石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

JXTG/出光興産と五大国際石油企業の2019年7-9月期業績比較 (3)

2019-11-30 | 海外・国内石油企業の業績

本レポートは「マイライブラリー」でまとめてご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0486MajorJxtgIdemitsu2019JulSep.pdf

 

(圧倒的な上流部門の利益格差!)

4.上流・下流部門の業績比較

 JXTG及び出光は元来石油精製事業を専業とし市場も日本国内にとどまっていた。その後、吸収合併を重ね或は事業の多角化を進めた結果、例えばJXTGは日本鉱業の吸収合併により非鉄金属事業が同社の事業の一翼を占めている。また出光は豪州石炭事業或は高機能材などに手を広げている。

 

 これに比べメジャーズは創業当初から石油・天然ガスの開発生産に取り組み、また世界を相手に事業展開を行うエネルギー専業企業としての長い歴史を有している。JXTG、出光両社も石油天然ガスの開発に取り組んでいるが、メジャーズなど世界のエネルギー企業に比べて大きく出遅れており、メジャーズと日系2社の上流部門利益及び下流部門の利益は以下に見るとおり巨大な格差がある。

 

 ここではJXTGについては決算書が示すセグメント別業績の内、エネルギー事業(いわゆる石油下流部門)と石油・天然ガス開発事業(いわゆる上流部門)の営業利益を取り上げ、また出光もセグメント別営業利益の燃料油部門と資源部門を取り上げてメジャー5社と比較する。

 

4-1上流部門の利益 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-13.pdf 参照)

日系2社の上流部門の利益はJXTGが116億円(1億600万ドル)、出光は103億円(9,500万ドル)であった。これに対してメジャー5社の上流部門の利益はChevronが27億ドル、ExxonMobil 22億ドル、BP 21億ドルであり、TotalとShellが17億ドルで並んでいる。日系2社はいずれも1億ドル前後にとどまっており、欧米メジャーとの格差は非常に大きい。

 

4-2下流部門の利益 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-14.pdf 参照)

日系2社の下流部門の利益は、JXTGが362億円(3.3億ドル)の利益に対し、出光は107億円(9,900万ドル)の赤字であった。一方メジャーで下流部門の利益が最も多いのはShellの26億ドルであり、続いてBP 19億ドル、ExxonMobil12億ドル、Total 10億ドル、Chevron 8億ドルの利益であった。メジャーズ5社はJXTGに比べると、Shellは20倍、最も少ないChevronでも2.5倍の利益を計上している。

 

なお各社の上流部門と下流部門の利益を比較すると、メジャーズ5社は上流部門が下流部門の2~8倍の高い利益を出している。一方、JXTGは逆に下流部門が上流部門の3倍の利益を上げており、欧米メジャーとは逆の利益構造である。これには種々の要因が考えられるが、一つの要因として現在日本国内ではガソリン価格は原油価格の変動に応じ各社が適正な利潤を確保できるいわゆる価格転嫁が認められているためと言えよう。

 

以上

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

 

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石油と中東のニュース(11月30日)

2019-11-30 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil

(石油関連ニュース)

・ロイターがエネルギー専門家アンケート:来年は供給過多で価格弱含み。OPECは厳しい対応迫られる

(中東関連ニュース)

・イラク首相、デモ抗議とシーア派指導者に屈して辞任

・トルコ、シリアのクルド掃討に西欧が反対ならシリアNATO東欧防衛計画に拒否権発動の意向

・サウジアラムコIPO、予定額256億ドルに443億ドルの応募。締め切りは来週水曜

・米中と互角の競争、イスラエルのドローン。軍務経験豊かな開発者、対パレスチナなど実証実験も豊富

 

 

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今週の各社プレスリリースから(11/24-11/30)

2019-11-30 | 今週のエネルギー関連新聞発表

11/25 三菱商事/中部電力 

オランダ総合エネルギー事業会社Eneco社の売却入札における優先交渉権獲得 

https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2019/html/0000038681.html

 

11/26 丸紅/中部電力他 

愛知県蒲郡市において発電出力 50,000kW の木質専焼バイオマス発電所を開発 ~2023 年 8 月の運転開始を目指します~ 

https://www.marubeni.com/jp/news/2019/release/20191126.pdf

 

