(英語版)
(アラビア語版)
(目次)
第1章 民族主義と社会主義のうねり(3)
019.大西洋憲章(3/3)
こうして戦後の中東でも理想実現に向かって国民国家の独立運動が始まった。その嚆矢が1946年のヨルダン王国及びシリア共和国の成立であった。もちろん両国成立の背景には複雑な事情が絡んでおり、国民国家の独立と単純に割り切ることはできない。しかしあえて単純化するとすればヨルダン王国は英国とアラブの名門部族ハーシム家が結んだフセイン・マクマホン協定の産物であり、シリア共和国はフランスが帝国主義支配の隠れ蓑として作り上げた極めて脆弱な共和国だったのである。
ヨルダン、シリアに続いてこの後中東では次々と国家が成立する。しかしそこにあるのは民族(血)と宗教(心)と政治思想(智)が溶け合うことなく自己主張を重ねる世界であり、さらに米国とソ連の東西対立の代理戦争の世界であった。
(続く)
荒葉 一也
E-mail: Arehakazuya1@gmail.com
(世界ランクシリーズ その5 2023年版)
国連などの国際機関あるいは世界の著名な研究機関により各国の経済・社会に関するランク付け調査が行われている。これらの調査について日米中など世界の主要国及びトルコ、エジプト、イランなど中東の主要国のランクを取り上げて解説するのが「世界ランクシリーズ」である。
第5回のランキングは世界経済フォーラム(WEF)が行った「世界男女格差報告2023 (The Global Gender Gap Report 2023)」をとりあげて比較しました。
*WEFのホームページ:
https://www.weforum.org/reports/global-gender-gap-report-2023
1.「世界男女格差報告2023」について
「世界男女格差報告2023(The Global Gender Gap Report 2023)」(以下「2023年版報告書」)を発表した「世界経済フォーラム」(World Economic Forum, WEF)は、スイスのジュネーブに本部を置く非営利団体であり、毎冬スイスのダボスで行われる「ダボス会議」の主催者としてよく知られている。
「2023年版報告書」は世界146カ国を対象に経済、教育、健康、政治の4つの分野について、世界或いは各国の公的機関が公表する男女別のデータに基づき、それぞれの分野の男女間の格差を指数化し順位付けを行ったものである。
(1)比較対象される分野とその内容
対象とされるのは以下の4つの分野であり、各分野にはそれぞれ二つ乃至五つの比較項目がある。
I 経済参画分野:経済活動への参加度及び参画の機会(Opportunity)に関する男女格差
比較項目:(1)労働参加比率、(2)同一労働賃金格差、(3)平均所得格差、
(4)幹部職比率、(5)専門・技術職比率
II 教育分野:教育の機会に関する男女格差
比較項目:(1)識字率、(2)初等教育就学率、(3)中等教育就学率、(4)高等教育就学率
III健康・寿命分野:健康と寿命に関する男女格差
比較項目:(1)新生児男女比率、(2)平均寿命
IV政治参画分野:政治参画の度合に関する男女格差
比較項目:(1)女性議員比率、(2)女性閣僚比率、
(3)過去50年間の女性元首(首相等)在任期間
(2)指数化の方法と順位付け
146カ国について上記四つの分野の各比較項目に関する男女それぞれの数値或いは比率のデータを抽出し、この男女のデータについて男性を1とした場合の女性の指数を算定する。この指数の意味は、指数1の場合男女が完全に平等であることを意味しており、指数が低くなればなるほど男女の格差が大きいことを示している。なお項目によっては女性が男性を上回り、単純計算した指数は1を超える場合があるが、このレポートでは格差指数1が最大値とされている。
各比較項目の指数を加重平均したものがその分野の指数となる。更に4つの分野の指数を加重平均したものがその国の格差指数として146カ国の指数を上位から順に総合順位を付けたものである。
(続く)
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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(アラビア語版)
(目次)
第1章 民族主義と社会主義のうねり(2)
018.大西洋憲章(2/3)
1941年、米英が宣言した「大西洋憲章」は全文8か条で構成されているが、その第一条から第三条には次のように記されている[1]。
一、兩國ハ領土的其ノ他ノ増大ヲ求メス。 (領土拡大意図の否定)
二、兩國ハ關係國民ノ自由ニ表明セル希望ト一致セサル領土的變更ノ行ハルルコトヲ欲セス。 (領土変更における関係国の人民の意思の尊重)
三、兩國ハ一切ノ國民カ其ノ下ニ生活セントスル政體ヲ選擇スルノ權利ヲ尊重ス。兩國ハ主權及自治ヲ強奪セラレタル者ニ主權及自治カ返還セラルルコトヲ希望ス。 (政府形態を選択する人民の権利)
第一次世界大戦後のヴェルサイユ体制(パリ講和会議)はそれまでの植民地主義、帝国主義さらに敗戦国に対する制裁や懲罰的賠償と言った旧来の方式が色濃く表れた。オスマントルコ帝国に対しては同国が支配していた現在のシリア、レバノン(いわゆるレバント地方)及びヨルダン、パレスチナ、イラク等の中東地域を前者はフランスが、そして後者は英国が植民地支配する体制となった。これは第一次大戦中の1916年に両国(及びロシア)が締結したサイクス・ピコ協定に基づくものである。
