III. 5カ年(2019-2023年) 業績推移の比較
ここでは2019年から2023年までの過去5年間の5社の業績の推移を比較検討する。因みに業績と密接に関係している原油価格(Brent)の動きを見ると、2019年は年間平均価格が64ドルであったが、2020年はコロナ禍に直撃され42ドルに急落した。そして2021年は71ドルまで戻り、さらに2022年には大幅に上昇し100ドルを超えた。しかし2023年は再び83ドルに下落している[1]。このように原油価格は過去5年間に激しく変動しており、これに引きずられて5社の売上高及び利益は以下に見る通り大きく上下している。
(原油価格と連動する売上高!)
1.売上高[2]
(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-20.pdf参照)
2019年の売上高トップはShellの3,449億ドルで5社の中では唯一3千億ドルを超えている。これに次ぐTotalEnergiesとExxonMobilがそれぞれ2,784億ドル及び2,649億ドルであった。第4位はbpの2,003億ドル、最も少ないChevronは1,399億ドルでトップShellの4割にとどまっている。
2020年の売上高は各社とも前年比3割乃至6割に急減した。トップのExxonMobil、Shellの売上高は1,800億ドル強にとどまり、Chevronは1千億ドルを下回った。中でもTotalEnergiesの落ち込みは大きく対前年比6割減であった。
しかし2020年を底に原油価格が急伸した2021年、22年には売り上げは急回復、各社とも2年間で2倍以上の売上増を記録、例えばExxonMobilの2022年売上高は4,137億ドルに達し、Shellも3,813億ドルであった。
2023年には原油価格が83ドルに下がり各社売上高も落ち込んだ。このように石油企業の売上高は原油価格の変動に大きく左右されている。
(続く)
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前田 高行
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[1] 米EIA資料による。https://www.eia.gov/opendata/qb.php?sdid=PET.RBRTE.A
[2] 「売上高」は各社決算資料から下記項目を抽出している。
ExxonMobil: Total revenues and other income
Shell: Total revenue and other income
bp: Total revenue and other income
TotalEnergies: Sales
Chevron: Sales and other operating revenues
(英語版)
(アラビア語版)
(目次)
第5章:二つのこよみ(西暦とヒジュラ暦)(8)
122 ヒジュラ暦1400年(西暦1980年)前後(4/5)
サダム・フセインはスンニ派ではあるがイラク南部には多数のシーア派住民が住んでおり、イラク全体でみてもシーア派の方が多い。サウジアラビア、クウェイト、バハレーンのスンニ派君主制国家も国内に多数のシーア派を抱えており、バハレーンは人口の大半がシーア派である。イランのホメイニ師がこれらシーア派住民に蜂起を呼びかけたことで各国は危機感を募らせた。湾岸6か国が1981年(ヒジュラ暦1402年)にGCC(湾岸協力機構)を結成したのはとりもなおさずシーア派住民が蜂起して君主体制を打倒するのではないかという恐怖心に駆られたからに他ならない。フセインはイラン・イラク戦争に宗派対立の構図を持ち込んで湾岸産油国を戦争に巻き込んだ。GCC諸国はフセインの術策に陥ったとも言えるのである。
イラン・イラク戦争勃発と同じ1979年12月にはソ連がアフガニスタンに侵攻しアフガン戦争が勃発している。西暦1980年前後、すなわちヒジュラ暦の14世紀と15世紀をまたぐ数年間はこれら二つの戦争が続いた時代であった。
(続く)
荒葉 一也
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(石油関連ニュース)
原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil
・カタール:LNG生産1,600万トン増強。2030年には年産1.42億トンへ。
・イラン-パキスタンのガスパイプライン、10年遅れでプロジェクト再開。
(中東関連ニュース)
・3/10日前後のラマダン前のガザ停戦目指しカタール他の仲介交渉大詰め。
・イスラエル軍、Rafah攻撃に対するガザ市民の退避計画提示。詳細示さず。
・米現役兵、ワシントンのイスラエル大使館前で抗議の焼身自殺。
・UAEムバラダとGoldman Sachsがアジア大洋州向け10億ドル共同借款契約。
II. 2023年の業績比較 (続き)
7. 2023年末バランスシート(B/S)
(2)資本・負債(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-07b.pdf 参照)
2023年末の各社の資本(Equity)、固定負債(Non-current liabilities)及び流動負債(Current liabilities)の合計規模は、Shellが4,063億ドルで最も大きい。これに次ぐのはExxonMobilの3,763億ドルであり、TotalEnergies及びbpは2,800億ドル強で並んでいる。Chevronは2,616億ドルで5社の中ではもっとも小さい。
資本、固定負債、流動負債にわけて見ると以下のとおりである。なおChevronの発表資料では負債の内訳が示されていないので4社について比較する。
(bpの資本額はExxonMobilの4割!)