11/27 三井物産 

豪州グローブナー炭鉱の権益取得 

https://www.mitsui.com/jp/ja/release/2019/1230191_11203.html

 

11/28 JXTGホールディングス 

JXTGグループの運営体制および商号の変更について 

https://www.hd.jxtg-group.co.jp/newsrelease/20191128_01_01_0951897.pdf

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今週の各社プレスリリースから(11/24-11/30)

2019-11-30 | 今週のエネルギー関連新聞発表

11/25 三菱商事/中部電力 

オランダ総合エネルギー事業会社Eneco社の売却入札における優先交渉権獲得 

https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2019/html/0000038681.html

 

11/26 丸紅/中部電力他 

愛知県蒲郡市において発電出力 50,000kW の木質専焼バイオマス発電所を開発 ~2023 年 8 月の運転開始を目指します~ 

https://www.marubeni.com/jp/news/2019/release/20191126.pdf

 

11/27 三井物産 

豪州グローブナー炭鉱の権益取得 

https://www.mitsui.com/jp/ja/release/2019/1230191_11203.html

 

11/28 JXTGホールディングス 

JXTGグループの運営体制および商号の変更について 

https://www.hd.jxtg-group.co.jp/newsrelease/20191128_01_01_0951897.pdf

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見果てぬ平和 - 中東の戦後70年(16)

2019-11-29 | その他

ホームページ:OCININITIATIVE 

 

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第2章:戦後世界のうねり:植民地時代の終焉とブロック化する世界

 

荒葉 一也

E-mail: areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

 

2.ラ・マルセイエーズとインターナショナルの歌

 第二次世界大戦は資本主義国家の米英仏と社会主義国家のソ連が共同して全体主義国家ドイツ・日本と戦って勝った戦争であった。わずか半世紀足らずの間に二度の世界規模の戦争を経験し疲弊した世界は国際連合を設立し恒久的な平和を追求した。

 

 国連憲章は第一条で「国際の平和及び安全を維持すること」を目的とすると明記した。誰もが戦争は二度と御免であった。だが思想の異なる二大陣営の平和はすぐにほころびを見せた。但し両陣営が直接対決する「熱い戦争」をかろうじて踏みとどまり、「冷戦」と言う形の睨み合いが始まった。「冷戦」とは言え世界各地では西側資本主義諸国とソ連社会主義国両陣営の代理戦争と言う形で局地的な「熱い戦争」は絶えなかった。

 

 それは中東では軍事クーデタと言う形の革命の形をとった。エジプトでは英国の支援を受ける王政派に対しソ連の支援を受けたナセルたち青年将校団との対決であり革命であった。またシリアでは実質的な権力を手放すまいとして特定少数派部族を支援するフランスとソ連の軍事援助を受けた多数派部族による部族間の権力争奪闘争であった。

 

当時は階級闘争の名のもとソ連による社会主義の嵐が世界に吹き荒れた。1952年にはエジプトで7月革命が起こり、同じ年の5月に極東の日本ではメーデー事件が発生した。そこでは国際的な労働歌「インターナショナル」の合唱が流れた。中東のシリアでも反フランスの都市インテリたちにより同じ歌が流れ、それに対して駐屯するフランス兵たちは駐屯地におけるトリコロール(三色旗)掲揚式で毎日のごとく国歌「ラ・マルセイエーズ」を大声で歌っていたものと思われる。

 

実は両方の歌詞は驚くほど似通っている。列記すると以下の通りである。

 

「インターナショナル」歌詞:

起て飢えたる者よ 今ぞ日は近し

醒めよ我が同胞(はらから) 暁(あかつき)は来ぬ

暴虐の鎖 断つ日 旗は血に燃えて

海を隔てつ我等 腕(かいな)結びゆく

 いざ闘わん いざ 奮い立て いざ

 あぁ インターナショナル 我等がもの

 いざ闘わん いざ 奮い立て いざ

 あぁ インターナショナル 我等がもの

 

「ラ・マルセイエーズ」歌詞:

行こう 祖国の子らよ

栄光の日が来た!