またドイツに対しては領土割譲と共に厳しい再軍備規制が課せられた。しかしそのことがかえってナチス・ドイツを生む原因となりわずか20年後に第二次世界大戦が発生したのである。大西洋憲章はこの失敗を教訓としたものであり、政治、外交に対する米国の建国以来の(そして75年後の現在も変わらない)理想主義を高らかに歌い上げたものである。
(続く)
荒葉 一也
E-mail: Arehakazuya1@gmail.com
[1] 東京大学東洋文化研究所 田中明彦研究室 日本政治・国際関係データベースより
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/docs/19410814.D1J.html
(石油関連ニュース)
原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil
(中東関連ニュース)
・インド首相、エジプト訪問。戦略的パートナーシップ協定締結。
・韓国現代重工エンジニアリング、50億ドルのサウジ石化プラント受注。
(英語版)
(アラビア語版)
(目次)
第1章 民族主義と社会主義のうねり(1)
017.大西洋憲章(1/3)
戦争の当事者たちはそれぞれに戦争開始直後から戦争が終結した場合の戦後新秩序について構想を練るのが常である。それは一対一の国同士の場合は敵国領土の自国への編入或いは敵国にいかほどの賠償を支払わせるかと言うことであったが、第一次大戦、第二次大戦の両大戦では戦後世界をどうするかと言う地球的規模の新秩序の構想がそれに加わった。
第二次世界大戦を例にとれば開戦直後もしくは勝敗の決着がつく前の段階で連合国側及び枢軸国側双方に戦後構想があったはずである。しかし結果は戦勝国となった連合国の描いた戦後世界秩序がすべての始まりとなった。当然のことながら日独伊の枢軸国が描く戦後像は闇に葬られた。と言うより戦勝国である連合国側が痕跡をとどめないまでに抹殺したと言うべきであろう。
それでは連合国側の戦後構想とはどのようなものであったろうか。それは1941年8月、ルーズベルト米国大統領とチャーチル英国首相が宣言した「大西洋憲章」に始まる。英国とフランスがドイツ第三帝国に宣戦を布告し第二次大戦がはじまった1939年から2年後のことである。因みに当時の米国は英仏を側面支援していたものの参戦していたわけではない。米国が日独伊の枢軸国に正式に宣戦布告し、連合国の一員として正面に立ちはだかったのは同年12月7日に日本軍が真珠湾を奇襲攻撃した翌8日である。
(続く)
荒葉 一也
E-mail: Arehakazuya1@gmail.com
6/19 出光興産
次世代電池(全固体電池)向け固体電解質 供給能力の増強決定
https://www.idemitsu.com/jp/news/2023/230619_2.html
6/22 コスモエネルギーホールディングス
第8回定時株主総会の結果及び当該結果に伴う当社の株券等の大規模買付行為等に関する対応方針の限定的継続に関するお知らせ
https://www.cosmo-energy.co.jp/ja/information/press/2023/230622-01.html
6/22 INPEX
中東地域初となるVLGC向け船舶バイオ燃料供給の実施について
https://www.inpex.co.jp/news/2023/20230622.html
6/22 Chevron/三井石油開発
MOECO and Chevron to explore advanced closed loop geothermal pilot in Hokkaido Japan
https://www.chevron.com/newsroom/2023/q2/commencement-of-pilot-tests-of-new-geothermal-technology-with-chevron-in-japan
(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0579OilSupplyByOpecPlusJune2023.pdf
2.目標生産量と実生産量の乖離(続き)
(3)目標を無視する(?)ロシアの生産量(図2-D-55参照)
昨年10月のロシアの生産量は11,050千B/Dであり目標値11,004千B/Dとほとんど差が無い。つまりロシアはOPECプラスの決定に忠実であったことがわかる。しかし、OPECプラスが11月に▲2,000千B/D減産を決定して以降、同国の石油生産量は真逆の動きを示している。即ち、11月の実生産量は目標を742千B/D上回り11,220千B/Dを記録している。その後同国は2月に▲500千B/Dの単独自主減産を打ち出したにもかかわらず11,000千B/Dを上回る生産を続けており、3月にはついに目標値を1,122千B/Dも上回る始末である。
ウクライナ紛争に伴う経済制裁により同国の欧米先進国向け輸出はほぼストップしているが、世界の大半の国はロシア原油の輸入を継続しており、中国、インドなどはむしろロシア原油を買い叩き輸入量を増やしている有様である。ロシアは戦費調達のためダンピング輸出を余儀なくされているが、現在のところ輸出先に困っているようには見えない。困惑しているのはむしろ経済制裁の効果があらわれず焦っている欧米先進国の方なのかもしれない。
