥前後を維持したままであるのに対して、欧州・ユーラシア地域は1970年以降急速に消費が拡大し、1980年には北米を追い抜いている。そして91年には遂に年間1兆㎥を超え、世界全体に占める割合は50%に達している。その後一時的に消費は落ちたが、2000年以降は再び増勢を示し、2006年の消費量は1.15兆㎥、全世界の40%を占めている。
一方、1965年に消費量わずか59億㎥であり、1980年初頭まで低迷していたアジア・大洋州は、90年以降天然ガスの消費が急激に増大している。そして2006年の年間消費量は4,385億㎥、全世界に占める割合も15%に達している。
これら3地域の違いは先に述べた輸送設備の拡充が消費の増大をもたらすことの証しであると言えよう。即ち北米では1965年以前に既に主要なパイプラインが完成していたのに対し、欧州・ユーラシアでは旺盛な需要に対応して1970年以降ロシア方面から西ヨーロッパ向けのパイプラインの能力が増強されている。この場合、パイプラインの増設が西ヨーロッパの更なる需要増加を招く一方、ロシア及び中央アジア諸国などの天然ガス生産国では新たなガス田の開発が促進され、相互に呼応して地域全体の消費を押し上げる相乗効果もあったと考えられる。そしてアジア・大洋州の場合は、日本が先陣を切ったLNGの利用が、韓国、台湾などに普及したことにより天然ガスの消費が拡大した。中国などもLNG利用に熱心であり、アジア・大洋州における天然ガスの消費は他の地域を上回るペースで増大している。
天然ガスは石油に比べて炭酸ガスや有害物質の排出量が少ない「環境に優しいエネルギー」として今後ますます需要が拡大することは間違いない。世界的にも新しいパイプラインやLNGの搬出・運搬・受入設備が増強されている。また石油の可採年数が40年に対して天然ガスのそれは63年であり(本シリーズ石油篇及び天然ガス篇第1回参照)、天然ガスの開発と生産拡大の余地は大きく、今後消費拡大のペースは落ちないものと思われる。
(天然ガス篇第3回完)
(これまでの内容)
(前田 高行)
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6月12日、BPは毎年恒例の「BP Statistical Report of World Energy 2007」を発表した。以下は同レポートの中から天然ガスに関する埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したものである。
天然ガス篇(2):世界の天然ガスの生産量
(1) 地域別・国別生産量
2006年の世界の年間天然ガス生産量は2兆8,653億立方メートル(以下㎥)であった。地域別では欧州・ユーラシアが1兆729億㎥と最も多く全体の37%を占めている。これに次ぐのが北米(7,544億㎥、27%)であり、これら2地域だけで世界の64%に達する。その他の地域はアジア・大洋州3,771㎥(13%)、中東3,359億㎥(12%)、アフリカ1,805億㎥(6%)、中南米1,445億㎥(5%)であった。
各地域の生産量と埋蔵量(前回参照)を比較すると、中東は埋蔵量では世界の40%を占めているが生産量では12%に過ぎない。これに対し北米は埋蔵量シェアが世界全体の4%にとどまるのに対して、生産量のシェアは27%に達しており、埋蔵量と生産量のギャップが大きい。この結果、可採年数(埋蔵量を生産量で割った数値:R/P)は中東地域が100年以上であるのに対して、北米はわずか11年にすぎない。つまり北米地域は今後新たなガス田が発見されない限り、11年で天然ガス資源は枯渇することになる。全世界の平均R/Pは63.3年であるが、これを上回っているのは中東とアフリカ(79年)の2地域だけである。このことから地域別に見て天然ガスの生産を拡大できるポテンシャルを持っているのは中東とアフリカ地域であると言えよう。
(詳細は「天然ガス埋蔵量(2006年)」参照)
次に国別に見ると、最大の天然ガス生産国はロシアであり、同国の2006年の生産量は6,121億㎥であった。第2位は米国(5,241億㎥)であり、両国で全世界の40%の天然ガスを生産している。これに続くのがカナダ(1,870億㎥)、イラン(1,050億㎥)、ノルウェー(876億㎥)である。6位から10位にはアルジェリア(845億㎥)、英国(800億㎥)、インドネシア(740億㎥)、サウジアラビア(737億㎥)及びトルクメニスタン(622億㎥)が名を連ねている。
(2)天然ガス生産量の推移(上図「天然ガスの地域別生産量推移(1970~2006年)」参照)
1970年に1兆㎥を超えた天然ガスの生産量はその後40年近くにわたり一度たりとも前年生産量を割ることなく増加を続け、2006年には3倍弱の2兆8,653億㎥の生産量を記録している。石油の場合は第二次オイルショック後の1980年から急激に需要が減退し、オイルショック前の水準に戻るまで10年以上の歳月を要している。これは天然ガスと石油の大きな相違点である。更に過去数年の対前年増加率は3%台で、90年代を上回る伸び率を示しており、今後ますます天然ガスの生産が拡大するであろうと予測される。
地域毎の生産量の推移にはいくつかの大きな特徴が見られる。1970年の世界の天然ガス生産のうち3分の2は北米、残る3割が欧州・ユーラシアで生産され、その他の地域の生産量は微々たるものであった。その後、北米の生産量は6~7千億㎥前後を維持したままであるのに対して、欧州・ユーラシア地域の生産量は70年代から80年代にかけて大幅に伸び、1981年には北米を追い抜き、1980年代後半には全世界の生産量の5割を占めるまでになった。しかし同地域の生産量は90年代以降伸び悩んでおり、2006年の世界シェアは37%まで低下している。
一方、1970年には生産量200億㎥弱、シェアがわずか2%でしかなかったアジア・大洋州或いは中東は、90年以降生産量が急速に増大しており特にここ数年増加の割合が加速された感がある。その理由としてはこの両地域がこれまで天然ガスの消費市場から遠く、パイプラインによる供給が困難であったが、近年天然ガスを液化するLNGの市場が拡大したことにより、これらの地域での天然ガス田の開発と生産が進んだためと考えられる。
(天然ガス篇第2回完)
(これまでの内容)
(前田 高行)
本稿に関するご意見、コメントをお寄せください。
E-mail: maedat@r6.dion.ne.jp