我らに向かって 暴君の

血まみれの旗が 掲げられた

血まみれの旗が 掲げられた

聞こえるか 戦場の

残忍な敵兵の咆哮を?

奴らは我らの元に来て

我らの子と妻の 喉を掻き切る!

武器を取れ 市民らよ

隊列を組め

進もう 進もう!

汚れた血が

我らの畑の畝を満たすまで!

 

両方の歌詞が余りにも似通っていることに読者は驚かれるであろう。種を明かせば両方とも作詞はフランス人で、歌が作られた背景は、「インターナショナル」は1871年のパリ・コミューンの時に「ラ・マルセイエーズ」の歌詞として作られたものであり、その10数年後に現在の曲が作曲されたものである。一方、「ラ・マルセイエーズ」はフランス革命のときに作詞作曲されたものである。

 

つまり両方の歌詞は双子と言って差し支えないほど似通っているのである。と同時に歌詞の内容は現代人の感覚ではとてもついていけないようなどぎついものと言えよう。フランス人たちが今でも国民的一体感を醸し出すような事件あるいはイベントに際して「ラ・マルセイエーズ」を歌うようであるが、彼ら自身がどのような気持ちで歌詞を読み込んで歌っているのかちょっと不思議な気がするほど激越な歌詞なのである。

 

フランスの支配地シリアで駐屯兵たちは「ラ・マルセイエーズ」を歌い、兵舎の外では現地のアラブ人たちが「インターナショナル」を歌う。自国領土内ならともかくフランス兵たちが外地で武器を取れなどと誰に向かって歌っているのであろうか。現地のアラブ人たちにとっては歌詞の対象となる明白な敵(フランス)が目の前にいる。

 

どちらの戦意が鼓舞されたかは言うまでもないであろう。仏軍の戦意は萎え彼らは撤退するのである。その後釜にシリアに入り込んできたのはソ連である。敵対する米国の手前自ら派兵するリスクは大きいためソ連は地中海沿岸のタルトス港の一部を借り受け軍港とした。ロシアは帝政時代の昔からバルト海とは異なる不凍港を求めて常に南進政策に取りつかれてきた。それが黒海のセバストポール軍港であるが、そこから地中海に出るにはトルコのボスポラス海峡を通過しなければならず何かと不都合である。タルトス軍港はソ連にとって地中海における橋頭保である。ソ連崩壊の後を受けて生まれた現在のロシア共和国にとってもタルトは死守すべき軍港であることは間違いない。

 

(続く)

 

 

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JXTG/出光興産と五大国際石油企業の2019年7-9月期業績比較 (2)

2019-11-29 | 海外・国内石油企業の業績

本レポートは「マイライブラリー」でまとめてご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0486MajorJxtgIdemitsu2019JulSep.pdf

 

(JXTGの売上高はShellの4分の1、出光は6分の1!)

1.売上高 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-10.pdf 参照)

2019年7-9月期のJXTGの売上高は2兆5,482億円、出光は1兆5,237億円である。これをJXTGは1ドル=109円、出光は1ドル=108.6円で換算すると(換算レートは各社の決算説明資料から引用、以下同様)、JXTGは234億ドル、出光は140億ドルとなる。

これに対してメジャーズ5社の同期の売上高は最も多いShellが895億ドル、ついでBP 683億ドル、ExxonMobil 650億ドル、Total 486億ドル、Chevron 361億ドルである。JXTGはメジャーズ最大のShellの4分の1であり、出光は6分の1にとどまっている。メジャーズの中で最も売上高が少ないChevronと比べてもJXTGは6割強、出光は4割弱である。売り上げ規模で見れば日本企業と欧米企業の差は大きい。

 

(Shell、ExxonMobilに比べ大きく見劣りする日系2社の利益!)

2.純利益 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-11.pdf 参照)

 Shell、ExxonMobilなどメジャーズ4社(BPは欠損)と日系2社の純利益は売上高以上に大きな格差がある。JXTGの7-9月期の純利益は537億円(4.9億ドル)であり、出光の純利益は94億円(8,600万ドル)であった。一方メジャーの同期間の利益はShellの59億ドルを筆頭に、以下ExxonMobil 32億ドル、Total 28億ドル、Chevron 26億ドルであり、BPだけは7億ドルの欠損であった。JXTGの利益はメジャーズの中で最も利益が高いShellの8%、出光は1.5%に過ぎない。

 

(メジャーズ4社の利益率は5%前後、2%にとどまるJXTGの利益率!)