(4)スウィングプロデューサーの役割を押し付けられたサウジアラビア(図2-D-2-51参照)
目標生産量を達成できないアフリカ産油国と目標を無視して高レベルの生産を維持するロシアに挟まれ、結局OPECプラス20カ国の中でスウィングプロデューサーの役割を押し付けられているのがサウジアラビアである。
昨年10月の同国の生産量は10,861千B/Dであり、ほぼ目標生産量11,004千B/D通りである。▲2,000千B/Dの協調減産後も目標達成率は99%程度で推移しており、▲500千B/Dの自主減産を公表した5月も実生産量は目標値と全く同じ水準に抑えている。
財政に余裕があり生産量の調整が容易だからこそ心ならずもスウィングプロデューサーの役割を引き受けているのが現在のサウジアラビアの姿と言えるであろう。
(5)将来の増産計画を認めさせたUAE(図2-D-2-54参照)
UAEの実生産量は目標生産量のほぼ100%である。つまりUAEはOPECの盟主サウジアラビアの方針に忠実であるように見受けられる。しかし詳細に見ると毎月の生産量が当該月の目標生産量をごくわずかながら上回っていることがわかる。
即ち昨年10月は目標3,179千B/Dに対し実際の生産量は3,187千B/Dであり、わずかではあるが実生産量が8千B/D上回っている。しかし11月以降目標量が3,019千B/Dに下方修正されると、実生産量も下がったものの、目標に対する超過量は2万乃至3万B/Dに拡大している。
これは何を意味するのであろうか。現在のUAEは増産計画に熱心であり、将来の生産能力アップをアピールしている。そのために現在の目標量を上方修正したいのである。この作戦は成功したようであり、6月のOPECプラス会合でUAEの現在の生産目標量2,875千B/Dは来年1月以降344千B/D上積みされて3,219千B/Dに見直されている。
(6)協調減産を免れ増産に余念がないイラン、ベネズエラ、リビア
(図2-D-2-06, 2-D-2-07及び2-D-2-08参照)
冒頭で触れたようにOPEC加盟国13カ国のうちイラン、リビア及びベネズエラの3カ国は協調減産に参加していない。米国および一部先進国による経済制裁を受けているためである。ところがイラン及びベネズエラはOPECプラス20カ国が協調減産体制に入った昨年10月以降、逆に増産を続けており、リビアも減産傾向が見られない。
イランの場合、昨年10月の生産量は2,557千B/Dであり、今年1月は2,554千B/Dであったが、4月には2,619千B/D、さらに5月には2,679千B/Dに上昇している。昨年10月に比べ生産水準は10万B/D以上アップしているのである。
ベネズエラもほぼ同様の傾向を示しており、681千B/D(10月)→691千B/D(1月)→726千B/D(4月)→735千B/D(5月)であり、今年5月は昨年10月に比べ5万B/Dの増産である。リビアは政府系と反政府系軍事勢力の対立で国内情勢が不安定であるが、石油生産は昨年8月以降110万B/Dを超えて安定している。
3か国はいずれも欧米先進国の輸入禁止の網の目をくぐり、中国、インドなどにダンピング輸出を行っている。OPECプラス20カ国が現在野放しの3カ国を今後どのように扱うか。深刻な問題を提起していると言えよう。
以上
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前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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(目次)
プロローグ(16)
016.三枚舌外交の本質
以上の三つの約束をごく下世話風に言うとすれば、「戦争に必要な金を貸してくれればお前たちが望んでいる『約束の土地』パレスチナにユダヤの国を造らせてあげよう」と言うのがバルフォア宣言であり、一方「お前たちアラブ人がオスマン・トルコの後方を攪乱してくれれば、武器弾薬と必要な金をやろう。そして戦争が終わったらアラブ人によるカリフ制イスラム国家を造ることを認めよう」というのがフセイン・マクマホン書簡である。そして残る一つは、「戦争が終わればレバント地方を英仏2カ国で山分けしよう」と英国とフランスが地図上に線を引いたのがサイクス・ピコ協定であったと言えよう。この三つの約束が将来の紛争の種になるであろうことは誰の目にも明らかであったが、英国は当座の戦争に勝つことこそが目的であり、その後のことはその時になって考えれば良いというその場しのぎのご都合主義外交なのであった。
英国及びフランスにとって3つの約束事の優先順位は、サイクス・ピコ協定が最優先であり、バルフォア宣言がこれに次ぎ、フセイン・マクマホン協定は最も優先順位が低かったことは第一次大戦後の歴史を見れば明らかである。そこでは中東地域の主役であるはずのアラブ・イスラームの人々の意向は全く無視され、アラブ・イスラームの人々は英国とフランスの西欧列強に食い物にされた。それが第二次大戦後、今に続く中東の混乱の遠因なのである。
(続く)
荒葉 一也
E-mail: Arehakazuya1@gmail.com