(注)本シリーズはHP「中東と石油」で一括全文をご覧いただけます。
(補) OPEC加盟国の石油収入と経常収支
本シリーズの最後にOPEC加盟国の石油収入と経常収支を取り上げます。これらはOPEC統計に示されたものであり、BP統計との比較を目的とした本シリーズとは色合いが違いますが、ここ数年で暴騰した原油価格が、OPEC加盟国の石油収入と経常収支を如何に大きく変動させたかを理解していただくためのものです。なお、石油価格については、図表「原油価格の推移(1976~2008年)」(http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/2D-2-97SpotCrudePrices.gif)及びBPエネルギー統計2009年版解説シリーズ:石油篇(5)原油価格」(http://www.k3.dion.ne.jp/~maedat/B13BP2009_oil_.pdf)をご参照ください。
(1)石油収入(原油輸出金額)
OPEC加盟国(13カ国)の2008年の石油収入合計額は史上初めて1兆ドルを超えた。前年比2,500億ドル、35%の大幅な増加であった。これはWTI原油価格が同年7月に147ドル(1バレル当り)の最高値を記録し、その後年末には30ドル台にまで急落したものの、年間平均価格が100ドル強であったことが最も大きな要因である。因みにOPEC原油の年間平均バスケット価格も2008年は94.45ドルであり、前年の69.08ドルに比べ37%アップしており、上記石油収入の増加は価格にスライドしたものであることがわかる。
OPECの中で最大の石油収入を誇っているのはサウジアラビアであり、同国の2008年の石油収入は2,830億ドルでOPEC全体の3割弱を占めている。サウジアラビアに次いで二番目に石油収入が多かったのはUAE(1,030億ドル)で、OPECの中で石油収入1千億ドルを超えたのはこの2カ国である。3位以下はイラン890億ドル、クウェイト840億ドル、ベネズエラ780億ドル、ナイジェリア750億ドル、アンゴラ640億ドル、イラク580億ドル、リビア550億ドルと続き、OPEC13カ国の中で石油収入が最も小さかったのはエクアドル(120億ドル)である。サウジアラビアの石油収入はOPEC下位グループ7ヶ国(アンゴラ、イラク、リビア、アルジェリア、カタール、インドネシア及びエクアドル)の合計額(2,950億ドル)に匹敵するものである。
上図は1988~2008年の石油収入の推移を見たものである(拡大図はhttp://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/2-E-2-90OpecValueOfOilExpor.gif参照)。1990年代は石油価格が低迷したため、OPEC加盟国の石油収入は年間1千億ドル台を低迷していたが、2000年に2千億ドル台を突破し、さらに2004年以降は急激に膨らんだことがわかる。2004年に3,800億ドルであったものが、2005年5,600億ドル、2006年6,600億ドル、2007年7,500億ドルと急上昇し、2008年には遂に1兆ドルを突破している。その間のOPECバスケット価格は、36.05ドル(04年)→50.64ドル(05年)→61.08ドル(06年)→69.08ドル(07年)→94.45ドル(08年)となっており、石油収入は石油価格と見事に比例しているのである。
(2)経常収支
OPEC加盟国の多くは歳入の殆どを石油収入に頼っており、従って経常収支は石油価格に大きく左右される。これは昨年のように石油価格が史上まれに見る高水準を維持した場合、大きなプラス要因となる。2008年はOPEC加盟国の全てが黒字を計上しており、13カ国の経常黒字合計額は4,700億ドルに達している。黒字幅が最も大きかったのはサウジアラビアの1,420億ドルである。同国だけで全体の3割を占めており、また2位のクウェイトの2倍以上の黒字額であった。サウジアラビアに続くクウェイトの黒字額は640億ドル、以下ベネズエラ(440億ドル)、UAE(430億ドル)、アルジェリア(371億ドル)、リビア(365億ドル)、カタール(322億ドル)と続いている。
上記(1)の石油収入の順位と比べアルジェリア、カタールの順位が高くなっているのは、両国には石油以外の天然ガスの収入があるためである。またイランやナイジェリアは石油収入に比べ経常収支の順位が低く、一方UAE及びクウェイトは逆に経常収支の順位が高い。これは前者の国々は人口が多いためそれに比例して経常支出も大きく、これに対して人口の少ない後者の国々は支出がすくないことが理由である。
経常収支の経年変化を見ると(詳細は図「OPEC13カ国の経常収支(1988~2008年)」http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/2-B-3-90OpecCurrentAccountB.gif参照)、1990年代はOPEC加盟国の多くが経常収支は赤字であった。特に湾岸戦争が勃発した1991年は、クウェイトを始めサウジアラビア、イランなどアラビア(ペルシャ)湾沿岸諸国では大幅な赤字を余儀なくされている。また1998年には原油価格が10ドル台前半まで落ち込んだため、このときはUAEとインドネシアを除く全ての加盟国が経常赤字を記録している。しかし2002年以降、各国の経常収支は急速に改善し、同年のOPEC13カ国の経常黒字合計額440億ドルは翌年には850億ドルに倍増、その後も2004年1,330億ドル、2005年2,630億ドル、2006年3,360億ドルと驚異的な伸びを示し、2002年から2006年までのわずか5年間で経常黒字幅は8倍近くになったのである。そして上述したとおり昨年は4,700億ドルに達し、2002年当時の10倍以上になっている。
(完)
(これまでの内容)
OPECとBPの石油統計を比較すれば------(1)はじめに、
埋蔵量 OPECとBPの石油統計を比較すれば------(2)埋蔵量(続き)
OPECとBPの石油統計を比較すれば------(3)生産量
OPECとBPの石油統計を比較すれば------(4)輸出量
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前田 高行
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