3.売上高利益率 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-12.pdf 参照)

 売上高利益率を比べてみると、利益率が最も高いのはChevronの7.1%であり、これに次ぐのがShell 6.6%、さらにTotal 5.8%、ExxonMobil 4.9%と続き、BPは▲1.1%であった。これに対しJXTGの売上高利益率は2.1%でとBPを除く4社と比べると2分の1から3分の1にとどまっている。また出光の利益率は0.6%であり、JXTGよりさらに低い水準である。

 

(続く)

 

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        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

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JXTG/出光興産と五大国際石油企業の2019年7-9月期業績比較 (1)

2019-11-28 | 海外・国内石油企業の業績

 

本レポートは「マイライブラリー」でまとめてご覧いただけます。

 

http://mylibrary.maeda1.jp/0486MajorJxtgIdemitsu2019JulSep.pdf

 

 

はじめに

 国内1位、2位の石油企業JXTGホールディングス(以下JXTG)と出光興産(出光昭和シェル、以下 出光)の9月期決算が相次いで発表された。JXTGは2017年4月にJXホールディングスと東燃ゼネラル石油グループが合併して発足した会社であり、出光は今年4月に旧出光興産と昭和シェル石油が合併して設立された会社である。

 

以下は今回のJXTG及び出光の決算報告の中から売上高、純利益、売上高利益率、上流部門利益及び下流部門利益を取り上げ、国際石油企業メジャー5社(Shell, ExxonMobil, BP, Total及びChevron、以下メジャーズ)と比較したものである。

 

JXTG及び出光の決算期は4月から翌年3月までであり、これに対してメジャーズは四半期決算をメインとし、その間、1-6月半年決算、1-9月の9カ月決算、年末に1-12月の年間決算を開示している。なお日本企業2社の決算は円建てであるが、各社の決算付属資料ではJXTGは109円/ドル、出光は108.6円/ドルの為替レートが明記されているため、本資料では便宜上それぞれの為替レートで換算したドル建て表示で比較している。

 

メジャー各社の昨年1-12月決算及び今年7-9月(第3四半期)の決算比較については下記のレポートを参照されたい。

 

「五大国際石油企業2018年業績速報シリーズ」(2018.3.2付け)

http://mylibrary.maeda1.jp/0459OilMajor2018.pdf

「五大国際石油企業2019年7-9月期決算速報」

http://mylibrary.maeda1.jp/0483OilMajor2019-3rdQtr.pdf

 

 またメジャー五社及びJXTGの詳細な決算資料は下記の各社ホームページをご覧ください。

ExxonMobil:

https://news.exxonmobil.com/press-release/exxonmobil-earns-32-billion-third-quarter-2019

Shell:

https://www.shell.com/media/news-and-media-releases/2019/third-quarter-2019-results-annou ncement.html

BP:

https://www.bp.com/en/global/corporate/news-and-insights/press-releases/third-quarter-2019 -results.html

Total:

https://www.total.com/en/media/news/press-releases/third-quarter-2019-results

Chevron:

https://www.chevron.com/stories/chevron-reports-third-quarter-net-income-of-2-6-billion

 

JXTGホールディングス:

https://www.hd.jxtg-group.co.jp/ir/library/statement/

 

出光興産:

https://www.idss.co.jp/content/100029059.pdf

 

(続く)

 

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石油と中東のニュース(11月28日)

2019-11-28 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil

(石油関連ニュース)

(中東関連ニュース)

・イラク、デモ暴徒がNajafのイラン領事館に放火

・サウジ皇太子、UAEを公式訪問。イエメン内戦終結、アラムコ株購入等について協議か

 

 

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石油と中東のニュース(11月26日)

2019-11-26 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil

(石油関連ニュース)

