その11.火中の栗を拾うサウジアラビア - ジェッダ産消会議をめぐって
6月22日、サウジアラビア紅海沿岸のジェッダで主要産油国と消費国36カ国のエネルギー担当閣僚及び著名な石油会社25社の首脳が集まり、高騰する原油価格の対策を話し合った。このジェッダ会議には日本から甘利経産相と渡新日本石油会長が出席している。会議の1週間前に原油価格はバレル当たり139.89ドルの史上最高値を記録し、会議開催時も130ドル台に張り付いたままであった。
原油価格は1年前に70ドル台に達している。この価格は通常の需給関係(ファンダメンタル)を無視したものであると受けとめられ、投機資金の流入が噂されたが、その後も価格は一本調子で上昇、わずか1年で2倍になったのである。フランス、インド、東南アジアなどではガソリンの値上げに対し激しい抗議デモが発生し各国ともその対策に追われている。
この間OPECは昨年9月、12月及び今年2月の3回にわたり総会を開催、また11月にはリヤドで加盟国首脳会議(OPECサミット)を開催している。9月の臨時総会では50万B/Dの増産を決議したが、価格の上昇は続き、9月総会直後には80ドルを突破した。そしてその後も騰勢は止まらず、10月には90ドル台に突入、12月のOPEC総会では増産が見送られたこともあり年末には99ドルを記録した。但し第二次オイルショック後に記録した当時の最高値40ドルは現在価格で100ドル強となるため、この時点では史上最高値という感覚はまだ市場関係者にはなく、比較的落ち着いた反応ぶりであった。
しかし年明け早々に100ドルを突破した頃からOPECの周囲がにわかに騒がしくなった。消費国側はOPECに対し再三にわたり増産を要求した。これに対しOPEC側の主張は、市場には十分な原油が供給されており異常な高価格は投機によるものである、と一貫しており2月の総会でも増産を見送った。この前後からサブプライムショックによるドル安、金利安を嫌った投機資金が市場に雪崩れ込み、原油価格は3月110ドル、4月120ドル、5月130ドルと毎月10ドルづつ上昇する異常な展開を見せ、遂に6月半ばには140ドル目前に達したのである。
ここでOPECのリーダーであるサウジアラビアがついに動き、ジェッダ会議開催に乗り出したのである。しかしサウジアラビア以外のOPEC加盟国は同会議の開催には反対であった。と言うのは会議に参加すれば消費国側から増産を迫られるのは目に見えており、増産に同意しなければOPECが非難の的になり、また仮に増産を決定しても石油価格が下落しなければ(その可能性はかなり高いと見込まれるのである)更なる増産を押し付けられる。いずれにしてもOPEC諸国にとってジェッダ会議に参加することは百害あって一利無しなのである。
増産するか否かはあくまでOPEC加盟国の専管事項であり、9月の次回総会で決定すべきである、というのがサウジアラビア以外の加盟国の姿勢である。このため一部の加盟国はジェッダ会議はOPECの自殺行為であるとして、会議を主催するサウジアラビアに不快感を抱くほどであった。実際OPEC議長のケリル・アルジェリア石油相などは、ジェッダ会議にはOPEC議長としてではなくアルジェリア石油相の資格で参加する、と述べサウジアラビアを含めた会議参加国を牽制している。
サウジアラビアは会議前にOPEC穏健派でGCC同盟国でもあるクウェイト及びUAEに増産を働きかけたようである。しかし会議では両国共具体的な増産計画に触れず、結局サウジアラビアだけが増産を表明する結果となった。その計画とは970万B/Dへの生産増強(すなわち50万B/D増産)及び2009年末までに生産量を1,250万B/Dに引き上げること、さらに必要であればその後1,500万B/Dまで生産能力を引き上げる、という内容であった。
サウジアラビアの増産計画は非常に野心的なものである。しかし1,500万B/D計画はその裏づけに乏しく、また目先の50万B/D増産が高騰した価格を引き下げるインパクトになるか市場では疑問視する声も多い。一方で今回のサウジアラビアの単独行動がOPECに亀裂をもたらすのではないかと懸念する関係者もいる。
ジェッダ会議を主催し、さらに単独の増産計画を打ち出したサウジアラビアは火中の栗を拾ったとも言えよう(なお6/24、クウェイトは来年々央から30万B/Dを増産すると発表した)。今後原油市況がどのように推移するのか、そして9月に予定されているOPEC総会でどのような方向が示されるのか、当分目が離せない状況である。
(第11回完)
(これまでの内容)
その8.原油120ドル時代に開催された第11回国際エネルギー・フォーラム
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