(a)資本(Equity)
資本が最も多いのはExxonMobilの2,125億ドルであり、次いでShellが1,884億ドル、Chevron1,610億ドル、TotalEnergies1,195億ドルである。bpは5社の中で唯一1千億ドルを下回る855億ドルにとどまり、ExxonMobilの4割に過ぎない。
(固定負債が1千億ドルを超えるShellとbp!)
(b)固定負債(Non-current liabilities)
固定負債が最も多いのはShellの1,224億ドルであり、これに次ぐのがbpの1,087億ドルである。ExxonMobilとTotalEnergiesの固定負債は千億ドルを切っており、それぞれ985億ドルおよび754億ドルである。
(資本が負債を上回る米系2社、下回る欧州系3社!)
(c)流動負債(Current liabilities)
流動負債が最も多いのはShellの955億ドルであり、他の3社はTotalEnergies888億ドル、bp861億ドル、ExxonMobil653億ドルである。Shellの流動負債はExxonMobilより300億ドル多いことがわかる。
資本と負債の比率を見ると、Chevronは資本(62%):負債(38%)であり、5社中では資本の比率が最も高い。ExxonMobilは56%:44%であり、資本が負債を上回っている。これに対して欧州系3社はいずれも負債が資本を上回っている。
また負債に占める固定負債と流動負債の比率を見るとExxonMobilは固定負債60%:流動負債40%と固定負債の割合が高い。Shell及びbpは共に56%対44%であり、ExxonMobil同様固定負債が流動負債を上回っている。これに対してTotalEnergiesのそれは46%対54%であり、流動負債が固定負債を上回っている。
(続く)
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前田 高行
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II. 2023年の業績比較 (続き)
7. 2023年末バランスシート(B/S)
2023年末の5社のバランスシートを比較すると以下のとおりである。
(資産規模が最も大きいShell!)
(1) 資産(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-07a.pdf 参照)
2023年末のB/Sで資産(Assets)規模はShellが4,063億ドルで最も大きい。これに次ぐのはExxonMobilの3,763億ドルであり、TotalEnergies及びbpは2,800億ドル強で並んでいる。Chevronの資産総額は2,616億ドルで5社の中ではもっとも小さく、Shellの6割強にとどまっている。
資産の内容を固定資産(Non-current assets)と流動資産(Current assets)にわけて見ると以下のとおりである。なおChevronの発表資料では資産の内訳が示されていないので4社について比較する。
(固定資産の比率が高いExxonMobil!)
(a)固定資産(Non-current assets)
固定資産が多いのはExxonMobilとShellでそれぞれ2,797億ドルおよび2,722億ドルである。TotalEnergies及びbpの固定資産は1,841億ドルおよび1,761億ドルであり、ExxonMobilあるいはShellより約1,000億ドル少ない。
固定資産が資産総額に占める割合はExxonMobilが74%で最も高く、その他3社はShell(67%)、TotalEneergies (65%)及びbp (63%)である。
(流動資産が多いShell、他社はShellの7割強!)
(b)流動資産(Current Assets)
流動資産が多いのはShellの1,341億ドルである。他の3社はbp1,041億ドル、Totalおよび2,722億ドルであの7割強である。る。TotalEnergies及びbpの固定資産は1,841億ドルおよび1,761億ドルであり、ExxonMobilあるいはShellより約100億ドル少ない。
流動資産が資産総額に占める割合はbpが37%で最も高く、その他3社はTotalEnergies(35%)、Shell(33%)及びExxonMobil(26%)である。
(続く)
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(英語版)
(アラビア語版)
(目次)
第5章:二つのこよみ(西暦とヒジュラ暦)(7)
121 ヒジュラ暦1400年(西暦1980年)前後(3/5)
翌1979年1月(ヒジュラ暦1399年、以下わかりやすいため西暦で表す)にイラン革命が発生、7月にはイラクのサダム・フセインが大統領に就任、エジプトに代わるアラブ盟主の座を狙う。8月にはサウジアラビアでマッカ神殿占拠事件が発生、サウド家を震撼させた。そして翌1980年9月(ヒジュラ暦1401年、すなわちヒジュラ15世紀の最初の年)にはイラン・イラク戦争が発生、イランのホメイニ師がイスラームという宗教の盟主を目指し、他方イラクのサダム・フセインはエジプトに代わるアラブ民族の盟主を目指して宗教と民族が地域の覇権を競う。
この時、サダム・フセインはこの戦争をイスラームのシーア派とスンニ派の争いと規定し同じスンニ派のサウジアラビアなど湾岸産油国から軍資金を引き出した。しかしサダム・フセインのイラクもサウド家のサウジアラビアなど湾岸の君主制国家も実態は世俗国家そのものである。イラン・イラク紛争は宗派間の争いではなかった。緒戦で苦戦したイランで国民の志願兵が雲霞のごとく戦場に繰り出したのは宗教的使命感に駆られたイラン国民がアラブ人の世俗国家に戦いを挑んだ「聖戦(ジハード)」と見るのが正しい。
(続く)
荒葉 一也
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II. 2023年の業績比較 (続き)
(石油の比率が高いbp、天然ガスの比率が高いChevron!)