・カタール、LNG生産体制を2027年までに現在の7,700万トン/年から1.26億トンに増強

・アジアの製油マージン最低水準に。11月はバレル当たり$1.19の損失

・中国の10月サウジ原油輸入76%増。ベネズエラ産はゼロに

・クウェイト、カタールが米のペルシャ湾共同警備構想(IMSC)に参加

・仏、米に対抗してUAEの自国海軍基地ベースにペルシャ湾警備体制発足。他国の参加は未定

(中東関連ニュース)

・トルコ大統領、カタール訪問

・アラブ連盟緊急外相会議で米のイスラエル入植容認を非難

・サウジアラムコIPOの個人投資家応募総額58億ドル、28日に最終締め切り。 *

・サウジ、歯科医を来年8月までに30%自国民化

・アブダビで世界最大級の太陽光発電プラント、IPP方式で入札

 

*アラムコIPO関連参考レポート:

姿を見せないサウジの財閥」(2019年11月)

サウジアラムコと五大国際石油企業の1-6月業績比較」(2019年9月)

先の見えないアラムコIPO」(2018年4月)

サウジアラムコIPOの行方は?」(2017年3月)

 

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姿を見せないサウジの財閥―ムハンマド皇太子との冷たい関係

2019-11-25 | その他

(英語版)

(アラビア語版)

2019.11.25

 

メディアが報じない財閥の動向

サウジの最近の報道を見ると奇妙なことに気づかされる。それは財閥企業の活動がほとんど報じられていないことである。同国にはアルワリード王子率いる企業集団Kingdom Holdingやトヨタ自動車総代理店のAbdul Latif Jameel (ALJ)をはじめ、最も古い歴史を誇るザイネル財閥、ゼネコン最大のビン・ラーデン財閥、工業財閥のザーミル、不動産・ホテルを運営するアル・ファイサリア財閥など多数の財閥がある。これらの企業グループが行う外資との提携、M&Aなどはメディアに頻繁に報道されていた。

 

しかし現地紙インターネット版を見る限り、2017年頃を境にこれら財閥のニュースが極端に少なくなっている。それはサルマン現国王の子息ムハンマド(通称MbS)が野心的な経済改革政策「ビジョン2030」を打ち出し、さらに皇太子に即位して実質的に国政の全権を掌握した時期と奇妙に符合しているのである。

 

現在、同国の財閥はMbSに直接かかわることを避けており、財閥とMbSは冷戦状態にある。

 

予兆:汚職摘発に名を借りた私有財産の没収

 その予兆は一昨年11月のリッツカールトン幽閉事件である。これはムハンマド皇太子がアブダッラー前国王子息や高級官僚だけでなくアルワリード王子、ビン・ラーデン財閥当主などを汚職容疑で逮捕拘束した事件である。これは政敵の追放が主たる目的であったことは明らかである。被疑者たちには莫大な罰金が科された。汚職摘発に名を借りた私有財産の没収である。捜査及び公判の詳細は公開されることなく事件は闇に葬られた。ビン・ラーデン当主は株式の36%を政府に差し出し、MbS率いるPFI(公共投資基金)がビン・ラーデン社の筆頭株主になったのである。MbSに対する警戒感が一挙に民間財閥に広がったことは言うまでもない。

 

なり手のない商工会議所連盟会頭

リッツカールトン幽閉事件は昨年7月の商工会議所連盟会頭選出問題に波及した。サウジ民間経営者の最高ポストである連盟会頭にTaif商工会議所会頭が、また連盟副会頭にはマディーナとハイールの会頭が選出された。同国には商工会議所が32か所あるが、ジェッダ、リヤド、東部地区(ダンマン・アルコバール)の3商工会議所の勢力が圧倒的に強い。したがって連盟会頭は慣例的にこれら3つの商工会議所の会頭が持ち回りで務めてきた。彼らは当然のことながら有力財閥の当主である。

 

ところが新しい連盟会頭及び副会頭は3つの商工会議所に比べて明らかに格下の商工会議所の出身である。業界単位の団体がほとんどないサウジでは商工会議所が政府と民間の唯一の橋渡しである。ジェッダ、リヤドあるいは東部地区の三大商工会議所が政府との橋渡し役を忌避したと考えられる。政府とはとりもなおさず皇太子のMbSである。大手財閥がMbSに非協力宣言をしたのである。

 

