*HP「中東と石油」に本シリーズ(1)埋蔵量~(6)貿易(その3)が一括掲載されていますのでご覧ください。
BPが毎年恒例の「BP Statistical Report of World Energy 2009」を発表した。以下は同レポートの中から天然ガスに関する埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したものである。
天然ガス篇(3):世界の天然ガスの消費量
(1) 地域別・国別消費量
2008年の世界の天然ガス消費量は3兆187億立方メートル(以下㎥)であり、BP統計史上初めて3兆㎥を突破した。地域別では欧州・ユーラシアが1兆1,439億㎥と最も多く全体の38%を占めている。これに次ぐのが北米(8,244億㎥、27%)であり、これら2地域だけで世界のほぼ3分の2の天然ガスを消費している。3番目に多いのがアジア・大洋州4,853㎥(16%)で、その他の地域は中東3,271億㎥、中南米1,430億㎥、アフリカ949億㎥であった。アフリカの天然ガス消費量は世界全体の3%で、欧州・ユーラシアの12分の1に過ぎない。(図「2008年地域別天然ガス消費量」http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/2-D-3-95aGasConsumptionByRe.gif参照)
次に国別に見ると、最大の天然ガス消費国は米国であり、同国の2008年の消費量は6,572億㎥であった。これは全世界の22%に相当する。第2位はロシア(4,202億㎥、14%)、これに続くのがイラン(1,176億㎥)、カナダ(1,000億㎥)、英国(939億㎥)である。6位以下には日本(937億㎥)、ドイツ(820億㎥)、中国(807億㎥)、サウジアラビア(781億㎥)、イタリア(777億㎥)が名を連ねている。(表「国別天然ガス消費量ベスト20(2008年)」http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/1-D-3-95GasConsumptionByCountries.htm参照)
(2)天然ガス消費量の推移
1965年に6,510億㎥であった天然ガスの消費量は、2008年までの43年間常に前年を上回って増加している。1971年には1兆㎥、1991年に2兆㎥を超え、2008年にはついに3兆㎥の大台を超えた。
石油の場合は第二次オイルショック後の1980年から急激に消費量が減った例に見られるように、価格が高騰すると需要が減退すると言う市場商品と同様の現象がある。しかし天然ガスの場合は輸送方式がパイプライン或いはLNGの形であり、生産国と消費国が直結している点が石油とは異なっている。そしてこれら輸送施設を整備するために多くの時間とコストを必要とする反面、一旦設備が稼動すると長期かつ安定的に需要が伸びる傾向がある。天然ガスの消費量が過去43年間にわたり一貫して増加しているのはこのような天然ガスの特性によるものと考えられる。
上図「地域別天然ガス消費量の推移(1965~2008年)」は、全世界及び欧州・ユーラシア、北米、アジア・大洋州をはじめとする6地域の消費量の推移を見たものである(拡大図はhttp://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/2-D-3-95bGasConsumption1965.gif)。地域毎の生産量の推移にはいくつかの大きな特徴が見られる。1965年の世界の天然ガス消費量のうち71%は北米、残る24%を欧州・ユーラシアが占めており、その他アジア・大洋州、中南米、中東及びアフリカを合わせてもわずか5%にすぎなかった。その後、北米の消費量の伸びが小幅にとどまったのに対して、欧州・ユーラシア地域は1970年以降急速に消費が拡大し、1981年には北米を追い抜いている。そして1980年半ばから1990年初めまでは世界全体の消費の50%を同地域が占めていた。同地域の消費量は2001年に1兆㎥を超え、2008年には1兆1,440億㎥に達しているが、アジア・大洋州の消費量が急速に伸びているため、世界全体に占める割合は徐々に低下しており2008年は38%となっている。
アジア・大洋州の1965年の消費量はわずか58億㎥であり中南米(142億㎥)、中東(101億㎥)より少なかったが、1980年頃から増加傾向が顕著となり特に90年以降は消費が急激に増大している。同地域の2000年の消費量は2,949億㎥であり世界全体の12%を占めたが、2008年には消費量(4,850億㎥)及びシェア(16%)とも拡大している。
北米、欧州・ユーラシア及びアジア・大洋州の地域の違いは先に述べた輸送設備の拡充が消費の増大をもたらすことの証しであると言えよう。即ち北米では1965年以前に既に主要なパイプラインが完成していたのに対し、欧州・ユーラシアでは旺盛な需要に対応して1970年以降ロシア方面から西ヨーロッパ向けのパイプラインの能力が増強されている。この場合、パイプラインの増設が西ヨーロッパの更なる需要増加を招く一方、ロシア及び中央アジア諸国などの天然ガス生産国では新たなガス田の開発が促進され、相互に呼応して地域全体の消費を押し上げる相乗効果もあったと考えられる。そしてアジア・大洋州の場合は、日本が先陣を切ったLNGの利用が、韓国、台湾などに普及し、また中国もLNG輸入を開始したことにより地域における天然ガスの消費が拡大している。
天然ガスは石油に比べて炭酸ガスや有害物質の排出量が少ない「環境に優しいエネルギー」として今後ますます需要が拡大することは間違いない。世界的にも新しいパイプラインやLNGの搬出・運搬・受入設備が増強されている。また石油の可採年数が42年に対して天然ガスのそれは60年であり(本シリーズ石油篇及び天然ガス篇第1回参照)、天然ガスの開発と生産拡大の余地は大きく、今後消費拡大のペースは続くものと思われる。
(天然ガス篇第3回完)
(これまでの内容)
天然ガス篇(2):世界の天然ガスの生産量
天然ガス篇(1):世界の天然ガスの埋蔵量
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