6. 石油及び天然ガスの生産量
(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-07.pdf 参照)
(1)石油生産量[1]
石油生産量が最も多かったのはExxonMobilの2,449千B/Dであり、5社の中でただ一社2百万B/Dを超えている。ExxonMobilに次いで生産量が多いのはChevron(1,830千B/D)でExxonMobilの75%である。第3位、第4位はTotalEnergiesとShellがそれぞれ1,550千B/D、1,325千B/Dであった。bpは最も少なく1,010千B/Dであり、トップExxonMobilの4割にとどまっている。
(2)天然ガス生産量[2]
天然ガスの生産量が多いのはChevronとExxonMobilであり、両社の生産量は共に日産77億立方フィートであった。3位はTotalEnergies50億立方フィートであり、Shellとbpは上位3社よりかなり少なく、それぞれ28億立方フィート、22億立方フィートであった。
(3)石油・天然ガス合計生産量[3]
石油と天然ガスの合計生産量が最も多いのはExxonMobilであり石油換算で3,738千B/D、これに次ぐのがChevron3,120千B/Dであり、米系2社が合計生産量3百万B/Dを超えている。第3位以下はTotalEnergies(2,483千B/D)、Shell(1,800千B/D)と続き、bpは最も少ない1,421千B/Dであった。ExxonMobilの生産量を100とした場合、他の4社はChevron83、TotalEnergies66、Shell48、BPは37となっている。
各社の石油と天然ガスの比率を見ると、ExxonMobilは石油66%、天然ガス34%である。5社の中では石油の比率が最も高いのはbpの73%であり、その他3社の石油:天然ガスの比率はそれぞれ、Chevron(石油59%:天然ガス41%)、TotalEnergies(石油62%:天然ガス38%)、Shell(石油74%:天然ガス26%)である。5社はいずれも石油の割合が天然ガスを上回っているが、中でもbpとShellは石油の比率が7割以上に達している。
米系2社の石油・天然ガス生産量はShell、TotalEnergiesおよびbpのヨーロッパ系3社を大きく上回っている。地球温暖化問題を前に化石エネルギーから太陽光など自然エネルギーへの転換が叫ばれている中で、米系石油企業は当面化石エネルギーの時代が続くと見ており、一方ヨーロッパ系石油企業は自然エネルギーへの転換を急いでいると見られる。
しかし、今期の業績面で見た場合、米系2社が欧州系3社を上回っている(本稿I「各社業績概要」参照)ことは興味深い結果である。
(続く)
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行
〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp
[1] 「石油生産量」は各社決算資料から下記項目を抽出している。
ExxonMobil: Net production of crude oil, natural gas liquid, bitumen and tsynthetic oil
Shell: Liquid production available for sale
bp: Production (net of royalties), Liquids
TotalEnergies: 3.3 Production, Liquids
Chevron: Net liquid production
[2] 「天然ガス生産量」は各社決算資料から下記項目を抽出している。
ExxonMobil: Natural gas production available for sale
Shell: Natural gas production available for sale
bp: Production (net of royalities), Natural gas
TotalEnergies: Hydrocarbon production, Gas
Chevron: Net natural gas production, Worldwide
[3] 「石油・天然ガス合計生産量」は各社決算資料から下記項目を抽出している。
ExxonMobil: Production, Earnings and Volume Summary
Shell: Total production in barrels of oil equivalent
bp: Production (net of royalities), Total hydrocarbons
TotalEnergies: 3.3 Production
Chevron: Total net oil-eqivalent production
2/20 ENEOS/出光興産
北海道で国内最大規模となるグリーン水素サプライチェーン構築に向けた検討を開始
https://www.idemitsu.com/jp/content/100044858.pdf
2/21 ENEOS
グループ会社会長による不適切行為について
https://www.eneos.co.jp/newsrelease/upload_pdf/20240221_01_01_2008355.pdf
2/21 TotalEnergies
Airbus and TotalEnergies Sign a Strategic Partnership in Sustainable Aviation Fuel
https://totalenergies.com/media/news/press-releases/airbus-and-totalenergies-sign-strategic-partnership-sustainable-aviation
2/22 石油連盟
木藤 石油連盟会長定例記者会見 発言要旨・配布資料
https://www.paj.gr.jp/news/887