激減する外国からの直接投資

 それは国連貿易開発会議(UNCTAD)が公表するサウジアラビアへの対外直接投資(FDI)流入額が激減していることにも表れている。2015年までほぼ80億ドル台であったサウジへの直接投資は、2016年には75億ドルに減少、2017年はわずか14億ドルにとどまっている(2018年は32億ドル)。直接投資とは外国企業が国内の民間企業と技術・資本提携により投資を行うのが基本である。最近の数値は、外国企業、国内企業いずれもが、サウジ国内への投資に魅力を感じていないことを表している。むしろサウジ向け投資にリスクすら感じているように見受けられる。その最大の要因が皇太子の強権的手法と無謀ともいえるビジョン2030政策に対する懸念ではないだろうか。

 

 さらにIMFが半年ごとに発表する国別経済見通し(World Economic Outlook)によれば、サウジの経済成長率はここ最近連続して下方修正されている。例えば2018年10月版で+2.4%と予測されていた今年(2019年)の成長率は、2019年4月版では+1.8%に修正され、さらに最新の10月版によればわずか+0.2%にとどまる見通しである。サウジのGDP成長率の低下は原油価格の下落が最も大きな要因であるが、相次ぐ成長率の下方修正は国内民間部門の低調もその一因である。外国企業はこれらの経済指標を見て、サウジでのビジネスを再考しつつある。

 

このままではビジョン 2030の失敗確実

 マクロ経済の数値を見る限り皇太子が提唱するビジョン2030の達成は極めて難しい。2030年までにまだ時間があるにせよ、2020年までに達成すべき具体的目標を示したNTP2020(国家変革計画)は達成不可能と言って間違いない。NTP2020が掲げる目標は具体的であり、例えば(1)非石油収入を5,300憶リアルに増加、(2)公務員の給与削減を4,800億リアルから4,560億リアルに削減、(3)ソブリン格付けをムーディーズA1からAa2に引き上げ、(4)非石油部門で45万人以上の雇用創出、(5)非石油輸出を1,850億リアルから3,300憶リアルに増加、等々である。これらの目標が来年達成できると考えるエコノミストはいないであろう。政府自身もそのことを自覚しているのか、最近ではNTP2020の話題に触れなくなった。

 

 ビジョン2030はどうであろうか。脱石油による産業の多角化を標榜して数々のプロジェクトを打ち上げた。その代表的なものが東海岸(アラビア湾岸)の造船・ドライドックプロジェクトであり、あるいは西海岸(紅海沿岸)の巨大リゾート開発計画NEOMである。すでに着工済みで完成の暁には百万人規模の雇用が生まれるという。若者(特に女性)の失業問題に悩む政府はこれらのプロジェクトで若者の期待感を募らせている。しかしサウジの若者たちが炎天下の造船ドックで溶接したり、あるいはリゾートホテルでベッドメーキングやポーターをやれるとはとても思えない。ホテル客にしてもホスピタリティを感じるどころではなかろう。結局ビジョン2030のプロジェクトの多くは失敗に終わること間違いなさそうである。

 

結び:アラムコ株IPOで踏み絵―再び牙をむくか皇太子

 ビジョン2030の中で唯一成功が約束されているのはアラムコIPOであろう。企業価値は皇太子が期待した2兆ドルには及ばず、1.5兆ドル前後とみられるが、政府は個人投資家に各種インセンティブをちらつかせている。一般市民がアラムコ株に殺到することは間違いない(購入資金調達のため他の株を売ったり、自宅を抵当に入れて銀行から借り入れるなどの副作用も出ていると言われる)。

 

 但し一般市民だけでは限度がある。皇太子は国内市場でアラムコ株0.5%を売却するため、裕福な財閥ファミリーに働きかけているようである。しかし皇太子を信用しない財閥はアラムコ株の取得に気乗り薄である。これに対してIPOのスムーズな実現が至上命題である皇太子は再び牙をむきアラムコ株の購入を財閥に強要しそうな雰囲気である。皇太子は財閥の忠誠心の証しとしてアラムコ株購入を踏み絵にするのではないだろうか。

 

以上

 

 

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荒葉一也

Arehakazuya1@gmail.com

 

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