石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

イランの石油・ガスをめぐる日本とインドのプロジェクトの行方

2005-12-30 | OPECの動向

(その1)アザデガン油田の開発問題

  イランのアザデガン油田の開発及びイランとインドを結ぶ天然ガスパイプラインの二つのプロジェクトに対して、米国がイランの核疑惑問題を理由に反対の意向を表明しており、その動向が注目されている。

  アザデガン油田の開発は、2000年11月のハタミ大統領(当時)の来日時に開始され、日本側が30億ドルの原油代金前払いを提示して優先交渉権を獲得した。

 しかしイランを「悪の枢軸」の一国とする米国が日本政府に慎重な対応を求めたため交渉は難航し、2004年2月に漸く交渉当事者である日本の国際石油開発(INPEX)とイラン国営石油会社(NIOC)の間でアザデガン油田の評価・開発に関する契約が調印された。(因みに30億ドル前払いについては2001年にイラン産石油の輸入商社数社による受け皿会社「シルクロード石油輸入」が設立され30億ドル分の前払いがなされ会社は業務を完了している)  

 契約調印時のINPEX記者発表によれば、アザデガン油田はINPEX75%、NICO(NIOCの子会社)25%の参加権益で二段階に分けて開発される。調印後3年4ヶ月で5万B/Dの生産を開始し、契約8年後に26万B/Dとする予定であり、プロジェクト総額は20億ドルである。アザデガン油田の推定埋蔵量は260億バーレルとされており石油開発としては超大型案件と言えよう。

  そのためINPEXは石油開発の経験が豊かなシェルの参加を求めたが、シェルは採算が困難であることを理由にINPEXの要請を断った。しかしこれほどの大型案件をシェルが断ったのは単なる採算性の問題ではなかろう。シェルは昨年自社の保有石油埋蔵量を大幅に下方修正する事件を起こしており自社原油の増加につながるアザデガン油田への参加を見送るのは如何にも不自然である。米国から何らかの圧力があったと見て差し支えないであろう。

  契約調印以後も米国はイランの核開発疑惑問題を引き合いに出し日本側を強く牽制してきた。しかしイラン側からは日本がこれ以上着工を引き伸ばすなら契約相手を他国に変更するとのクレームがつき、窮地に陥ったINPEXは来年着工を決断したようである。なおINPEXの最大の株主は国(経済産業省)であり、同社の決断は当然経済産業省の判断であると見て間違いない。一方対米協調を基本方針とする外務省は慎重論を崩していないと見られ当分は日本政府内で両省の綱引きが続くであろう。(或いは外務省も暗黙には了解しているが、表面的には慎重論を唱え続けるのかもしれない)

  なおINPEXはシェルに替わり仏のトタール社をプロジェクトに引き入れるとの報道がある。イラク派兵で米国に反対して以来、中東での足がかりを失っている仏としては願っても無い話であろう。INPEX(経済産業省)がトタールに誘いを掛けたのは、米仏関係が改善しているとの読みがあるからであろう。  INPEXは11月始めに帝国石油との経営統合を発表し、日本最大の石油開発会社としてINPEXのアゼルバイジャンでの石油生産開始(本年2月)、INPEX、帝石両社のリビアでの鉱区取得など海外への進出に拍車がかかっている。日本のエネルギー安定確保のために両社の果たす役割は大きく、統合新会社の筆頭株主となる政府(経済産業省)の強い意志が感じられる。(本ブログ「国際石油・帝石合併と新日本石油―帝石に嫌われ、経済産業省に油揚げをさらわれた新日石?」参照)

  しかし石油・天然ガスのエネルギー開発は経済的なリスクよりもむしろ国際的な政治リスクに翻弄される度合いが大きい。そのリスクに対して日本政府がどこまで腹をくくって対処するかが最大の焦点であろう。

以下、その2 「インドとイランの天然ガスパイプライン建設プロジェクト」に続く。

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国際石油・帝石の企業統合と新日本石油(帝石に嫌われ、経済産業省に油揚げをさらわれた新日石?)

2005-12-24 | 海外・国内石油企業の業績
 11月5日に記者発表された国際石油(旧インドネシア石油)と帝国石油(以下帝石)の経営統合は、12月19日、来年4月に発足する共同持株会社「国際石油開発帝石ホールディングス(株)」の役員人事が公表され、また同時に新日本石油(以下新日石)を含めた「三社合意について」と題する記者発表も行われて一件落着の様相を呈した。
 帝石の筆頭株主(16.5%)である新日石は、経営統合の発表当日これに待ったを掛けるようなコメントを発表、更に同月22日には帝石の株を20.3%まで買い増した。日経新聞は、新日石が帝石及び国際石油との3社統合を提案するであろう、と報道した。結局、19日の「三社合意」で、新日石は国際石油と帝石の経営統合に賛成し、事業面及び資本面で統合会社と新日石が今後協力を検討する、ことが決まった。
 11月5日から12月19日までのほぼ1ヵ月半の間に関係者間でどのような水面下の駆け引きが行われたかは知る由もない。しかし5年前の2000年2月に当時の日石三菱(現新日石)が帝石の第三者割り当てを引き受け、筆頭株主になった際の記者発表の内容を読み返すと、そこには両社が「石油・天然ガス開発分野の幅広い提携」を進めつつ「国際的な競争力を有する体制の構築」を検討するため「第三者割当増資を日石三菱が引き受ける」と謳い上げられている。しかしその後協力の具体的な成果は何一つ無く、そして今回、帝石は新日石を袖にし国際石油に身を預けた。そこに浮かび上がるのは、新日石が帝石に嫌われ、挙句の果てに国際石油の筆頭株主(36.1%)である経済産業省に油揚げをさらわれたと見られても致し方のない結末である。
 元々帝石は日本石油(当時)の鉱業部門が昭和16年に国策会社として分離独立したものである。新日石は戦後、上流部門(石油開発)から下流部門(石油精製)までの一貫操業会社となることを悲願に、北海、ベトナム、マレーシアなどで石油・ガス開発を手がけ、今では15万B/Dの自社原油を所有するまでになった。同社にとって帝石との統合はその仕上げになるはずであった。
 一方、経済産業省は石油のほぼ全量を海外から輸入し、しかも産油国や欧米のメジャー(ExxonMobil, Shellなど)に供給ソースを抑えられている現状を打破するためにも、同省がイニシアティブを取って日本企業による海外での原油開発、いわゆる「和製メジャー」実現の意向が強くある。さらに経済成長が著しい中国やインドなどが産油国との提携や石油開発企業の買収等、国家主導で積極的なエネルギー確保に奔走している現状に経済産業省は焦りを募らせていると思われる。
 新会社の役員構成を見ると国際石油が新会社の会長、社長ポストを独占している。会長、社長はいずれも元経済産業省幹部であり、帝石の会長、社長は新会社の代表取締役ではあるものの肩書は無い。また新日石は社外取締役として1名が名を連ねているだけである。国際石油が帝石を呑み込んだことは誰の目にも明らかである。「三社合意」では新日石が新会社の株を買い増す可能性に触れているが、今後新日石が新会社に影響力を及ぼすことはかなり難しそうである。
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クウェート石油相、中国・ロシア訪問へ

2005-12-22 | OPECの動向
 クウェートのサバーハ石油相(現OPEC議長)は、将来の石油需給見通しについて協議するため世界第2位の石油消費国と産油国である中国及びロシア訪問の途についた。同石油相は出発に先立ちクウェートで、今回の訪問はOPECが進める産消対話戦略の一環であり、中国の今後のエネルギー需要と製油所新設計画を知りたい、と述べた。
 さらにクウェート自身としても12/5に中国とMoUを締結した石油精製・石油化学合弁事業(広州、総額50億ドル、製油所は20~40万B/Dで検討中)について交渉を完了させる意向を示し、ロシアについては10億ドルの債権問題を協議すると述べた。
 OPECは最近の石油価格高騰は製油所能力の不足によるガソリンなど石油製品の需給逼迫が原因であり、原油は十分に供給されているとしている。そのため消費国に下流部門への投資(製油所の新設)を求めており、今回のクウェートのように消費国と合弁製油所建設を目指す動きが活発になっている。
 一方、長期的に見て原油の余剰生産能力が低下していることは事実であり、OPECは産油国に対して既存の油田の生産能力アップや新規油田の開発などの生産増強投資を求めている。そして中国、インドなど今後ますます石油の需要が増大する国はエネルギーの安定確保を狙って産油国への上流部門(油田開発)投資に積極的な姿勢を示している。
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OPEC、現行生産枠を維持

2005-12-13 | OPECの動向
 OPEC(石油輸出国機構)は12日ウィーンで第138回臨時総会を開催、現行の生産枠2,800万B/Dを維持することを決定した。会議はイランのHamaneh新エネルギー相を加え、またオブザーバーとしてスーダン、シリア、エジプト、オマーン各国の石油相を迎えて行われた。会議終了後に概略以下のようなコミュニケが発表された。
 なお来年1月1日以降の新議長(1年毎の持ち回り)には現在のサバーハ・クウェート石油相に替わりナイジェリアのDaukour石油相を選出、1/31に臨時総会また3/8に通常総会をいずれもウィーンで開催することを決定した。
(コミュニケ概要)
・原油市況については、十分な供給と備蓄がなされているとの認識で一致した。
・現行の2,800万B/D生産枠は維持し、前回総会で需給状況を判断して追加増産するとした200万B/Dについては予定通り本年末までを期限とする。
・来年1/31にウィーンで臨時総会を開催し、2006年第二、第三四半期の生産レベルを協議する。
以上
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